イントロダクションの要になる部分です。しっかり理解して準備しておきましょう。
AUDIO
(トータル時間 (13:13)
〜まず登壇から気をつける(07:11)
オーソリティーをうまく示すコツ〜(06:02)
TEXT
自己紹介とともに、あなたの話を聞く必然性を明らかにする
もし、知らない人があなたに向かっていきなり話し始めたら、あなたはどう思うでしょうか。驚くのと同時に、「誰?」「何のつもり?」と思うのではないでしょうか。
もちろん、ふだんであれば、こんな人はきっといません。しかし、プレゼンテーションやスピーチなとの場合になると、いないこともないのです。
例えば、このような人は結構います。
●司会者から簡単に紹介されたまま、「では始めます」といきなり話し始める講演者。
●営業プレゼンで「あ、どうも。○○社の○○です。今日お伝えするのは・・・」と本題に突入する会社員。
プレゼンテーションやスピーチでは、自己紹介もろくにせず、いきなり話し始める人はけっこういます。これは、話し手本人は「自分のことを知っていてとうぜん」と思い込んでいるからです。別に「自分は有名人だから皆が知っているはず」などと自惚れているわけではありません。スピーチであれば、その前に司会者などからある程度は紹介されているだろうし、顧客を前にしてのプレゼンであれば自分が「○○社」の人間であることは明らかです。だから、自分が誰であるかの情報は皆が先に知っていると思うのは無理からぬことです。
しかし、そのような情報だけでは不十分です。聞き手は最初ニュートラルな状態です。それほど強い関心をもって話し手を見ていないので話し手についての情報もそれほど熱心に聞いておらず、したがってあなたの話を聞く必然性もそれほど感じていません。ここで大切になるのは、あなた自身がちゃんと自己紹介するとともに、あなたの話を聞く必然性を相手に伝えることです。そうでなければ、あなたはそれほど聞き手の関心をつかめぬままに話を始めてしまうことになるでしょう。話し手に必要なのは、まず自分の「オーソリティ」を明らかにすることです。
オーソリティ=あなたが話す理由や資格
話し始める前に、あなたのオーソリティを明らかにしましょう。それがあなたの話を聞く必然性を聞き手に感じさせる大事なステップのひとつになります。「オーソリティ」の意味は「権威」です。「権威」とは「ある方面で抜きんでて優れていると一般に認められること」ですが、何かを伝える場面では「そのテーマについてあなたが優れている点」であり、人が「あなたの話を聞いた方がいいと感じるための説明」と理解しておいてください。
例えば、何かのテーマについて「すごく詳しい」人がいるなら、その人の話は「聞いたほうがいい」と多くの人が感じますね。「研究して〇年」「論文発表が〇回」「専門書を〇冊」「受賞が多数」などの定量的な説明は十分なオーソリティになるでしょう。また、定量的でなくても、そのテーマに「どれくらい強い関わり合いがあるか」、「どれくらい熱心に関わってきたか」などでも、「それなら聞いてみようか」と聞き手が感じるのであれば、オーソリティになり得ます。
逆に考えてみると、そういったお話が何もなく「○○社、○○長の○○です。では○○についてお話しします」だけでは、聞き手は納得しづらいでしょう。「今からこのテーマについてお話ししますが、私はあなたにこれを伝える十分な理由や資格があります。安心して聞いてください」と暗に説明しておく必要があるのです。
例えば、冒頭で話し手がこう語った、ある営業プレゼンがあったそうです。
「○○社の○○です。我が社ではこの商品について、非常に熱意をもって開発を進めてきました。私もチームの一人として強い熱意を持ってきましたが、最近家庭を持って、『生活者』としてもこの商品の魅力にあらためて目覚めました。開発チームの一員としてだけではなく、一ファンしてもぜひこの商品について皆様によく知っていただきたく思います。では、始めさせていただきます。」
上の言葉に、「何だかぐっと掴まれた」と話してくれたのは、そのとき聞き手であったプレゼンされる側の会社の役員でした。結果としてはその話し手の会社が採用になったそうです。
