プレゼンでは直立不動の話し方より適度なジェスチャーを交える話し方が必要です。ジェスチャーとは何かやよく使われるジェスチャーをここで理解しておきましょう。
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(トータル時間 (13:05)
〜聞き手の目をコントロールする「3S」(07:38)
手による基本のジェスチャー〜(05:27)
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内容を補強し、聞き手の耳目を惹きつける
プレゼンテーションは伝えたいことを印象深くし、聞き手の心に残る伝え方が必要です。そのためにはコンテンツだけでなく、共感を生み出し、聞き手の潜在意識に働きかける仕掛けを意図的に行う必要があります。そこで伝えたいメッセージや内容を聞き手に伝達するための「伝え方」「表現方法」を磨いておくべきです。まず話し方や声、表情や視線が重要ですが、言葉の内容を補強して伝え、聞き手の耳目を惹きつける役割をするジェスチャーや動作についても意識的に身につけ、磨いていきましょう。このページでは。知っておくと必ず役立つジェスチャーや動作についてお伝えします。
ジェスチャーの意味
ジェスチャーとは非言語コミュニケーション要素のひとつで、主に身体を使った動作を言います。ボディランゲージとよく同一視されますが、ボディランゲージのほうはより多くの要素を使った広い範囲の表現を指すことが多いです。ここではあまり厳密に違いを言わず、言葉の補強をしたり、言葉によらない表現をするための身体動作を「ジェスチャー」と表現し、一部ボディランゲージ的な動作を含めて、主に手と腕の動き、姿勢、移動などについて説明します。
ジェスチャーの種類
ジェスチャーと言う言葉からは大げさに手を動かしたり、何かを具体的に表すなどの動作を連想する人が多いです。それもジェスチャーの種類ですが、ジェスチャーの種類は大きく5つに分けられると言われています。
1 表象動作=特定の言葉の代理をするもの。野球などでのサイン、称賛するときの拍手など
2 例示動作=言葉に付随してそのメッセージを説明するもの。「これくらいの大きさの」と言いながら手で大きさ形を表す、「違います」というときに首を横に振るなど
3 感情の表出動作=メッセージを込めた顔の表情。表情での喜怒哀楽など
4 言話の調整動作=コミュニケーションのコントロールのための微妙な動作や姿勢変化、視線など
5 適応動作=無意識のクセや心理の影響による動作や姿勢変化、視線など
これらは特に覚える必要はありませんが、このうちプレゼンテーションに関係するのは、主に2,3,4、ととらえておいてください。
手による表現ゾーン
手はジェスチャーの中心となるパーツです。その手の位置によっては話の内容のインパクトの強さや話し手から聞き手に伝わるエネルギーに違いが出ます。ここではそんな手の位置が示す「ゾーン」について説明します。場面によって使い分けてください。また、肩回りなどを柔軟にし、手を柔軟に動かせるようにしておきましょう。
1)おへそあたりから下のゾーン
目立たず、積極的な表現には向かない位置です。話の途中に資料を確認するなど隠れて何かを行うのに適します。このゾーンからあまり手を動かなさいことは「クローズドポジション」をとっていることと同様となり、聞き手があまりひきつけられない動きのとぼしいプレゼンとなる恐れがあります。
2)おへそから胸くらいまでのゾーン
手の動きの中心となるゾーンです。ちょうどよいポジションとして聞き手に安心感を与えやすく動きも見せやすいため、話している間はできるだけこのあたりの位置に手があるように意識してください。
3)胸から肩にかけたゾーン
このゾーンで手を見せようとすると腕周りの動きとなるため、やや派手でインパクトのある手の動きとなります。人の注目を集めたいときはこのゾーンを意識します。例えば、スライドを指し示すときに2のゾーンでの動きとこのソーンでの動きの違いを使うと、話にメリハリが出ます。
