誤った教えられ方のせいで、混乱したままの人もいる和と洋の違い。ここで知っておいてください。

 

 

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これ間違っているの? よく困る「あるある」

 

食べ方のマナーにおいては、日本の私たちはやや不自由です。日本の家庭のしつけはどちらかというと「和」の作法なのですが、学校や社会でマナーを習う機会があると、「洋」の作法か、和と洋の混合で教えられていることが普通だからです。しかも、はっきりと区別を教わらないままのことが多く、「これがマナー」というざっくりとした習い方で止まっていることがほとんどです。加えて、途中から日本企業的な宴会マナーを教え込まれることもあり、混乱がおきやすいのです。ここではそんな「間違いあるある」をご紹介しておきます。

 

よく困る「あるある」の例

 

例えばこんな風に困る人をよく見かけます。

 

「会社に入った時に先輩から、目上の人のグラスが空いたらすぐ注ぐように言われたのに、フランス料理の接待でそれをやったら冷たい目で見られた」

国際基準のマナーには「お酌」の概念はありません。友人同士が酌み交わすようなカジュアルな席では、ワインを相手のグラスについだりしても別にいいのですが、接待で使うような高級レストランではグラスが空いたらサービススタッフが注ぐもので、客同士が注ぎあうことは品の無い行為とされます。うっかりそうした行為をすると、「こういう場所に慣れていない」と見られる可能性があります。

 

また、こんなことも聞いたことがあります。

 

「和食料理店で、食べ終わった器を片付けやすいように重ねたら、怒られた」

学校のサークルの懇親会や企業内部の打ち上げなどでは、よく「お座敷マナー」「宴会マナー」と言われるマナーを先輩などから指導されることがあります。その一環として。空の器を重ねて置いて隅に寄せ、片付けやすくするようにしている人も少なくありません。

しかし、安易に器を重ねるのは実はマナー違反です。特に質の高い食事場所では、器ひとつにも気を使っているものです。それを重ねたりする行為は非常に乱暴です。食事のマナーの目的は「質の高い什器を傷つけない」という目的でできたものが多くありますので、それに反する行為は経験の浅さを感じさせるものでもあります。

 

また、こんな経験を持つ人は多いのではないでしょうか。

 

「乾杯はグラスをぶつけるものだと教わっていたので、接待でもそうしようとしたら『マナー違反』と言われてしまった」

ビールなどが入ったグラスをカチンカチンと重ね合わせて親睦をはかるのも「お座敷マナー」「宴会マナー」では奨励されることです。しかし、国際基準のマナーは「グラスをぶつけてはいけない」とされます。これも「質の高い什器を傷つけない」という目的からです。ワインなどを注ぐ薄いグラスはちょっとぶつけただけで割れる可能性が高いものですから、ぶつけることは決してしません。レストランなどで乾杯する時は、ただ目の高さに上げて目配せをするだけです。

実は外国でも景気付けにグラスをぶつけ合わせて音を立てることがあります。グラスをぶつける音が「悪魔を払う」といういわれからですが、居酒屋のようなごくカジュアルな場所でのことであり、使うグラスも分厚いものや金属製のもののときに限られます。

 

また、こちらもよくある声です。

 

「フランス料理の席で、サラダ皿を手に持って食べたら『間違い』と言われた」

日本以外の国では、器の位置を動かしたり、持ち上げるのは食事のマナーとしてタブーです。日本は箸二本のみを使った非常に特殊な器用な食べ方のため、食事作法も他の国と違う独自の作法として発達しました。そのため、国際基準とは逆に、手のひらぐらいまでの小さな器は持ち上げて、手前まで寄せて食べる、という所作があり、その方が作法にかなっています。

しかし、これは日本だけなので、フランス料理などでそのようにするのはマナー違反です。また下品に見えます。

 

 

 

大きな違いのポイント

 

間違いやすい和と国際標準の食事マナーの違い。うっかり間違えないように大きなポイントを理解しておいてください。

 

食べ物をすする音

 

国際標準のマナーでは「ものをすする音を立てる」ことは最大のタブーです。それと比較すると、日本では器に口をつけて汁類を「すする」飲み方や、麺類を箸で引き上げて「すすり込む」という食べ方があるため、音はある程度許容されています。(ただし盛大に音を立てていい、ということはありません)

ものをすすらないように飲むには、「口で迎えにいかない」ようにしてください。食物を口の力で口の中に入れるのではなく、スプーンやフォークで口の中に運び入れるのです。例えば、スープであれば、スプーンを少し口に差し入れ、スプーンを傾けることでスープを口に流し込みます。パスタであれば、パスタをフォークに一口大くらいに巻きつけ、それを口に入れます。何より「啜りこまない」意識と練習が大切です。私たち日本人にとって「すする」は無意識の動作ですので、しないよう強く意識し、きちんと練習を重ねないと、なかなかうまくいきません。「どこに出ても恥ずかしくない」という振る舞いを身につけたいとき、これはしておいたほうがいい練習です。

 

器の取り扱い

 

