「上に立つ人」は「人を惹きつける力」だけでなく「人に働きかける力」が必要。「説得力」「影響力」「この人ならついていきたい」と人に思わせる力を自分のものにしましょう。
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「内部欲求」に応える
「上に立つ人」が求められる力とは
「上に立つ人」は「人を惹きつける力」も必要ならば「人に働きかける力」も持っていなければなりません。 それが「エグゼクティブプレゼンス」と呼ばれるものです。
「説得力」「影響力」、そして「この人ならついていきたい」と人に思わせるよう力を身につけましょう。
さて、あなたがリーダー、あるいは「上に立つ人」であるとき、人から求められているものはなんでしょう。
「仕事の能力」「決断力」などを上げる人は多いと思います。また、ぐいぐいと人を引っ張る力「統率力・牽引力」をイメージする人も多いでしょう。それがわかりやすい「リーダー」のイメージでもあります。そんな「力強さ」も必要です。
しかし、実際には人を惹きつけ働きかける力は「力強さ」だけでは不足です。 長期にわたり人に影響する人や、人の内部に働きかけて望ましい方向へ導ける人は、さらに違う力を持っています。 それは「人の内部欲求に応える力」です。
人の「内部欲求」を理解する
人の内部欲求とは、人の心が本質的に求めていることです。
「マズローの五段階欲求(自己実現理論)説」という言葉をお聞きになったことはありますか。 アメリカの心理学者A.マズローが唱えた、「人間は自己実現(存在確認)に向かって絶えず成長する」という学説です。
マズローが言うのは、人は一つの欲求が満たされると、その上の段階の欲求を自然に感じ、自然にそれを叶えたいと欲するようになるということです。そして、その段階を進んでいくことは、人間としての成長の軌跡でもあります。
その欲求の段階はこのようになります。
1. 生理的欲求
生命維持のための食欲、性欲、睡眠欲などの本能的・根源的な欲求
2. 安全欲求
衣類や住居など、安定・安全な状態を得ようとする欲求
3. 親和/所属欲求
他人と関わりたい、他者と同じようにしたいなどの集団帰属の欲求
4. 自我/自尊 欲求
自分が集団から価値ある存在と認められ、尊敬されることを求める認知欲求
5. 自己実現欲求
自分の能力、可能性を発揮し、創作的活動や自己成長を図りたいと思う欲求
これら5つの欲求のうち、欲求の対象が外部にあるのが1、2、3の欲求、そして自分の内面的な欲求を満たすのが4、5の欲求であると心理学上で分類されます。前者は「外部欲求」、後者は「内部欲求」と呼ばれます。
ここでわかっていただきたいのは、「人間が行き着くところは、内面を対象として自己の存在を確認する『内部欲求』である」ということです。これは、マズローの学説を知らなくても、誰でもどこかで感じることかもしれません。
しかし、ここで改めてしっかりと理解しておいてください。 「内部欲求」は何よりも強い根源的な欲求であることは、心理学で普遍的に認められている真実です。ですから、「内部欲求」を満たすための行動は人を駆り立てる行動となります。
人間が持つ強い内部欲求は以下のものです。
●自己重要感
自分を大切に扱ってほしい、自分を重要な存在だと感じたい、と願う心
●承認欲求
自分の存在を認めてほしい、自分の働きかけに応えてほしいと願う心
つまり、他者の自己重要感や承認欲求を満たせる者は、その他者を動かすことができる存在です。
ウィリアム・ジェームズというアメリカの代表的心理学者は「人間の持つ感情のうちで最も強いものは『他人に認められること』を渇望する気持ちである」と言っています。
あなたがそのことを忘れなければ、長期にわたり人に影響する人や、人の内部に働きかけて望ましい方向へ導ける人になれるのです。
内部欲求が満たされない時の過剰防衛
内部欲求が適度に満たされないと、その人にはどんな現象が起きるでしょうか?あなたはこんなケースに会ったことはありませんか?
