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正しいTPO感覚を養う「ドレスコード」

 

ドレスコードの意味

「ドレスコード」とは何かご存知でしょうか。ドレスコードは「服装規定」と訳される言葉です。そのように考えると「制服」のような決まり切った服のイメージや、堅苦しい礼装のイメージを思い浮かべるかもしれません。あるいは、楽しいパーティで身につける色やアイテムを想像するかもしれません。

現在、その意味は下記の3つであると定義できます。  まず、この3つの意味をよく知っておいて下さい。

①がもともとの意味で王侯貴族を中心とした儀典の場のことでした。それが②のように社会の変化により一般市民の装いの適切な服装を指すようになりました。私たちに関係するのはこの②です。

③は会を盛り上げたり統一感を出すために「黄色を身につけて」とか「ハロウィンの仮装が条件」など主催者などから勝手に出すリクエストです。主催者に失礼にならないよう、きちんと守りたいですが、②についてきちんと適切な装いをした上でのことになります。

「ドレスコード」は、正しいTPO感覚を養う上で、あなたに必要な知識です。あなたがこれから活躍する場が広がれば、多くの人、いろいろなコミュニティに出会います。そこには多くの「品格ある人」「常識をわきまえた人」がいるはずです。その世界であなたが正当な評価を得るためには、あなたもまた品格を備え常識をわきまえている必要があります。ここで必要なのが正しいTPO感覚です。

(TPO:T=Time(タイム=時間帯)、P=Place(プレイス=場所)、O=Occasion(オケイジョン=機会・目的)

ドレスコードの理解ポイント

 

ここから説明するのはドレスコードの最低限知っておきたいポイントです。理解しておけば「こんな時の服は? 色は? 小物は?」と、服装に迷うことがなくなります。

 

1 普通服でも、フォーマルウェアの考え方が基底にある

ドレスコードのほとんどは、古(いにしえ)の貴族の厳格な服装ルールから生まれ、時代の流れとともに広がってきたものです。王族や貴族層においては様々な時間帯や様々な儀礼・イベントに合わせたふさわしい服装を身につける決まりが守られていました。フォーマルウェアは日常でも身近な世界だったわけです。ですから、そこに参加し、認められるためには、そうした服装の決まりごとを知り、守る必要があったのです。

現代に近づくにつれて、階級社会は変容してきましたが、マナーや儀礼的なものの考え方は、貴族階級の例にならうパターンが主でした。そうやってできたドレスコードは、現代の普通服であっても、フォーマルウェアからきた考え方が基底にあります。特にビジネスなどの場にあっては、感覚的に身につけたいことが多くあるのです。

ですから、フォーマルウェアの考え方をまずは軽く理解しておいてください。

2「知っていて当たり前」な暗黙のルールである

TPOに関する常識やセンスは、社会上層部に近づけば近づくほど必要なものとなります。服装は着る人自身のことだけでなく、相手や場面に対する気遣いや敬意も表現するものだからです。

欧米では「パブリック」(プライベートで空間ではなく、人とシェアしている空間」という概念がしっかり存在しているため、「パブリック」にあるときは、ちゃんとした社会人であれば自分の立場を適切に表現することや、相手や周囲に対し気遣いや敬意を表せなければならない、ということが暗黙のルールです。

その通念の中で「ドレスコード」は必須の知識です。ある程度のポジション以上の人間がポジションや場面にふさわしくない服装をしてTPOを外したり、スーツと靴など組み合わせを間違えるだけでも「知っていて当たり前のことがわからないなんて」と見下される理由になり得ます。

「パブリック感覚」、「TPOの判断」、「組み合わせ」は特に意識しておきましょう。

 

3 色やアイテムを楽しむのは正しいTPOを守った上で

催事の主催者が指定してくる色や柄、あるいは「雰囲気やノリ」などもドレスコードと呼ばれます。これを守ることも大切ですが、まず適切な服装スタイルを選んでから、プラスアルファで付加するという感覚でいることが大人の社会人には必要です。例えば、それなりに格式のある会なのに、「ドレスコード・イエロー」と書いてあったからといって、黄色いTシャツ1枚で参加することは大人の選択としてふさわしくありません。

適切な服装を選んだ上でリクエストされたニュアンスを加える、このさじ加減がセンスや常識、社会的な成熟度まで表したりするものです。特に遊び心があるビジネス関連の場面では、何を選ぶかは意外と重要です。