上の言葉には、「研究して〇年」や「本は〇冊」などの定量的なところはありませんね。しかし、「開発チームの一員としての強い熱意の持ち主」「生活者としてあらためて一ファンとなった人」というポイントは「そのテーマについて話す資格」になり得ます。なぜなら、テーマと話し手の関係が非常にわかりやすく、聞き手に「ちょっとおもしろい話が聞けそうだ」と感じさせるからです。
このプレゼンが通ったのは、商品自体の魅力や条件の魅力が大きかったでしょうが、プレゼンの中身をあますとことなく伝えられたこともあったでしょう。プレゼンのイントロダクションの中のオーソリティは、話の内容に人を引っ張り込むことに効果的なのです。
「あなたの話を聞いたほうがいい理由」、あなたは考えられますか? それがうまく伝われば、聞き手は非常にスムーズに話に入ってきてくれるのです。それが特別な場でなくても、ちょっとしたプレゼンやスピーチには、オーソリティを説明することを忘れないようにしましょう。
まず登壇から気をつける
話し手が見られ始めるのは、聞き手の前に立ってからではありません。「あの人がこれから話す人だ」と聞き手に認識された瞬間から、話し手は見られています。同時にすでに聞き手から「この人の話を聞く価値はありそうか?」という評価も始まっていると思ってください。
プレゼンテーションには「最初のつかみ」が大事で、オーソリティもそのために十分に考えて欲しいわけですが、オーソリティをしっかり準備しても、登壇の様子からそれがまるで感じられなければ違和感になります。登壇の時には以下のポイントに注意してください。
紹介されるとき
名前をコールされるようなときは程よいタイミングで立ち上がって、まず聞き手に自分を見せる意識で立ち上がります。
ベーシックなコースで習った、下記のポイントには特に配慮してください。
<立ち上がり方・姿勢・正面を見せる・アルカイックスマイル>
前に出るとき
「前へどうぞ」と言われたら、それを合図に堂々と歩き始めます。
ベーシックなコースで習った、下記のポイントには特に配慮してください。
<歩き方・正面の意識・アルカイックスマイル・アイコンタクト>
登壇する
前に出てきたら、ここでも自分を見せることを意識して余裕をもっていちど聞き手のほうを見ます。あらためて司会者にお礼を言うのを忘れないでください。
ここで性急に話し始めてはいけません。聞き手と間を合わせるつもりで一呼吸おいてください。
ベーシックなコースやこの講座の他のページでお伝えしている下記のポイントには特に配慮してください。
<ジグザグ・ペーシング・目と表情で開始を告げる>
ノーマルに始めよ
他のページでもお伝えしていますが、変にテンションを高めにしたり、いたずらに大声を出したりせず、ノーマルに話し始めてください。ただし、ノーマルな話し方とは張りがあり明朗な声である必要があります。また表情はアルカイックスマイルまたはハーフスマイルでなければなりません。暗い表情でくぐもった声の話し手は聞き手の聞こうという意欲を下げます。最初の印象は特に気をつけるべきところです。
「オーソリティ」をうまく示すコツ
1.なぜ「私」がこの話をするのか?を整理しておく
なぜあなたは、その話を人にするのでしょうか?なぜあなたがしないといけないのでしょうか。
「頼まれたから」「たまたま順番で」「上司に指名された」・・・現実は、こういった消極的なことかもしれません。でも、そんな「自分でもわからないよ」ということでは、当然人を魅了できませんし、説得もできないのはお分かりですね。
まずあなたが、「なぜ『私が』『このテーマについて』話すのか」について納得しておきましょう。まずあなたは「話したい」のです。「話せる」のです。それがなぜなのか、考えられる理由をピックアップして整理しておきましょう。
2.自己紹介も含めて典型的な流れを作る
オーソリティはあらかじめきちんと考えておき、必要であればスライドなどでもページを用意しておきます。その上で自己紹介などから自然に話していけるようにストーリーを作っておきます。本編への導入の前にきちんとオーソリティを伝えられるようにしましょう。
自己紹介は、名前や社名、ポジションなど属性ばかりを話しがちですが、人は属性ではあまり惹きつけられません。属性は「オーソリティ」を伝えるための予備情報くらいに考えてもいいかもしれません。
いつも流れをワンパターンにする必要なありませんが、あなたの「自己紹介からオーソリティへの典型的な流れ」を作っておきましょう。
3.イヤミにならないように注意を払う
