自分のことだけでなく、人の心をよく知るために、「意識の階層」は役に立つ概念です。人に接する時の取り扱い方を理解しましょう。

AUDIO

 

TEXT

意識の階層と人の心

 

自分のことだけでなく、人の心をよく知るために、「意識の階層」は役に立つ概念です。この階層では、上に行くに従って、本人にとっての重要度が上がると前章でご説明しました。ですから、人に接する時も、意識の階層を意識することで、人へのインパクトを強めたり弱めたりすることができるのです。

ここでは、人を褒めたり感謝したりするとき、そして人を注意し改善を求めるときにどのようなことに注意するかを学びましょう。

 

人を褒める時・感謝する時の「階層」

 

上の階層のほうが本人にとっての重要度が上がるということは、その人の「環境」を褒めるより、「行動」を褒めた方が、その人にとってインパクトがあるということです。

その人の持ち物や着ているもの、属している会社などを褒めることが「環境」を褒めることに当たります。「いい靴ですね」「良い会社にお勤めですね」…こう言われると悪い気はしませんが、それほどインパクトはないかもしれません。

「行動」を褒めたり感謝したりするとどうでしょう。「良い靴を選んだんですね」「会議をしっかりリードしてくれてありがとう」…「行動」を対象にするとインパクトが強くなった気がします。

環境より行動のほうが、その人の本質に近い部分です。本質に近い部分はその人の「存在価値」に深く関わります。 ですから、そこを褒めたり感謝することはその人の自己重要感を満たす行為に近付きます。

そして「行動」より「能力」つまりその人にある才覚などその存在の価値を価値たらしめているものの方がよりインパクトがあります。

誰かの仕事を褒めるなら「いいチームに恵まれましたね」よりも「よく○○ができましたね」の方が相手が嬉しく感じるのはご理解いただけるでしょう。

先ほどからの例を比較して説明すると、「いい靴ですね」(環境)→「良い靴を選んだんですね」(行動)→「良い靴を選ぶセンスがあるんですね」(能力)のようになります。インパクトの変化がわかりますね。

このように、相手を褒めるときや感謝する時には、何に対して褒めたり感謝したりしているか「階層」を意識すると、フィードバックとしても深く意義のあるものにしやすいのです。

なお、社交の場面などの会話の中で相手を褒めるときは、いきなり上位の階層に行くと不躾でかえって相手から不審がられることがあります。 ペーシングをしながら徐々に上げて行くようにしてください。好意や信頼感を得やすくなるでしょう。  

階層と褒め方や感謝の仕方の関係性は以下の2つを覚えておいてください。

 

「階層を意識した褒め方にする」

「社交の会話などで人を褒めるときは、環境から徐々に褒める」

 

注意するとき、改善を求めるときの「階層」

 

人に注意するときや改善を求めるときは、相手をいたずらに傷つけないように注意をする必要があります。 いたずらに傷つけると、伝えたいことの前に反発や拒否が立ちはだかり、伝えづらくなります。また、あなたへの好意や信頼感も薄れます。

そうは言っても、「ここがいけない」と指摘することも必要になります。そんな時に注意するのは「意識の階層」では何でしょう。

それは指摘するポイントを「環境」にとどめておくこと。どんなに強い注意でも「行動」くらいまでにしておくことです。つまり、「こういう状態でおいておくのは良くない」「こういう行動は感心しない」というところまで、ということです。

「能力」から上の階層に踏み込むと、相手は自分の本質そして自分の存在価値までネガティブな評価をされた印象を持ちます。それであると相手が感じるインパクトは非常に強いものになります。相手にとっては暴力的に感じるほど強いインパクトなので、心理的な防衛は非常に強くなります。 そうすると、あなたが本当に伝えたいことは一気に相手に伝わりにくくなります。

ですから、避けるべき言い方はまず「能力が及ばない」と感じさせる言い方です。例えば、 「○○する能力がない」「○○できないのでダメだ」

「信念や価値観」に関わるような言い方ももちろん避けるべきです。例えば、「○○という考え方が間違っている」  「あなたの仕事への取り組み方はおかしい」。

最も避けるべきなのは、人格や存在という「元」にあたるものを非難することです。 「あなたはダメな人だ」「あなたみたいな人は不要だ」   こんな言い方をしてしまったら、お互いの関係性に致命的なダメージを与えることは必至です。ここまでいくと、後から良好なコミュニケーションを取り戻そうとしても非常に難しくなります。それだけ本人とっては強すぎるインパクトなのです。

注意する、改善を求めるようなときは、意識の階層について以下のことに十分に配慮してください。

 

「非難するのは環境まで。どんなに上でも行動まで」

「階層の致命的なところを指摘すると、伝えたいことは伝わらず、関係性にも致命的なダメージを与える」

 

 

家族・友人関係でも応用する

 

褒めたり、注意したりするときに「階層」の意識を持っていただきたいのは、ビジネスでの話ばかりではありません。

それはご家族、ご友人に接する時も同様なのです。言動を選ぶ時に私たちに必要なのは「思慮」です。褒める・注意する階層によって、あなたの言葉はその人に満足感や幸福を与えることもできれば、致命的な傷を与えることもできます。

言葉を選ぶ時には、最終的にその人にどうして欲しいのかを考えてください。相手の気持ちがどのように動くかを考えて言葉を選ぶことはとても大切なことです。