フォーマルウェアの知識

 

概略で理解するフォーマルウェアの考え方

 

もともとフォーマルのルールとして生まれたのがドレスコードです。ですから、その考え方や感覚は現代の服装にも影響しています。現代の服装ルールを理解するためにも、それらの考え方や感覚を理解しておきましょう。私たちのふだんの生活にはあまり関係のないフォーマルウェアですが、日本の冠婚葬祭マナーではない、国際的なドレスコード感覚を養っていただくために、あえてここで説明させていただきます。

まずこちらをご覧ください。大きく見たドレスコードの構成です。実際は、もう少し細かく場面が分かれますが、まずここからのポイントに沿ってドレスコード全体をざっくりと把握していただければ結構です。

 

「フォーマル」と「インフォーマル」

 

「インフォーマル」とは、「フォーマルではない、略式の」という意味の言葉です。

昔の貴族の世界では、儀礼や社交界といった「公式」場面と、狩猟や散歩や私的なお茶会といった「私的」場面では着るものに違いがありました。そして「公式」場面ではフォーマルウェア、「私的」場面では「インフォーマルウェア」と分けて着ていました。 その名残で、わたしたちがふだん着ているのが「インフォーマルウェア」というくくりになっています。

例えば、男性がビジネスで着るビジネススーツは「インフォーマルウェア」にあたります。「フォーマルウェア」として着るスーツとは別物になります。着て良い色や各ディテールや使う生地など、ルールがまるで違うのです。

そして、ややこしいのですが、「ビジネスフォーマル」と呼ばれる服装は、「インフォーマルウェア」であるビジネススーツの中でも、より厳粛な大事な場面に着るべき服装であって、やはり「フォーマルウェア」として着るスーツとは別物になります。このあたりの感覚はぜひ覚えておいてください。

 

「正」と「準」

 

フォーマルウェアは大きく分けると「正礼装」と「準礼装」に分かれます。 「正礼装」は「最も正式な場所に着ていく服装」であり、その種類や着方は厳格に決められています。

日本で正礼装をすべき場面は、一般ではほぼなく、皇室が国賓を招くときなど、ごく限られています。 海外ではもう少し身近なようです。ノーベル賞授賞式と晩さん会が正礼装の機会としてはよく知られています。

日本ではあまりなじみがないと言いましたが、結婚式に花嫁花婿の父親はよく、昼間の正礼装であるモーニングを着用することが多いですね(それに対応して母親のほうは洋服ではなく着物の正礼装として五つ紋付きの黒留袖という格好をすることが多いです)。

いっぽう「準礼装」は「正礼装に準ずる服装」とされます。日本でも夜の準礼装であるタキシード着用のパーティなどの機会を見るようになりました。

タキシードになると、欧米などの社会では企業関連のパーティなどでも意外とよく着用されます。それもごく自然に着こなしている人が多いことから、海外赴任や出張などのときにはその感覚の違いに注意が必要です。 特に夜の時間帯の催し物に招かれるような時には、ドレスコードによく注意をしておかないと恥をかくばかりでなく、思わぬ非礼となったり、対等と見られない可能性もあります。

 

「昼」と「夜」の区別

 

上に「昼の」「夜の」とついていることからわかるように、フォーマルウェアは「昼」「夜」といった時間帯でふさわしい服装を厳格に分けます。フォーマルウェアはざっくりと大きく分けると下記の4種類です。

●夜の正礼装

●昼の正礼装

●夜の準礼装

●昼の準礼装

 

もともと貴族の生活から端を発しているのがフォーマルウェアなので、時間帯による雰囲気に合わせて着分けることが優雅さとして尊重されていました。それが現代ではビジネスエリートにとっても心得ておくべき感覚として捉えられています。

ですから、時間帯に無頓着で、昼夜関係のない格好をしているのは極端に言えば「失礼」「野暮」「無教養」という感覚です。そしてそんな感覚は、インフォーマルウェアにおいても、食事や会合のような社交的な場面では影響が残る感覚です。

つまり、フォーマルウェアだけでなく、インフォーマルウェアにおいても「きちんとした格好」になるにつれて、「昼にふさわしい」「夜にふさわしい」と服装に配慮することが必要になってきます。

