有能セラピストやカウンセラーがすぐに人の心を開くことができる秘密はここにあった。

 

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(トータル時間 14:37)

■ラポール・同調スキル・ペーシング(07:46)

■ミラーリング・バックトラッキング(06:51)

 

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本能的な警戒の「壁」を突破する「ラポール・スキル」

 

臨床心理学の分野に「ラポール」という言葉があります。 あなたもこの言葉は聞いたことがあるかもしれません。

ラポールの意味は、人と人とが「親しく感情がかよいあう状態」と言われます。つまり、本来だったらあるはずの本能的な警戒の「壁」が低くなっている状態、そのため相手に近づくのが容易な状態ということです。お互いに心をある程度許した状態ですね。

前の章で「賢者のコミュニケーションに重要な3つのポイント」をお伝えしました。「1 人と自分は違う」「2 人の頭にはブラックボックスがある」「3 人の頭の中には3つの生物がいる」の、特に「3」で説明した「本能は常に警戒を怠らない」ということを思い出してください。

人と人との間には「警戒の壁」があり、何かそこに引っ掛かれば相手は心を閉じてしまいます。信頼どころか普通のコミュニケーションも期待できません。逆に、何かで警戒の壁が低くなると、相手は心を開いてくれやすい状態になり、相手に伝えたいことや相手から引き出したいことをスムーズに通すことができます。それが「ラポール」という状態です。

有能なセラピストやカウンセラーは、「ラポール」をたやすく築く名人です。そのためのテクニックを持っています。 そのテクニックは、「ラポールテクニック」「ラポールスキル」などと呼ばれています。

このテクニックは、相手の無意識(潜在意識)に働きかけ、相手の本能的な警戒を緩めます。ですから、相手の信頼感を自然に得て、時間をかけずにプライベートな事情や心の奥の繊細な部分まで明かす状態に持っていけるのです。

これはセラピストやカウンセラーだけに必要なテクニックではありません。ラポールスキルは自分が望む方向へ人を動かしやすくするスキルなのです。説得や交渉、人への依頼や指示、営業の現場などビジネスの日常で役立ちます。

実際、「できる人」はこのスキルを意識的・無意識的に体得し、使いこなしています。習っている、いないに関わらず、です。 自分の経験則から身につけている人も多いのです。成功する人はどこか人の心に敏感なのでしょう。

すぐに人が打ち解けやすく、信頼が得やすく、人を動かすために役立つスキル。それをあなたも身につけてください。ここではラポールスキルの中でも特に基本的かつ重要な「同調スキル」を学びます。これをきちんと身につければ、驚くほど人と接することが上手くなりますよ。

 

 

 

同調スキル

 

同調スキルの意味と使いこなすための3つの条件

 

同調スキルとは、単純に説明すると、相手と波長を合わせるスキルです。日常のコミュニケーションで使いやすく、またすべてのコミュニケーションスキルの基本となるテクニックです。

外部を警戒する本能は「違和感」に敏感です。「違和感」は自分という存在と異なる存在であることを示し、それは危険のサインでもあるからです。その代わり、自分に似ているものにはそれだけ安心します。相手と同調するスキルは相手の本能に相手と自分が似ていることをを知らせ、安心を与え、警戒を緩めやすくするものです。

 

同調スキルは3つあります。

⚫︎ペーシング

⚫︎ミラーリング

⚫︎バックトラッキング

 

ここからご説明していきますが、同調スキルを使いこなすには下記の3つの条件があることをあらかじめ理解しておいてください。

 

★見た目やマナー

相手が不信感を抱くような見た目(身だしなみが悪い等)だったり、挨拶や態度などが相手にとって失礼だったりすると、不快感や警戒心は強くなるだけです。そんな状態ではスキルを使っても効果は非常に出にくくなりますので、くれぐれも気をつけてください。

★印象や表現力

印象コントロールでお伝えした、笑顔などの表情や視線やアイコンタクト、声の調子などの意識が大切です。無表情だったり目がどこかに泳いでいたり、あるいは棒読みのような言い方ではスキルの効力はありません。

★傾聴の態度

スキルが効果を発揮すると、相手はよく話すようになります。そんな時に「聞く態度」「相手の言葉を促す態度」がうまく伝わらないと、せっかくの効果が台無しです。相手の話を親身に聞く態度が必要です。  

 

では、ここから3つの同調スキルについてご説明します。

 

「ペーシング」

 

ペーシングの意味と要素

 

