感覚の使い方と同様、「何が動機づけになるか」も人それぞれ違いがあります。ここでは「メリット」に注目して、人の違いへの配慮の仕方を理解しましょう。
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「行動の動機づけ」メリットの感じ方にはタイプがある
この前の回では下記についてお話しました。
●相手の「VAK」タイプ=優先して使う感覚器官の違いによって理解しやすい情報形態も違う、ということ
●上の違いに着目して、相手により伝わりやすい情報になるよう配慮することで、コミュニケーションの質が高くなる、ということ
今回は、やはり人のタイプとプレゼンテーションでのコミュニケーションについてのお話です。今回は「メリットの感じ方」のタイプです。メリットの感じ方とは、「どのようなことが『行動しよう』と思わせるきっかけになるか」つまり、「行動の動機付け」です。何によって行動が動機づけられるかには、人による違いがあり、その違いに配慮した話し方ができると、人を動かすプレゼンができるようになります。
プレゼンでは、相手に何かの行動を促すことが多いと思います。例えば、何かを身につけてもらう、新たな習慣を始めてもらう、募金してもらう、何かを買ってもらう、契約してもらう、などの行動です。それには相手にその行動のメリットを感じてもらうことが大切です。「この人が言っている通りにすると良いことがある」とわかってもらえば、相手にとってその行動をする理由になります。
その時に相手がメリットを感じやすいのは、「〇〇できる」ことでしょうか、それとも「〇〇しなくてすむ」からでしょうか。これが今回の「行動の動機づけタイプの違い」となります。
「目的志向型」と「問題回避型」
人は何を引き金に行動を起こすのか、を考えたときに、人によって大きな「方向性の違い」がある。ーーーこれを研究したのは カナダのサクセス・ストラテジー社代表でありコミュニケーションやプレゼンテーションのコンサルタントであるS.R.シャーヘイ氏です。
この方向性の違いは。「目的志向型」と『問題回避型」と名付けられています。この2つの違いを知り、人のタイプを見抜けるようになると、説得力が強くなります。「行動したほうがいい理由」を相手が望む言葉にして説明できるようになるからです。
まず2つのタイプの特徴を説明しましょう。
目的志向型
どんなタイプか
目標を持ち、それを達成することにやる気を感じる。
どんな言葉に反応しやすいか
「達成」「到達」という言葉に反応しやすい。「〇〇したい」「〇〇を手に入れたい」と考えることによって行動を起こすので、「~したら、〇〇できる」「~したら、〇〇が手に入る」という言い方が向く。
問題回避型
どんなタイプか
好まない事態を避けられる可能性や、問題を回避できる可能性に行動を促される。
どんな言葉に反応しやすいか
問題点を指摘し、「行動しないと、その問題が起きますよ」という望まない未来を提示されるか、「行動すると、その問題を回避できます」と望む未来を提示されることで反応する。「〇〇したくないなら~しなさい」「~すれば、〇〇しなくてすむ」という言い方が向く。
例えば、目的志向型の人に「~すれば、〇〇の心配はありません」という言い方をすると、「はあ、別に心配はそれほどしてないですけど」とつれない反応が返ってきたりします。逆に、問題回避型の人に「~すれば、〇〇が手に入りますよ」と持ちかけても、「はあ、別にそれほど欲しくないです」という反応になりそうです。
あなた自身はどちらのタイプでしょうか。人は自分の感性でモノを言うことが多いものですが、自分の感性にしたがって、あなたと反対のタイプの人を説得しようとしても説得力を持たない可能性があります。人に何か説得を試みて「反応が薄い、かみ合わない」と思うときには、このタイプの違いが影響しているかもしれません。
タイプに配慮したプレゼンテーションでの工夫
シャーヘイ氏の調査では、この二つのタイプが混合している人は調査対象の20%で、あとはそれぞれが40%ずつに分かれたそうです。つまり、この2つのタイプは、割とはっきり分かれており、ほぼ同じくらいの割合で存在しているということです。そう考えると、プレゼンにおいて常態的に2つのタイプに配慮する意義はあります。それでは、どのような工夫をすべきでしょうか。以下、その工夫方法を考えてみましょう。
両方の表現を入れる
プレゼンでは、複数の人を相手にすることがほとんどです。ですから、どのタイプにも受け入れやすいように両方の表現を用います。
例えば、あなたがする何かの提案を受け入れてもらうために、受け入れた場合のメリットやベネフィットを説明しますね。この説明でどちらか一方向けの言葉になっていると気づいたら、もう一方向けの言葉で補足しましょう。多くのブレット(箇条書き表現)で表現するときには、同数ずつ入れるようにするといいでしょう。
例1:もう一方向けの言葉で補足
「~すれば、〇〇という理想の状態が手に入ります(目的志向型の表現)。
つまり、それは〇〇という避けたい状況を回避できる(問題回避型の表現)ということでもあります」
例2:同数ずつ入れる
メリットにはこのようなものがあります
・○○ができるようになる(目的志向型の表現)
・○○が手に入る(目的志向型の表現)
・○○しなくてすむ(問題回避型の表現)
・○○を避けられる(問題回避型の表現)
相手のタイプで使い分ける
少数のプレゼンや、キーパーソンがはっきりしている時などは、会話から目指す相手のタイプを見極めて言葉を選ぶこともできます。相手が使う言葉や見せる行動で相手のタイプを見極める方法を覚えておきましょう。以下のような言葉や行動を会話中に相手が示したら、試しにそのタイプが好みそうな言葉に変えてみてください。相手に何らかの反応があれば、効力があったサインです。
目的志向型
<言葉の特徴>
「~すれば、〇〇できる」「〇〇が手に入る」「ゴール」「目標」など、所有したり自分のほうに受け入れるような言葉をよく使う
<行動の特徴>
何かを指さす、強くうなづく
問題回避型
<言葉の特徴>
「~したくない」「~しないようにしたい」「~はだめなので」など問題や避けたい状況を意識した言葉が多い。目標を聞いても「~しないようにすること」と問題を避ける言い方になりがち。
<行動の特徴>
くびを横に振る、何かをよけたり避けたりするジェスチャー
いかがだったでしょうか。このタイプの違いに配慮すると、プレゼンテーションやセールスで意外に大きな効果があります。ぜひ試してみてください。