上に立つ人には品格が必要です。それはなぜかというと、品格がなければ、誰にも敬意を感じてもらえないからです。ただし「お上品に」振る舞うことは品格ではありません。品格の意味と品格を上げる方法を知っておきましょう。

 

 

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■ 本当の品格を持つ(08:04)

■ パーソナルスペースの入り方(06:32)

 

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■ 本当の品格を持つ(00:00〜08:04)

■ パーソナルスペースの入り方(08:05〜14:37)

 

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本当の品格を持つ

 

品格とは何か

 

「品格」とは何でしょうか。品格を高める5つの方法を知る前に、人にとっての品格とは何かをよく理解しておきましょう。

「大辞林」によると、「品格」とは「その物から感じられるおごそかさ。品位。」だそうです。「品位」は見る人が自然に尊敬したくなるような気高さ、とあります。人を自然に尊敬させる気高さはどこから生まれるのでしょうか。 それは、人として、社会人として、共に生きる人を尊重し、自分が生きる社会を大切に思う気持ちであると考えられるでしょう。

「人の本能は常に警戒している」ということは他の章でお話ししました。人の警戒感をいたずらに刺激するような行為は、あなたの印象を傷つけ、コミュニケーションを阻害する要因となることも、ご理解いただいていると思います。

人間が社会生活を営むようになり、文明度が向上するにしたがって、コミュニティにおいては互いに円滑に過ごそうとする意識が高まりました。人の警戒感をいたずらに刺激するような行為は避け、お互いに気持ちよく接することで安心・快適に空間や時間を共有する知恵が生まれてきたのです。これが「マナー」や「礼儀」の始まりです。

マナーや礼儀は、社会がさらに高度になるにしたがって、細分化され、形式や明確なルールとして整えられたものも出始めました。これ自体は悪いことではありませんが、形式やルールに踊らされ、本質を見ないままでいることや、本質が何であったかを忘れることは、社会人として本末転倒というべきでしょう。

本来は人として、社会人として、共に生きる人を尊重し、自分が生きる社会を大切に思う気持ちを忘れるべきではありません。 しかし、私たちは日常の中で、そういったことを忘れがちです。ですから、その大事な気持ちを忘れず、それを的確に表せる人を見れば、自分たちにない気高さを感じ、自然に敬意を抱きます。

上に立つ人には品格が必要です。それはなぜかというと、品格がなければ、誰にも敬意を感じてもらえないからです。ただし、もうお分かりいただいていると思いますが、マナーの形式やルールに則って「お上品に」振る舞うことが品格ではありません。品格とは社会人として、共に生きる人を尊重し、自分が生きる社会を大切に思う気持ちを常に心に抱き、それを表現できることです。

そんな品格をできるだけ自分の中に高め、日々の中で表現できるよう、5つの具体的な方法を知っておきましょう。

 

<「本当の品格」を持つ5つの具体的方法>

 

●最初に:「距離感」に意識的になる

●物理的距離/パーソナルスペースを知る

●パーソナルスペースへの入り方(接近速度・プロセス)に注意する

●言葉づかい(敬語・敬語の丁重さ)に配慮する

●視線・身体の向きに気を付ける

 

では、それぞれについて説明します。

 

最初に:「距離感」に意識的になる

 

空間や時間を共有する上では、個々の持つ尊厳・領域を極力侵さないことが最重要です。 「距離感」に無頓着や鈍感であれば、好ましく洗練された様子にはなりません。「品が無い」ことになるのです。

しかしわたしたちが共有する空間は制限があり人の領域を侵さざるを得ないこともあります。その場合は、それを敏感に察知し、先回りをして相手にことわりや謝罪を伝える方法があります。そのように他人の権利にも敏感で、気を使うことができれば、自然に人から好感や信頼、敬意を感じてもらうことができるでしょう。

まず人との距離感について知っておきましょう。

相手にとって自分とどの程度の距離が好ましいかを察知し、適切な距離感を表現する意識や振る舞いが品格を生みます。

距離感には物理的なものも精神的なものがあります。相手との関係性や相手の心理状態に配慮し適切な距離感を表現できていると、品格が感じられる様子になります。その表現する方法を知り、使いこなしていきましょう・