「ペーシング」とは相手の動きや様子に合わせることです。相手を注意深く観察し、相手のペースに自分のペースを合わせていきます。 

合わせる要素は主に以下のものです。全ての要素をペーシングする必要はありませんが、観察し気を配ることは無駄になりませんので、相手の様子を見る手掛かりとしても覚えておきましょう。

 

●呼吸

相手の吸う吐くのテンポ、浅さ深さ、口呼吸や鼻で吸って口から吐くなど、探せば特徴があります。少しずつ合わせていくといいでしょう。  

 

●姿勢や動作

相手が取りたい距離は姿勢や動作に現れます。それを無視して自分のペースで近づいたりすると、相手の無意識の警戒心は強くなります。様子を見て距離感を合わせることです。  

 

●表情・感情・まばたき

相手が表情を抑えている時にはこちらも笑顔を抑えて同じように相対する、相手が興奮している様子の時にはこちらも少し声を高くし様子を合わせる、などが考えられます。まばたきの頻度なども気をつけて見てみてください。  

 

●声(大きさ・トーン・テンポ)

周りを気にしないで大声を出す人を少し礼儀知らずだと感じたりしませんか?最初は相手の声の大きさや高さ、話し方のスピードなどに注意してください。  ここでも合わせることが必要なのです。

 

●相手が使う言葉

相手がよく使う言葉には、相手の価値観や優先したい物事などのヒントがあります。「この言葉をよく使うな」と気がついたものがあれば、相手への発言にわざとその言葉を織り交ぜて見てください。反応が変わることが大いにあります。

また、相手がよく使う言葉は、相手が優先する感覚器官やパーソナリティによって一定の傾向が出てくることが多く、そのパターンを知っておくと、早いテンポで相手の信頼を勝ち得たり、説得力を強めることもできます。(これらのパターンについては、また後のステップで紹介していきます。)  

 

●コンテキスト

「コンテキスト」とは場面、場所、タイミング、トピックを意味します。つまり「コンテキストをペーシングする」というのは、ざっくりとした表現をすると「その場の雰囲気に合わせる」ということになります。    

 

 

ペーシングを使いこなすポイント

 

ペーシングを使いこなすには表情や視線、動作や声と話し方など「印象コントロール」を改めて意識してください。

簡単そうな「ペーシング」ですが、スムーズで自然に使いこなさないと意味がありません。まず相手を観察することが必要ですが、「観察している」ことが相手に気取られては逆効果です。自然な態度や表情での観察が必要です。そして、表情や声、動作などを相手に合わせるには、表現力が身についていなければなりません。

「印象コントロール」がいかに大事かお分かりでしょう。基本やポイントを再度見直しておくことをお勧めします。

 

 

「ミラーリング」

 

ミラーリングの意味とポイント

 

「ミラーリング」とは相手の動作などを鏡写しにすることです。 例えば、相手がコーヒーを手にしたら、自分もコーヒーを。相手が書類を見直したら自分も。 こんな風に向かい合う相手の、主に動作の真似をすることがミラーリングです。

ルールは、相手が鏡を見ているように真似をするということです。向かい合っている場合、相手が右手を動かしたら自分は左手を動かす、ということがポイントとなります。

非常に単純で「こんなことで?」といぶかしがられますが、実は効果が強いものです。最初お互いに緊張しているようなタイミングや、話があまり進まないときなどは、特に効力を発揮します。営業や交渉ごとで話が膠着しているときや、インタビューで相手から話を引き出したいときなどでよく使われます。  

「ミラーリング」は相手に「自分と(あなたは)相似形である」と錯誤させる手段です。相手はあなたを「自分」と錯覚するというわけです。 相手が気がつかないくらいにかすかに相手と同じような行動をとると、相手の潜在意識は自分と同じように動く対象を見るうちに「親和性や共感」を感じ始めることがわかっています。自分が「自分」に心を開き、親しみを感じるのは当たり前なのです。「ペーシング」も同じ原理です。  

 
使い方のアドバイス

 

このスキルの難しい点は、「相手にわからないようにしなければならない」ことです。 ミラーリングは「真似している」ことがバレやすいですが、それがいったん相手に気取られると、相手は不快感を覚える可能性が高いからです。

また、営業担当やコンサルタントなどは知っている人が意外に多く、わざとらしい動きではすぐバレてしまいます。さりげなく行うには、ここでも「印象コントロール」が重要なスキルとなるでしょう。以下の点も覚えておいてください。

 