4)頭部あたりから上のゾーン
3よりさらに大きな動きとなり、最大のインパクトを持たせられるゾーンです。聞き手の数が100人以上など会場の規模が大きいときにはこのゾーンも使うことも意識しておきます。
このジェスチャーを覚えよう
ここからは、知っておいていただきたいジェスチャーをご紹介していきます。ぜひ覚えて実践していってください。
表情での感情表現
話し手の表情は聞き手の数が増えれば増えるほど視認しにくいものではありますが、人の情動に強く働きかけるため、ストーリーテリングの欠かせない要素です。ここでは、表情学の権威であるエクマンが調査の結果「世界共通の表情」と説明されている表情を表情筋の動きを中心に説明します。実際に自分の顔を動かしてみて感情表現する練習をしてみてください。
喜び=目を細める、目じりにシワ、口元が上がる、鼻と口の横に溝ができる
嫌悪=眉間にシワ、鼻下にシワ、アゴ先にシワ
驚き=額を引き上げる、目が大きく見開かれる、口が開く
悲しみ=額にシワ、眉が内側に寄せられる、口角が引き下げられる、アゴ先にシワ
怒り=眉が強く引き下げられる、眉間にシワ、鼻に横シワ、下唇が下に引き伸ばされる
恐れ=目を見開く、眉が内側に引かれる、口角が横に引かれる
姿勢を使った表現
他のページ「信頼と親和」でお伝えしました、左右対称・非対称で話の内容のトーンを伝え、聞き手の集中力を上げるやり方です。
聞き手の目をコントロールする「3S」
「3S」とは「Show(見せる)・See(見る)・Speak(話す)」の頭文字をとったもので、聞き手の目をコントロールする手法を表しています。
話している最中のアイコンタクトが重要であることはすでにお話しましたが、聞き手が話し手をいつも見てくれているとは限りません。メモを取っていたり、手元の資料を見ていたりするからです。こんなときに、聞き手の目をコントロールするのが「3S」という3つのステップです。聞き手に必要なタイミングでスライドやホワイトボードを見せたいときの基本のジェスチャーです。聞き手の集中力が薄らいできたと思うときにも使うようにすると、集中力が戻ってきます。
ステップ1「Show」(見せる)
まず見てほしいスクリーンを手で指し示し、自分もそのスクリーンを見ながら「こちらをご覧ください!」と声をかけます。ほとんどの人が指し示した手の方角に目をやり、スクリーンを見ます。
ステップ2「See」(見る)
聞き手のほうを見ます。このときは誰か一人をフォーカスしてアイコンタクトをしましょう。聞き手の目が無意識のうちに話し手に移ります。
ステップ3「Speak」(話す)
聞き手の目をひきつけたら、アイコンタクトをしながら話します。ワンセンテンス・ワンパーソン、ジグザグを意識しましょう。
何度かこの3ステップを使うたびに聞き手が訓練されてきて、話し手の指示にしたがいやすくなります。
手による基本のジェスチャー
話している間、手をじっと動かさなかったり、手を組んだまま話し続けたりするのは、プレゼン全体の魅力を損ね、伝えたいことが伝わりにくくなります。しかし、だからといって振り付けのような大げさなジェスチャーはいりません。
必要なのは自然な手の位置や動きで、話し手の自信や頼りがい、知性などを印象づけることです。世界のスピーカーが身に着けている基本のジェスチャーをここで理解しておいてください。
1 ボール
バスケットボールくらいの大きさのボールを両手で持っているようなしぐさ。自信や物事をコントロールする力を感じさせる。
2 ピラミッド
両手のひらを内側に向け、親指だけやや離して、全体的に三角を形作る。リラックスした雰囲気を生むしぐさ。
3 アップ
両手を広げ、手のひらを上に向ける。オープンさや誠実さを感じさせるしぐさ。
4 ダウン
両手を広げ、手のひらを下に向けて軽くおさえるように動かす。強さや落ち着きを感じさせる。言い聞かされているようなプレッシャーを無意識に感じさせる。