国際標準のマナーでは、「器を絶対に持ち上げない」「動かさない」と覚えてください。小さなサラダ皿でも大胆にメインの皿とチェンジしたり、持ち上げたままサラダを食べる、という行為は、直ちに品の無い行為となります。ですから、「美味しいから食べてみて」とお連れの方とお皿を交換するなど本来はもってのほか、というわけです。ただし、自分のお皿を食べやすいように少し引き寄せたりするのは許容範囲です。なお、日本にある中華や韓国料理のお店では和の感覚と混じっていることもありますが、実は中国や韓国なども国際標準と同じく器を持ち上げることは悪い作法です。

いっぽう、和の作法ではお皿を持ち上げ、手前に持って食べるのは逆に品の良い食べ方です。大きな器から箸でものを取るときは、小皿や醤油皿などにとっていただくほか、懐紙を支えにしていただきます。(手皿は無作法とされますので気を付けて下さい)

 

お酌

 

国際標準のマナーには「お互いにお酌をする」という概念はありません。飲み物はサービスをする人間がお客様に対してするものであり、お客様同士はしないのです。もちろん、打ち解けた、ごくカジュアルな場所ではお互いにワインなどをつぎ合うこともありますが、その場合でも女性が男性に対してつぐことは基本的にありません。なお、注いでもらうときはグラスを決して持ちません。

対して日本では、ねぎらいや感謝の心を「酒を注ぐ」ことで表すことが多く、またそれに対して「お返しをさせていただく」という気持ちで注ぎ返す、といった「さしつさされつ=互いにお酌をする」という感覚がポピュラーです。そのため、もてなし役から客へ、客からもてなし側へ、というつぎ方もよくあり、女性から男性にお酌することも自然です。なお、お酌を受けるときは右手で盃を持ち、左手を添えて受けることで「ありがたい」という気持ちを表します。

※その行為、外国人が眉をひそめているかもと思われるのは、男性が女性に飲み物を注がせることやお酌を女性に依頼することです。西洋で成り立ったマナーを主とする国際標準のマナーでは、「レディファースト」で女性は常にもてなされる側の存在です。そのため、男性が女性に飲み物を注がせるなどは極めて不自然で、、また野暮な行為になります。

 

エスコート

 

男性が女性に敬意を表し、細やかにエスコートするのが国際標準です。「レディファースト」が当たり前だからです。レディーファーストは、純然たるビジネスの現場ではあまり見られなくなりましたが、食事やパーティなどの社交的な場ではたちまち当たり前の所作となります。

国際標準では騎士が貴婦人を守るようにななめ後ろから守るような所作になりますが、和の空間でそのままだと感覚的な違和感を生じます。和の空間ではどちらかと言えば男性が先を進みながら背後に配慮するようなサムライ的所作のほうがしっくりきます。

 

 

国際標準と和の共通の感覚

 

国際標準と和はすべて違うわけではなく、気遣いのポイントが似ているところもあります。そのポイントをいくつか併せて確認しておいてください。

 

おしぼりの使い方

 

日本では古来より和室に上がり、挨拶の時は畳に手をついて頭を下げていたので、その手を清めるおしぼりは日本特有のサービスでした。人が普段踏んでいる場所に手をつける必要があったので、食事前にはその手を清めてもらう心遣いから「おしぼり」が生まれたのです。そのような理由で生まれたおしぼりで拭くのは「手」だけで、それ以外は拭きません。

現在は、そんな日本の「おもてなし感覚」を取り入れ、おしぼりを出すレストランが海外にも多くあります。しかし、口や指を吹くのためには「ナプキン」が用意されていることが普通です。おしぼりが出てきても、それで口はぬぐいません。口をぬぐうのはナプキンです。おしぼりとナプキンを区別する感覚は共通です。区別するため、おしぼりは使い終わったら軽くたたんでおしぼり入れに戻しておきます。

 

人や物を指ささない

 

もともと、人や物を指さす行為は失礼とされてきました。ましてや、ナイフフォークや箸などの先で人や物を指し示すのは、危険でもあることからほぼどこでも禁止行為です。なお、物を指し示すのは手のひらをつかうほうがきれいです。

 

テンポよく食べ進める

 

料理の説明にはきちんと耳をかたむけること、周囲に気を配りながらテンポよく食べ進めることはお互いに安心できる行為です。いっぽう食べないまま放置したり、先に一人だけ食べ終わったりするのはほめられません。

 

大きな声でのおしゃべり

 

パブリック感覚が強い国際標準でも、つつましやかな和の感覚でも、周囲への気遣いは当然のことです。パブや居酒屋などではよくても、格のある雰囲気の場所で自分たちのテーブルを越えて周囲に丸聞こえするような大声のおしゃべりは教養がない行為と認識されます。

 

 

 

 

国際標準の感覚と、和の感覚で大きく違うもの、同じ気遣いがあるものを説明しました。もし、何か迷われた経験があれば、admini@attainments.bizに、その内容をお送りください。本講座の中でできるだけお応えします。