 

物理的距離/パーソナルスペースを知る

 

「パーソナルスペース」とは人間が本能的に「侵されたくない距離」です。侵されると不快を感じ、警戒心が刺激される距離です。研究家としてはエドワード・ホールという文化人類学者が有名です。

パーソナルスペースは、文化背景や性差によって変わることが知られており、一概に決めつけられるものではありません。ただ、一般的に覚えておきたいのは、相手との関係性によるパーソナルスペースの距離感です

例えば親しい友人ならごく近くで話しても平気ですが、もしも取引相手にしかすぎない人が同じ距離に来たらどうでしょうか。やはり落ち着かない気持ちやどこか不快な気持ちになりますね。

この関係性と距離感の関係を、ホールは「対人距離の4つのゾーン」として説明しています。

 

<対人距離の4つのゾーン>

 

●親密距離

0〜45cm ごく親しい人であれば安心、それ以外は不快に感じる距離。

 

●個人距離

45cm〜1.2m お互いの表情や様子がわかる距離。親しい間柄や一応の信頼がある人は安心できる。

 

●社会距離

1.2m〜3.5m まだ親しくない人、個人的な領域に入ってほしくない人にはちょうど良い距離。

 

●公共距離

3.5m〜  講演者と聴衆のように個人的でない関係の時の距離。正式な会合やイベント、地位の高い人物と一般人が会うような時の距離。

 

 

これを知ると、例えばそれほど親しくない相手に45cm以下の距離で近接すると、たちまち相手が不安や不快を覚える、という一定の法則がわかります。日常においては、以下の感覚を覚えておいてください。

 

●親密な間柄(家族や恋人)なら、45cm以下でも平気

●お互いに見知った同僚や友人関係のような親しい間柄なら75cm以下〜45cmまでは大丈夫だが、知り合ったばかりの関係であれば、75cm〜120cmは必要

●見知らぬ人や、公的な会談ということであれば、120cm以上が適切な距離

●講演会などで講師が立つポジションは聴講者から3.5mは離すのが互いに心地よく聴きやすい距離

 

パーソナルスペースは、人の本能に関わり、無頓着でいれば人の警戒感をいたずらに刺激してあなたの印象を傷つけ、人とのコミュニケーションを阻害する要因となります。またそれだけに、近接や侵入などの行為は人の心理にとっては刺激剤にもなります。

心理学の領域では非言語コミュニケーション、ボディランゲージの重要な要素のひとつです。人との適切な距離感を知り、相手の領域に近づく・入るという感覚に敏感になることによって、礼節として正しい振る舞い方が身につくばかりでなく、人とのコミュニケーション力や人への影響力も高めることができることを知っておいてください。

 

パーソナルスペースへの入り方(接近速度・プロセスに注意)

 

仕事相手など、ごく親しい間柄でない場合は、相手のパーソナルスペースに入りそうなときには、注意が必要です。仕事上の間柄の場合は、相手に接近するときは、相手が不快に思わないよう、相手に先に了解を得るような工夫をしたいのです。

といっても、口頭で「入っていいですか?」と聞くのではありません。接近の時の所作でそれを示します。  

その接近の時の所作を身につけることが必要ですが、難しくありません。

まず、相手に近づく時は、一気に相手に近づくのではなく、やや速度を落としてゆっくり近づきます。急速な接近は物理的なものでも、相手を驚かせ、相手の警戒心や不快感を刺激しますので配慮が必要なのです。

1.2mくらいを目安にいったん立ち止まり、会釈を行います。必要であれば「◯◯さん」と先に呼びかけてもいいでしょう。

相手があなたを認識したら、ここでも急がず、ゆっくり近づきます。相手の身体が少し引いたり、表情が少し変わるようであれば、その距離がその時点では限度です。しばらくはその距離を縮めることなく様子を見ます。打ち解けてくれば、距離は自然に縮まります。

