デリバリーにおける話し方の緩急のつけ方です。この二つを使い分けると、バランスが良い話し方になります。
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「ラポール」はこの二つのバランスが重要
さて、「本質的に、話し始めに必要なのは『ラポール』」と先にお伝えしました。
「ラポール」とは、人と人とが「親しく感情がかよいあう状態」です。 お互いにある程度心を許した状態とも言えます。スピーチやプレゼンの場合では、聴き手が話し手に「どんな話かな」という好意的な期待感や「きちんとしたことを言いそうだ」という信頼感を感じている状態、そして親しみに似た気持ちを抱いている状態であると言えるでしょう。
話始めに、聴き手とラポール形成することを意識できているのとできていないのとでは、聴き手の態度がまるで違ってきます。よく、「話の上手い人は聴衆を味方につけることができる」と言いますが、ラポール形成はまさに「聴衆を味方につける」ために行うことです。
「同意を得る」というプロセスが重要であるのも、ラポール形成にかかわることだからです。この回では、もう一つラポール形成に必要な「信頼」と「親和」のバランスについてお話しします。
緊張ばかりは疲れる、ゆるいだけでもダメ
「オーソリティ(あなたがそれを話す理由、資格、必然性)」を示すのが重要であることも前述しましたが、それは話し手はまず聴き手に自分への信頼を感じさせることが必要だからです。そして、信頼感は話し手からの言葉だけでなく、話し手の態度からも聞き手に伝わるものです。
しかし、話し手が自分の「信頼感」を高めようとするあまり、しっかりと真面目な話し方に徹してしまうと、聞き手の心は動きません。そういう話し手には足りないものがあるからです。それは「ほっと一息つくところ」です。まじめで堅い様子だけでは、緊張を強いられるばかりで聞き手が疲れるのです。
ただまじめで面白味がない様子の人に「この人の話は信頼できそうだ」と人は感じるでしょうか。あまり感じない人が多いでしょう。あるいはカツゼツ良くなめらかな話し手であっても、その人の話があまり心に響かないと感じる人は少なくありません。そのような話し方は緊張感を伴うのです。
しっかりした信頼のおける話し方は重要ですが、やはり適度な息抜きがどこかで必要なのです。ですから、聴き手をほっとさせる「スキ」や「ゆるさ」も見せて、空気を緩和するタイミングを挟み込むことを意識しておかなければなりません。そのようなタイミングがあると聞き手は話し手に尊敬を感じるだけでなく、ちょっとした親しみや共感、つまり「親和性」を覚えやすくなります。まだ、少し気を緩めるタイミングがあるからこそ、真面目な話が戻ってきたときに、また話の内容に集中しやすくなるのです。
聞き手をドライブできる話し手は、「信頼」と「親和」のバランスを取ることが上手です。このバランスを話し方のテクニックとして意識しておくと、人を動かす話がしやすくなります。
「バランスを取る」ためには、「親和」が多すぎてもいけません。話し方は面白くて親しみを感じるが、そのせいで真面目に話しているように聞こえないことが多い、というケースです。これはこれで、話す内容に集中してもらえず、面白かったが何も残らなかったという結末になりかねません。こちらは逆に、緊張感を伴って大切なポイントを伝えるように話し方を工夫し、内容を引き締めるべきでしょう。
話している最中は「信頼と親和」のバランスは意識すべきことです。意識して話し方を磨いていきましょう。
そのための方法としては、ちょっとした笑い話のエピソードを用意して、話の折々にちりばめることも効果的です。ここからはそれ以外に聞き手の無意識に働きかけるための「信頼」と「親和」の表現テクニックを理解しておきましょう。
信頼と親和 表現テクニック
ここからは「信頼」「親和」の演出に役立つテクニックをお伝えします。身に着けておくと、必要なときの雰囲気の切り替えに役立ちます。
立ち方の対称・非対称
「姿勢」によって人に与える印象は変化します。
まっすぐの姿勢できちんと立ち、足を揃えて話している姿は「信頼」を強く感じさせ、聴き手に一定の緊張感を与えます。いっぽう、どちらかの肩が下がっていたり、どちらかの足に重心がかかっていたりするなど、曲がった立ち方をしている姿は「親和」を強く感じさせ、聴き手に親しみを感じさせ緊張を緩めます。
以下の印象変化を知っておいてください。
●左右対称の立ち方・動作 =信頼を演出
●左右非対称の立ち方・動作=親和を演出
重要なポイントを話すときは「信頼=左右対称」、余談やエピソードなどの軽い話題の時には「親和=左右非対称」という使い分けができます。
日頃きちんとした印象を与えやすいタイプか、明るく元気と言われやすい人か、あなたがどちらのタイプなのかによって、意外性がある印象の立ち方を意識してデリバリー(話す態度や様子)に入れてみてください。「掴み」や「話の効果」が違うはずです。
表情の「信頼と親和」
表情やアイコンタクトは信頼と緩和では以下のような使い分けができます。
「信頼」が強い表情は、アルカイックスマイル、目をしっかり開けるが、眉の表情はそれほど強く使いません。口角を上げた安定感のある表情を保ちます。
いっぽう「親和」を感じさせるのは、親しみやすいハーフスマイル、眉を上下させる表情が加わるデビルスです。総じて表情は豊かとなります。
口調による変化
「信頼」を感じさせる口調は、低めゆっくりな声で冷静に淡々と語るような口調です。基本構文の順序にしたがった話し方です。抑揚はやや抑えめになり、また通常の話し方のように語尾はトーンが落ちます。
(例)「~は~~だから、~です。」
いっぽうで「親和」を表現するような口調は、抑揚が強くなり、語尾は質問しているかのように上がります。声は比較的高めで、ミドルテンポ~やや早めくらいです。また、倒置文のように、順序が入れ替わったような文章も多く用いられます。
(例)「~は~~ですよね? ~~だからなんですよね!」
ジェスチャー
「信頼」ではジェスチャーはそれほど使わず、用いるときには前から見て左右対称の動きを意識します。
「親和」は比較的手などを大きく動かし、左右非対称な動きとなります。
いかがでしょうか。ちょっとした立ち方や様子の違いで雰囲気の演出が可能で、またそれによって聞き手をドライブすることが可能なのです。日本人は自分で「表現力に乏しい、動きが下手」と言いますが、上記のような演出から試みると自然な動きで、聞き手をつかみ内容を伝えやすくなります。