5 YOU & ME
聞き手を表すときは、手のひらを広げ、聞き手のほうへ動かす。聞き手に質問を投げかけるときや聞き手への関連性を意識付けたいときなど。
自分を表すときは両手または片手を胸当たりの位置にして手のひらを自分に向ける。単純に自分について話すときや、自分の個人的見解であることを強調するときなど。
6 プレケイター
両手を広めに左右に広げ、手のひらを上にしたしぐさです。相手への尊重や献身、相手にゆだねることを意味しています。話し手の柔らかく謙虚な印象を聞き手に与えます。提案を受け取ってほしいという気持ちを表すのに適しています。
7 ブレイマー
何かを指さすように人差し指を出し、手全体に力をこめたり、強く下に振るような動きをします。問題点を強調したり、問題の原因を非難したりするときによく使われます。話し手が自分の意見に確固たる自信を持ち、聞き手に対して強く訴える役割をする力強く自信のある印象のジェスチャーです。
8 コンピューター
片手の上にもう片方の手をおき、その手でアゴあたりを触るしぐさです。聞き手に対して理論的で客観的な印象を与えます。理論や情報の信頼性を伝えたい場面で効果を発揮します。
いずれも簡単なしぐさですが、急にはうまくできません。日ごろから肩の周りを柔軟にし腕の曲げ伸ばしを行うなど動きやすい身体にしておくことがまず大事です。また、TEDや米国の政治家のスピーチなどにはこれらのジェスチャーがよく出てきますので、見て感覚をつかんでいくのもよいでしょう。
ポジションとアンカリング
ポジションとは話し手の位置、アンカリングとは錘(おもり)のことですが心理学用語で条件付けをすることである状態を引き出すようにすることです。ここでは、話し手が場所を移動することによって、何について話しているのかを聞き手がわかりやすくするテクニックとしてお伝えします。このテクニックは大きなスクリーンのあるステージで動きながら話をするようなアクティブなプレゼンテーションに向いています。
(ポジション)前後 × (アンカリング)全体の概要と詳細
やや奥まった場所のスライド前で全体の概要について話します。例えばSDSのサマリー部分、PREPのポイントをまずすべて言うときなどです。(SDS、PREPについては他の回で詳しく説明しています)。
それぞれの詳細や具体的な説明をするときは、一歩前に出て話すようにし、全体の概要について話すときは一歩後ろに戻るという風に、前後の位置を「全体」「詳細」と分け、聞き手が無意識に区別できるようにします。
この場合、前に出るときはやや早く、戻るときはややゆっくり目に動き、条件付けを強めましょう。
(ポジション)左右 × (アンカリング)時間の推移=過去~未来
ほぼすべての人間が左側を過去、右側を未来という時間で見ます。グラフなどでも時間は右の方向に進み、その逆はありません。これを利用して、聞き手にとってステージ左側にいるときには現状のことや過去の出来事について、右側に移動するときには未来像について話します。(聞き手から見た方向ですので、話し手にとっては逆で、右が過去で左が未来となります)
例えば何か現状問題を解決するための提案であれば、現状の問題やひどさを左側で訴え、提案の中身を簡単に話しながら右側へ移動し、あらためて右側にきちんと立って提案採用後の明るい未来について描写する、という方法です。生来人間が持っている時間間隔とポジションを合わせて、物事の流れを聞き手にとってよりわかりやすく説明することができます。
なお、この方法は話し手が演台などにある程度固定される場合でも、腕を広げて方向を指し示すことにより、効果的な話し方をサポートすることができます。
いかがだったでしょうか。情報としては多かったと思いますが、すべてを急にやろうとせず、少しずつ取り入れていってください。練習するときはちゃんと鏡を見てどのように見えるかを確認してください。
少しずつ慣れるようになることで自然にできるようになります。