●常時行う必要はありません。

盛り上がりに欠ける、相手の警戒がなかなか取れない、態度が硬い、と感じた時を中心に試してください。

●そっくりに真似しなくても大丈夫です。

位置や方向を真似していきましょう。相手が手を動かしたら、同じ方向や高さに動かす、相手が背もたれに背を預けたら、自分もゆったり座りなおしてみる、という感じです。  

 

 

「バックトラッキング」

 

バックトラッキングの意味

 

バックトラッキング」とは会話の中で、意識的に相手の言葉を繰り返して相手への受け答えをすることです。

例えば、「昨日ゴルフへ行ってきたんだ」と誰かが言ってきたとき AとB二つの答え方を聞いてみましょう。

「昨日ゴルフに行ってきたんだ」

A「スコアいかがでしたか?」

B「へえ、昨日はゴルフだったんですか。スコアいかがでしたか?」

 

Bがバックトラッキングを用いた会話になります。  自分がゴルフに行った人になったつもりで、会話を想像してみてください。どちらが返事をしやすく、話がはずむでしょうか。Bのほうではないでしょうか。

その理由は、自分が言った言葉が繰り返されることによって「自分の言葉が伝わっている」という安心感が生まれやすくなるからです。この繰り返しは人の納得感や発言意欲、コミュニケーション意欲を上げることが知られています。 

そして、「相手に自分の言うことが伝わっている」という認識が生まれることによって、良いコミュニケーションが取れていると、潜在意識が状況を理解します。それだけで、潜在意識が「良いコミュニケーション」の中にいるつもりになってしまうのです。そうすれば、警戒心は低くなり、会話の内容に意味がある、楽しい、と感じ始めます。そんな会話をもたらしてくれる存在に「好意」「信頼」が生まれてきます。

そうなると、「会話の内容への同意」も自然と生まれやすくなるのです。話の説得力や影響力は、このような微妙に働く言葉の差でも左右されます。

 
バックトラッキングの使い方

 

バックトラッキングは、相手が言ったことを繰り返してから、自分の聞きたいことや言いたいことを伝える、という順番で発言します。

先ほどの例ですと、「昨日ゴルフに行ってきた」という相手の言葉に対して「スコアはいかがでしたか?」と聞きたいことだけを言ったのがAです。しかし、Bはその前に「『昨日はゴルフだった』んですか」と相手の言葉を繰り返し、その後で「スコアはいかがでしたか?」と聞いています。

このように、相手の言葉に直接反応する言葉の前に、「相手が言ったことの繰り返し」をワンクッションとして置くことを意識しながら会話します。  

注意するポイントは、傾聴の態度と言い方です。相手の話に興味があるような態度で話を聞き、相手の言った言葉に強い興味を示しているような言い方で相手の言葉を繰り返してください。他のスキルと同様、無表情・棒読みでは全く効果はありません。 ここでもやはり「印象コントロール」がキーとなります。

慣れてくると、少しずつ自分の言いたいことにつないでいきながら会話を誘導していくことも可能です。また、相手の発言意欲やコミュニケーション意欲を引き出し、話が途切れにくくなりますので、ビジネスの雑談も上手くなります。  

 

 

同調スキルを役立てるための「リラックス感」

 

ラポールスキル、そして特に重要な同調スキルはいかがだったでしょうか。

決して珍しいものではありません。知っている人も少なくありません。 しかし「やってみたけど、全然ダメだった」という人もまた多いものです。

その理由は、多くの人が「不自然」になってしまうからです。 いかにも「やるぞ」と意欲が見えるような固い態度だったり、 緊張した面持ちだったり、視線が鋭くなっていたりするのです。 「スキル」を意識して自分が緊張していれば、相手にもそれが伝わります。普段と変わらぬ様子やゆったりとリラックスした雰囲気を保ってください。

以下のポイントに気をつけ、リラックス感を出しましょう。

 

好意的な表情

相手から見て、好意的に見える表情が大切です。意識が「スキル」に行ってしまって厳しい顔つきになれば、相手の警戒心や不快感を刺激するだけです。

 

視線をソフトに

相手を観察することや言葉を捉えることに一生懸命になりすぎて、視線が「フォーカス」で固定されやすくなります。これでは不自然です。こんな時は「ソフト」。焦点を絞らず、柔らかい視線を維持するようにしてください。  

 

 

いかがでしょうか? 「できる人」は人と接するときにすでに使っている「同調スキル」。さっそく実践していって、さらに信頼を得やすい存在になってください。