品の良い人ほど人のパーソナルスペースにも自分のパーソナルスペースにも敏感です。ここでご紹介した、相手に接近するときの所作は自然にできるようにしてください。  

 

言葉づかい(敬語・敬語の丁重さ)に配慮する

 

距離感は物理的なものだけではなく、精神的なものもあります。 精神的な距離感の表現として代表的なものは、敬語の使い方です。言葉遣いでも距離感は変わります。

丁寧な話し方をすればするほど、相手と距離を多く取ることになります。あなたもこのような覚えはありませんか? いつも親しく「タメ口」でしゃべっている人なのに、ケンカして雰囲気が険悪になったとたんにバカ丁寧な言葉遣いやよそよそしいモノの言い方になることがあります。

これは、相手と精神的な距離を感じてしまったことにより、言葉の表現に距離感がそのまま表れてしまった例です。このような例ではあまり意識しないまま自然にそうなってしまうことも多いですね。

このように考えると、相手との距離感は言葉で簡単に表現できることがわかります。ですから、常に相手との関係性にふさわしい言葉を選ぶ必要があります。

そうであれば、やたら丁寧な言葉遣いばかりが良いこととは限りません。例えば相手とせっかく親しくなりかけている時期に、気を使いすぎて行き過ぎた丁寧口調で通してしまうと、相手は強い距離感の表現に「壁」を感じて打ち解けるのを躊躇してしまうかもしれません。

また、逆に親しくなりかけているときに、急に打ち解けすぎた物言いをしてしまうと、相手は急に距離を縮められたことに警戒心を呼び覚まされてしまうかもしれません。それではかえって距離が開いてしまうことになりかねません。

また、相手のプライバシーに踏み込むような質問や、歯に衣着せぬ遠慮のないものの言い方も、相手からすれば急激にパーソナルスペースを侵されたような感覚になります。このような行為をする人はいずれも品格がない印象、社会人として危うげな印象となり、マイナスとなります。    

上司であるからと部下に必要以上に親しい言葉遣いをしたり、会ったばかりの相手と仲良くしようと急にタメ口をききはじめたり立ち入った質問をし始めたりするのは逆効果です。パーソナルスペースを侵されたような感覚の相手は「親しみ」ではなく「不快」という印象しか持ちません。

相手との距離感に配慮し、言葉遣いには適度な丁寧さを持たせましょう。もちろん、親しさのある言葉は相手との距離感を縮める効果がありますので、適宜使って行くべきです。その場合は物理的な接近と同じく、性急にせず相手の様子を見ながら行って行くべきでしょう。

 

視線・身体の向きに気を付ける

 

非言語表現の研究によれば、人と目を合わせることはコミュニケーション開始の合図です。また人に視線を向けることはその人への関心を表します。視線やアイコンタクトで表現する関心の現れが相手との距離感を表現するのです。

関心の程度は相手を見る視線の強さやアイコンタクトの頻度や長さでそれがわかります。適切な視線やアイコンタクトは相手にとってコミュニケーション上で心地よいものとなります。

しかし、視線やアイコンタクトが行き過ぎれば急に接近されたかのような不快感や警戒心を相手に与えます。反対に、相手と視線をあまり合わせないのは、相手を拒絶し、相手からすれば遠い距離を感じます。

身体の向きも同じように相手への関心が表れます。相手に身体をあまり向けないのは関心の低さの表れになり、それが相手から見て隔たりを感じる要素になるのです。

実際にされてみるとわかりますが、人が自分のほうに視線を向けない、自分のほうに体の正面が向けていない、というときは、その人と自分の間の距離を自然に感じます。自分が相手にそのように感じさせたくないなら、視線や身体の向きには配慮してください。  

 

いかがでしょうか。「あの人は品格がある」と感じるのは、その人に属する生物的魅力、そして服装なども重要ですが、動作や振る舞いにおいては「人との適切な距離感を持てている」という特徴があります。それは、人を尊重し社会を大切に思っているということを的確に表す術のひとつでもあります。ぜひ覚えておいてください。