マナーの本質も、そこから伸びる枝葉も大事です。ここでは枝葉となるカトラリーの取り扱いをお伝えします。
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(トータル時間 11:52)
1ナイフフォークについて知っておくべきこと(06:11)
2 箸の使い方(05:41)
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ナイフ・フォークについて知っておくべきこと
言わずとしれた「ナイフ・フォーク」。だいたいのことはご存知だと思いますが、確認の意味で基本の使い方を説明します。
ポイントは下の3点です。
① 持ち方・使い方
② 合図としての使い方
③ してはいけないこと
詳しく説明します。
① 持ち方・使い方
基本の持ちかた
ナイフは右手(利き手)、フォークは左手(利き手の逆)で持ちます。米国のマナーではサラダなどの時は、フォークを右手(利き手)に持ち替え、フォークだけで食べても良いとされますが、英・仏などヨーロッパでもマナーに厳しい地域に行くと、ナイフとフォークを一緒に使うのは必須のマナーであり、フォーク一本だけで食べるのは「間違い」になります。
’うらめしや”の格好で?
ナイフとフォークはちょうど幽霊が「うらめしや」と出てくるときのように、手首を曲げて先が下に向くように持つのが正解です。ナイフ・フォークの先が持つ手と平行になると使いにくいものです。特にナイフは「刃」が先の方についていますので、手首を曲げるくらいだとその部分がちょうど料理にあたり、切りやすくなるのです。
また、手首がまっすぐになっていると、モノを切るときに脇が上がりやすくなります。見た目も良くなく、いかにも慣れていない様子になりますので「うらめしや」は意識しておいてください。
ノコギリ引きは切りにくい
肉などを切るときは「うらめしや」の格好で、肉に刃を斜めにあて、押して切る方がよく切れます。ナイフの「刃」は、日本の包丁とは逆引きになっていることが普通です。そのため、日本の包丁で切るときのように、全体を寝かして引いて前後に動かして切ろうとする、いわゆるノコギリ引きは向きません。刃の先のほうを上から当てるように滑らせて切ってください。
刺しにくいものは、ナイフでせき止める
フォークで刺しにくいものは、ナイフでせき止めて刺すようにすると刺しやすくなります。また、豆類など小さなものはナイフでせき止めたところにフォークで寄せるようにするとまとめて取りやすくなります。
この場合、ナイフを動かすとお皿が傷つきやすいので、ナイフのほうを動かしてはいけません。ナイフはあくまで動かない壁のように使い、フォークを動かすようにします。
会話中など食べるのに間が空くなら「置く」
人とまとまった会話をしたりして食べるのに間が空くなら、ナイフ・フォークはいったん置きます(お皿の上にハの字に置く)。持ったまま会話を続けると思わぬ手の動きが危険に繋がります。また、ずっと持ったままであると子供っぽい動作になります。
なお、ワインや水を飲むためにグラスに手を伸ばすときにも、ナイフフォークは両方ともいったんお皿の上においてください。どちらかを持ったまま片手でグラスを同時に掴もうとするのは非常に無作法な動作です。
② 合図としての使い方
上で言ったように、人とまとまった会話をしたり、ワインや水を飲むときにはいったん、ナイフ・フォークは置くのですが、「もう食べないのか」と思われると料理を下げられてしまいます。そこで「少し中断しているが、まだこの料理を食べている」ところなのか、「もうこの料理は終わったので下げて欲しい」というところなのか、をナイフフォークで合図する習慣があります。
食べている最中は「ハの字」
「まだ食べている」ことを表現するなら、ナイフフォークは「ハの字」のようにお皿に置きます。
そのときに気をつけるポイントは、「ナイフフォークをお皿の端にかけるように置かない」「食べ物の上におかない」ということです。
ただし、昨今では料理のお皿がナイフフォークを置きやすい平皿ばかりでなく、真ん中だけくぼんだ皿や鉢状になっている深皿などバリエーションが多くなっています。その場合は無理せず、ハの字に置きやすいようにすればいいでしょう。
食べ終わったらナイフフォークを揃えて置く
「この料理を食べ終わった」ことを表現するならナイフフォークを揃えてお皿の上に置きます。バラバラではなくそろえること。またナイフの刃が自分に向くように内側に向けて置くことを守ってください。
置き方の角度は、国によって多少の違いがあり、海外に行って戸惑う人もいるようです。少し説明しておきます。
●英国は6時半
英国では時計でいうと6時半くらいの角度、つまり自分に対して垂直に置きます。
●フランスは3時15分
フランスでは3時15分くらい、つまり真横になるように置きます。
●日本、アメリカは4時20分
日本やアメリカで見られるのは4時20分くらい、つまり斜めに置くやり方です。
なお、スプーンでスープを飲むときの角度も同様に各国で違います。厳密に変えなくてもいいことですが、自分が間違っているのではと現地で戸惑う人も多いので、参考までに説明しておきます。
●英国はスプーンを横に傾ける
スープをすくうときは、手前から奥へスプーンを動かします
●フランスはスプーンを斜めにする
スープをすくうときは、奥から手前へスプーンを動かします
●日本、アメリカはスプーンを斜めにする
スープをすくうときは、手前から奥へスプーンを動かします
日本では、皇室が英国マナーを採用したこともあり、どちらかと言えば英国マナーに影響されていることが多いです。
③ してはいけないこと
ナイフフォークは、その形状から「凶器」にもなります。そのような観点から、下記の行為はタブーです。
●ナイフでものを突き刺して食べる