ケース1 いつ会っても自分の自慢話ばかり
「私は○○(有名な人や力のある人)と知り合いで…」「この前もこんな風に賞賛された…」「皆が私がいないとダメだと言う…」。
もっと認められたい、もっと自分を重要と思ってほしい、こんな心の動きが強いと、つい自分をクローズアップする話ばかりをしてしまいます。もちろん何かあれば自慢したいという気持ちは誰もが持つものです。
しかし、「いつ会っても」「ことあるごとに」と感じてしまうような傾向が見られる場合は、他人にしてほしいことを自らの言葉で過剰に表現している状態です。そんな人は「本人の内部欲求が満たされていない」ことが多いのです
ケース2 派手な持ち物で飾り立てる
高級な車、目立つ宝飾類、有名ブランドもの、派手な衣類、非常に目立つメイクやヘア…これらのもので自分を飾り立てる傾向がある場合は「本人の内部欲求が満たされていない」ことが往々にしてあります。
もちろん好みは人それぞれで、ブランディングとして「目立つ」という狙いをしっかり考えている場合もあります。しかし、「とにかく目立ちたい」「人が注目してくれるから手に入れたい」というような理由しかない場合は、内部欲求が満たされておらず、自己顕示欲が過剰に働いていることが多いのです。
ケース3「私なんて」「どうせ○○だから」
会話でよく「私ってダメなのよね」「どうせ僕は○○だから」と事あるごとに自分を卑下するような発言をする人がいます。聞いているほうは「そんな事ないですよ」「いえ、立派ですよ」とついフォローに走ってしまいますよね。
内部欲求が満たされていない人は、まさにその言葉を求めて、自分を卑下する発言を繰り返します。こういった自虐的な発言は人間誰しも気弱になるとつい言ってしまうものではありますが、不必要なくらい言う、と感じさせてしまう場合は、満たされていない」と考えられます。
いかがでしょう。こんな人たちとはちょっと付き合いづらいですね。しかし、自分自身にもそうなる可能性があることを忘れてはいけません。こんな人たちの行動は、満たされない内部欲求を潜在意識が必死にカバーすることで起こる、いわば過剰防衛だからです。これらの行動が顕著な人の場合、その人は「自分を認めてほしい」という欲求が満たされないことに強い不安を抱えていることが考えられます。
自分では気づきにくい潜在意識から動かされて生じる行動や振る舞いは、他人には変に映っても自分ではわかりません。自分自身がいつのまにかこのような傾向に陥っていないか、時々振り返ってみたいものです。また、部下、家族などにも目を配る必要があるでしょう。
内部欲求に応える人が持つ「力」
潜在意識がついカバーしてしまうような強い感情を伴う欲求=内部欲求。それを考えれば、その欲求に常にうまく応えられれば、それだけ人を動かせることになるということです。
脳は根源的な欲求が満たされると快感を感じます。生理的欲求のことを考えるとよく理解できますね。 快感を感じた脳は、それを良い体験として学習し、記憶に格納していきます。そんな根源的な快感を与えてくれた人の存在は好意的な感情とともに記憶されます。それは「この人と関わると自分に良いことが起こる」という期待を生みます。
ですから、人間の内部欲求に対して敏感であり、それに応える術を持つ人は他者から「関わりたい」と思われるようになり、慕われたり影響力も強くなるわけです。
歴史上の人物でも、そのような人間が「人たらし」と呼ばれ、人を集めたり動かしたりすることに長けていた人心掌握力に秀でた人物が多くいます。
本当の「力」とは人を抑え、無理やり言うことをきかせるものではありません。 それは一時的には上手くいったように思えても、反発が残ります。反発は人間の脳にとっては快感でなく不快感にあたります。警戒心や忌避したい心を助長するものなのです。それでは結局避けられる存在になってしまい、最終的に影響力を及ぼす存在にはなれません。
本当の「力」とはあなたの言うことを聞きたい、あなたに関わりたい、あなたに従いたい、という人間が多くなることです。 そのためには「内部欲求に応える」と言う意識を忘れてはいけません。 内部欲求への応え方は次の章で説明します。