ここでは、「私たちの違いの出来上がり方」をもう少し詳しくお話しします。

 

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私たちの脳の中の独自のシステム

 

パーソナリティを別の言い方で言うと「個性」となります。

私たちの「個性」を作るのは、私たちの頭の中にある独自のシステムです。

このシステムは、外部の刺激や出来事などを受け取り(インプット)、反応や考え、行動、記憶という処理結果を導き出します(アウトプット)。

このシステムが違うので、私たちはお互いに違い、考え方などに個性を持つのです。

 

 

システムを構成するのは、私たち一人ひとりの育成環境、家族の影響、教育、出会った出来事や経験など今までに蓄積された全てのものです。

同じ出来事があっても、そこから導き出される「反応」「感情」は人それぞれ違います。また、着目点や、そこからの学びや、出来事の認知・記憶も人ぞれぞれ違います。同じ経験をしても、人それぞれ反応が違うということです。その違いはその後で、その体験についての「意味付け」を変えます。

つまり出来事(事実)は同じものなのに、その人によって「こういう体験をした」というストーリーは全く異なるのです。「同じ事実でも”受け取り方”は人それぞれ」だということです。似たような二人なら、少しは似たような結果になるかもしれません。しかし、まったく同一とは言えないのです。

このことは、あなたがこれから人とコミュニケーションをする上で、しっかりと理解しなければならないことです。

 

 

例えば、ここにA、Bという人がいて、ある日同じ内容の仕事を指示されました。それは、表の中の数字を、データを見ながら埋めていく仕事でした。これに対してAさんとBさんはそれぞれこんな風に反応するかもしれません。

 

●Aさんの考え:「なんて地味な作業の繰り返しだ。自分がやる必要のない退屈な仕事だ」

(反応や行動)自分が他の仕事を与えられるようにアピール方法を考える。

 

●Bさんの考え:「正確さを問われるし、工夫次第で効率アップができる。やり甲斐があるな」

(反応や行動)自分なりの工夫をして職場の効率アップの提案をする。

 

これはどちらが良いか、ということではありません。同じ仕事なのに人によってその仕事に感じることや評価、反応や行動が異なるということです。

これは一例に過ぎず、同じようにいくつもの違いが色々な場面で、小さな出来事から大きな出来事まで起こっているということ、「事実」が同じでも「自分にとっての意味付け」はそれぞれ異なることをよく理解しておいてください。

 

 

私たちの「今」はこのようにできている

 

私たちの違いを作る頭の中のシステム。

その根幹の部分は、その人の幼少期に形成されています。 生まれた時や幼少時の環境、地域や家族。見てきた人の反応の仕方、教育、しつけ。そして様々な偶発的な出来事や経験、そしてそこから得た学び。実に多くのものがその人の感じ方や考え方を形成していきます。

「システム」は日常で以下のように作動します。

まず外界の刺激(情報)を五感でキャッチ、脳に送り届けます。つまり情報の【インプット】です。脳ではそのデータを必要に応じて削除・圧縮などの加工をします。   その際には「自分にとって意味のある」データを取り入れます。

他の章で「人間は思考の前に反応する」「私たちの意識の90%は潜在意識で、自分で知覚していないブラックボックスによるものである」ということをお伝えしましたが、インプットやデータの削除や圧縮は当然無意識で行われています。意識して「これを捨てよう、これはとっておこう」と私たちが考えながら選別しているわけではありません。またその選別こそ一人一人の個性が出ます。これが「それぞれの無意識の反応・思考のクセ」になります。

外界から取り入れた際には「事実」には何の色もついていない、そのままのものでした。しかし、いったんシステムを通るとそれはもう事実ではなく「私たちがとらえた事実らしきもの」になります。 私たちの頭の中にあるのは、システムを通ることですでに私たちが無意識で勝手に色をつけたものになっているのです。

そして情報の処理加工が無意識で進められていきます。「この事象に対してどう反応や行動をするか」「この事象にどう意味づけした記憶を残すか」は、私たちのシステムが勝手に決めています。そして、人にとっての経験や記憶、あるいはそれに対しての反応や言動など、これらシステムでの処理加工の結果が出てきます。つまり【アウトプット】です。

 

 

私たちは毎日システムを使って外界を把握し、考えたり行動したり記憶したりしています。この、情報→処理の繰り返しによって、私たちのシステムの中には新しいデータが蓄積され続け、さらにシステムを有機的に進化させ続けます。このことによって、私たち一人ひとりのシステムの独自性はどんどん強くなっていきます。つまり個性がよりはっきりと分かれてくるのです。

私たちの「今」はこのようにできています。

 

何となく理解できたでしょうか。

ここで理解しておきたいのは、システムにいいも悪いもないということです。ただそれぞれの違いがあるだけです。自分の部下も、上司も、取引先の人も、そして家族の一人一人も違って当たり前です。すべての人が「自分のシステム」により、反応や感情の抱き方、そこからの学び、出来事の記憶の仕方が変わるのです。

この違いが生まれるプロセスを念頭に置き、「相手はどのように考えているか」を考慮しようとする”高次的視点”を持つように努力することで、賢者のコミュニケーションが実現していきます。

ここから説明するパーソナリティ分析の方法として「表象システム (VAK)」と「ソーシャルスタイル」の二種類をお伝えします。

 

「表象システム (VAK)」は、「五感の使い方によるタイプ分け」です。

自分では気づきませんが、私たち人間の五感は無意識下でフルに働き、外部を監視し外部からの情報を取り入れ解析して判断しています。五感とは、視覚/聴覚/嗅覚/触覚/味覚の五つです。  この働きは私たちが本能的に自分を危険から守り健康や安全を維持するために行われます。その働きの中の外部からの情報の取り入れ方の傾向に違いがあります。ですから、「情報インプットの方法によるタイプ分け」ができるのです。外界から情報を取り入れるときに、五感のうちどれを優先的に使うかでパーソナリティの違いがでます。知っておけば効率の良いコミュニケーションがはかれます。

 

「ソーシャルスタイル」は、「簡単な見分け方による、相手の価値観や考え方の傾向のタイプ分け」です。

これはアメリカで1964年頃に発表されたパーソナリティの識別方法です。現在、ビジネスで意外と多く活用されています。この方法を理解しておくと、会話や説得で相手に響く言葉を選ぶ工夫がしやすくなったり、業務などについての適性の把握やチーム内での人員の組み合わせなどがしやすくなったりするでしょう。また、自分の思考グセや感性などについても理解がしやすくなります。

 

この2つをエグゼクティブのあなたにご紹介する理由は、ビジネスシーンにおいて利用しやすい内容であること、また自分でタイプ分けが比較的簡単な方法ででき、分かれるタイプ数も少ないため、実践や応用がしやすいことです。

というのも、現在ではパーソナリティのタイプを識別する方法は多く研究されていますが、タイプを分類する方法が複雑なものも多く、記述テストやインタビューが必要だったり、開発機関によるブラックボックス式テストを受ける必要があったり、また、タイプ数も十数種もあってかえって判別しにくいなど、ビジネス現場ですぐ利用するのには向かないものも多いのです。使いやすいものを覚えて、これから現場でどんどん役立てていきましょう。

 

なお、「表象システム (VAK)」は上記にある【インプット】のタイプの違いがわかり、そして「ソーシャルスタイル」はシステムの違いが生む【アウトプット】の違いがわかります。そんなイメージで見ていって下さい。