自分自身がケガをする可能性が高い行為です。
●ナイフの刃を立てたまま皿の上で動かす
皿をいたずらに傷つける行為であり、イヤな音も出ます。
●ナイフやフォークを持ったまま、会話に夢中になる
夢中になるあまり、凶器を振り回すことになります。同席している人のほかサービスをしてくれる方にも危険が及びます。
●ナイフやフォークを口より上に上げること、テーブル面から下に下げること
自分や人を傷つける可能性が高く。昔は実際に暗殺などもあったことから厳に禁止される行為です。
箸の使い方
日本での正式なカトラリーは箸です。たった2本の棒で、自在にものを掴み、切り、食事するのが日本の食事作法です。 アジア諸国でも箸を使うところは多くありますが、箸だけでなくスプーンやレンゲなどの補助具を使うところがほとんどです。純粋に箸だけ使う作法を持つのは、古来から日本だけなのです。世界に例を見ない特殊で器用なマナーと言えるでしょう。
さすが日本人、と言いたいところですが、実は今、日本人以外のほうが箸をうまく使える、という逆転現象がほうぼうで起こっています。 和食が世界でも高く評価されるようになり、お寿司をはじめとして和風の料理は大人気です。特にニューヨークやロンドンなどエグゼクティブ層ひしめく都市では早くから和食店は高級で粋な場所のイメージとなっていたため、和食店で器用に箸を使い和食を楽しめる、ということは、ちょっとしたステイタスシンボルになりました。
ですから、そういった国の人のほうがちゃんと箸の使い方を習い、綺麗に食べるようになったのです。 それに引き換え、わが日本では箸の使い方も含め、マナーをちゃんと習う機会はほとんどありません。そのせいで、逆にいい加減な覚え方で苦労している人が意外と多いのです。
しかし、実は「箸の使い方」こそ厳しく見られているものです。 「軽い人だと思っていたけど、箸の使い方が綺麗で見直してしまった」とか、逆に「立派なことを言っているけど、あんな箸の持ち方では、底が知れるな」とか、実際に色々な声を聞くと、たかが「箸」で「人格」や「能力」を見られてしまうことが自然にある、とわかります。
作法は人を見られます。特に箸使いは日本で大切な作法です。自信を持って箸を使えるようにしておきましょう。 これだけは知っておきたいというポイントをご紹介します。
① 箸の取り方
② 箸の持ち方
③ 箸置きを使う
④ 箸先五分、長くて一寸
⑤ まず器、後で箸
詳しくお話しします。
① 箸の取り方
箸は下の4アクションで取り上げます。(右手が利き手の場合)
①右手(利き手)で箸の中ほどを掴む
②左手で箸の先を下から軽く支える
③中ほどにあった右手(利き手)を、持つのにちょうどいいところまでずらす。
④左手で支えたまま右手を持ちかえて箸をきちんと持ちなおし、左手を外す。
毎日の食事でもこのようにする習慣にしてください。動作が滑らかになります。
② 箸の持ち方
箸は、親指・人差し指・中指で上一本を持ち、薬指・小指が下一本を支えます。(その際、小指を手のひらに少しつけることを意識するとさらに綺麗です。)
上と下を大きく広げたり閉じたりを何回もすると、滑らかな使い方の練習になります。
③ 箸置きを使う
「箸置きを使う」この一点を忘れないでください。
食事の最中に飲み物に手を伸ばすときも、食事が終わった時も、箸を揃えて箸置きに置く、という習慣は必ずつけていただきたいのです。
よく「箸置きがないような居酒屋などではどうするのか?」という質問を受けます。そんな時は箸袋を折って箸置きがわりにすることが多く、巧みな折り方で感心される人も多いようです。(箸袋での箸置きの作り方はネットなどでも紹介されています)。しかし、過去のウィルス禍の体験もあり、箸の外側にある箸袋で箸置きを作り、そこに口が当たる部分を置くことに衛生的に問題を感じる人もいます。それも考慮すると、箸置きが出てこないようなお店では、箸をお皿に置くのもしょうがないでしょう。また、箸置きがないような非常に気軽なところで飲食をするときは、逆に変に箸置きなど用いない雑なやり方の方がお互いが打ち解けられるのかもしれません。臨機応変にどうぞ。
④ 箸先五分、長くて一寸
「箸のマナー」でよく言われるのが「箸先五分、長くて一寸」。現代の寸法で言うと「先から1.5cmくらい、長くても3cmくらい」という意味です。つまり「食べるときはできるだけ先のほうを使って食べ、汚すのは1.5cmくらい、最大でも3cmくらいにすること」という教えです。
この教えは、箸の上のほうまで汚れると見た目が悪いということからも来ていますが、実は、こちらのほうが食べやすさが増します。例えば、食べ物を箸で切るときなど、箸の中腹まで使ってハサミ切りにしようとする人がいますが、それだとかえってうまく切れません。箸先を使い、少しずつ切れ目を入れていくようにし、切れ目がだいぶついたところで箸先でハサミ切る、というほうがスムーズです。
⑤ まず器、後で箸
和食では、漆の椀などが傷つきやすいため、まず器を両手で持ち上げてから、後で箸を持つ、という所作を基本にしてください。
順序は以下のようになります。
①器を両手で取り上げる
②左手で器の底を支えたまま、右手(利き手)で箸の中ほどを掴んで取り上げる
③左手の中指のところに隙間をあけ、そこに箸の先を差し込んで支え、右手を滑らせて、きちんと持ち替える。
④後は普通に食べる。
どれも動きが美しく、洗練された大人の雰囲気を感じさせる所作です。最初は面倒に感じますが、慣れてしまえば、むしろ合理的な動きだとわかります。
ナイフフォークの取り扱い、箸の持ち方がおかしいと、食べ方全体が不自然になり、また何か失敗をしやすいものです。食べ方は、誰もが無意識にその人間の根幹を見るところです。このページにあることを覚えていただくだけでも所作の印象が変わりますので、今まで自信がなかった方はポイントをよく覚えておいてください。