「オーソリティ」は「自慢」のように聞こえるものが多いですから、イヤミにならないように注意したいところです。イヤミに聞こえないように、とるべき方策は3つ。「表情と声のトーン」「クッション言葉やセンテンス」と自分の「つもり」です。
・表情と声のトーン
表情は堂々とにこやかに、そして誠実に。こんなイメージでいてください。うっかりして「ドヤ顔」になってしまうと、台無しです。
(典型的なドヤ顔は、アゴ上げ気味、ちょっと薄目気味で、笑うのを我慢しているような表情です。そんな表情にならないよう代わりにアゴをきちんとおさえ、目をきちんとあけてスマイル、のほうが堂々、にこやか、誠実、な表情になりますよ)
声のトーンは落ち着いていたほうがよいです。低めからミドルボイスくらいがよいでしょう。甲高い声は避けてください。よく「声高に自慢する」という言い方をしますが、声が高くなるとイヤミに聞こえる度合いも高くなります。
・クッション言葉やセンテンス
クッション言葉やセンテンスは言葉の前後に置くことによって、言葉のキツさを和らげる働きをします。例えば下の文例を見て、聞こえ方を比べて見ましょう。
1 私はこの道の権威だと言われます。
2 自慢のように聞こえるかもしれませんが、私はこの道の権威だと言われます。
3 自慢のように聞こえるかもしれませんが、私はこの道の権威だと言われます。しかしそれは私がこのテーマについて、一番良い情報を皆様にお伝えできるということを意味するのです。
いかがでしょうか? 1は聞き方によっては自慢にしか聞こえませんが、2は柔らかい表現になっています。そして3は自慢というより爽やかなプライドとして聞こえ、合わせて「この人の話を聞いたほうがいい理由」になっているため聞き手にとってのメリットも感じられますね。正しいオーソリティの伝え方です。
このような言葉遣いをその場で咄嗟に考えるのは大変です。どんな言葉、センテンスでどう伝えるかは最初から考えておきましょう。
・自分の「つもり」
自分の「つもり」、別の言葉で言えば、自分の「スタンス」は言葉を紡ぎ出すときに意外と重要です。
自分のオーソリティを無意識に「自分の自慢をする」意識で話してしまうと、どうしても聞こえ方はイヤミになりがちです。上に書いた、<自慢ではなく聞き手のメリット>を説明する。そんなスタンスに立って、説明の仕方を考えましょう。
適切な時間をかける
自己紹介とオーソリティ説明の時間はどのくらいが適切でしょうか。これには、話す場においての自分自身の認知度も関係します。誰もがあなたのことを知っていて、待ってました!という状態なら、オーソリティの説明はあまり必要ありません。ごく親しい仲間内のスピーチでも、あなたのことはよく知られているので必要ありません。しかし、あなたがそのような人気者でない限りは、適切な分量で差し挟んだほうがいいと考えてください。小さな会場でのプレゼンでも、大人数を前にしてのスピーチでも同じです。
また、他と比べて認知度が高い場合でも、やはり機会によっては、オーソリティ説明は必要なことは多いのです。例えば、社内の総会のような場で何人かの経営幹部が話すときには、そのテーマについて自分がどういうスタンスで話をするのか、それは自分がどういう役割を持っているからなのか、という説明を入れます。これは、あなたとテーマの関係性について聞いている人たちの認識を一致させる目的があります。このようなことに注意をしないと、思わぬ失敗をします。ある企業の失敗例では、社内に向けてのプロジェクト説明会でプレゼンする複数の人間が「あ、どうも。○○部の○○です」と名乗るだけで、プロジェクトにどのような関わり方をしているかを全然説明しないままだったので、皆いまひとつ中身が理解できず、評判が散々だったそうです。
自己紹介とオーソリティ、話の導入にどれくらい時間を割くかは、その場面や機会によりますが、目安としては、2時間くらい話すとしたら15分くらい、1時間くらいの話であれば5分から10分の間くらいが妥当です。
いかがでしょうか?
話し手は、聞き手が話に入りやすいように、できる努力はしなければなりません。オーソリティを示すことは、その努力の大切な一つです。
上でも言いましたが、その場で即興で言うのはなかなか難しいので、あらかじめどんんなことを言うか、適切な言い方も含めてよく準備しておくことをおすすめします。