よく言われる「TPO」の最初の「T」はTime(タイム=時間帯)であるように、時間帯にあった服装は格の高い場面では重視されるものなのです。そういった感覚に気をつけていきましょう。

 

フォーマルウェアのイメージ

夜の正礼装/昼の正礼装/夜の準礼装/昼の準礼装 それぞれのイメージがわかりやすいよう図解します。

正礼装について

 

正礼装は最上級のフォーマル。

夜は男性は燕尾服、女性はローブデコルテという肩と腕を出した裾の長いドレスに肘までの手袋という格好です。(イブニングドレスの場合もあり)

昼は男性はモーニング、女性はローブモンタントという襟のつまった袖と裾が長いドレスを着ます。

結婚式で新郎新婦のご両親が着ているようなスタイルですね。正礼装は、それこそ公式であり非常に格式が高いところか、国賓クラスの集う場所が主となります。私たちがよく目にするのは皇室の晩餐会やノーベル賞の授賞式が多いですね。日本では一般庶民が着用する機会はあまりありません。あって、子供の結婚式で一生一度着るくらいではないでしょうか。

ヨーロッパでは、もう少し幅広く着用されています。一部のオペラのオープニング・ガラなど格の高いパーティや伝統ある団体の会合などは一般的に着られることがあります。イギリスの名門パブリックスクール「イートン・カレッジ」はいまだに制服に燕尾服を用いています。

 

準礼装について

 

準礼装は正礼装に比べて登場頻度は高くなります

特に夜の準礼装であるタキシード(女性はその場面にふさわしいドレス)は、海外では意外に着る機会が多いものです。日本でも着る機会が増え、それとともに、構えず着こなす人がだんだんと増えています。男性がタキシードの場合、女性はイブニングドレスや露出度高めで裾が長めのディナードレスカクテルドレスです。

昼の準礼装は、男性はディレクターズスーツというモーニングの尻尾を切ったようなスタイルですが、最近はブラックスーツやダークグレーのスーツなどがほとんどのようです。女性はアフタヌーンドレスと呼ぶエレガントな形の袖の長いワンピースかドレスアップ用のスーツです。礼服を誂えなくても、普段よりエレガントな雰囲気の服装、というイメージでいれば良いでしょう。

 

日本の礼服は世界では略装?

 

日本では、男性の場合は結婚式では昼でも夜でもブラックスーツに白い付け下げのネクタイ、という出で立ちが普通ですが、その服装は国際的なルールで見ると「略礼装」にあたります。(しかも洋服国から見ればだいぶ変わったいでたちになります。)

正式なフォーマルは、昼と夜との区別があり、また着方や小物まではっきりと決まっています。国際的なマナーや礼服感覚と日本のローカルマナー的な慣習の違いがあることを意識しておきましょう。

 

ブラックスーツは「黒色のスーツ」ではない

 

略礼装のブラックスーツはただの黒いスーツではなく礼装用に作られたスーツを指します。普通のビジネス用(インフォーマルのスーツ)とは細かなところが違いますので、注意してください。 <フォーマルのブラックスーツと普通のスーツの主な違い>

      • フォーマルはノーベント(ジャケットの後ろや横に切れ込みがない)
      • フォーマルは一つボタン(普通のスーツは2〜3個)
      • フォーマルは裾がシングル(フォーマルにダブルの裾はない)
      • フォーマルは礼装用の服地で作られる

 

「ホワイトタイ」「ブラックタイ」と言われたら

 

夜の正礼装である燕尾服は必ず白のボウタイ(いわゆる蝶ネクタイ)をしなければなりません。このことから、ドレスコードが「ホワイトタイ(white tie)」とあるのは夜の正礼装(女性はローブデコルテかイブニングドレス)を意味します。

同じく、タキシードが黒のボウタイをつける決まりから、「ブラックタイ(black tie)」と招待状に書いてあれば、夜の時間帯で準礼装がふさわしい場面なのでタキシード(女性はイブニングドレスかディナードレス、カクテルドレス)を着てくるように、と指定されていることになります。

念のために覚えておいてください。

 

民族衣装(和装)の扱い

 

国際的なマナーでは、民族衣装(ナショナルコスチューム)は礼装として認められることになっています。日本人で言えば和装、つまり「着物」が「民族衣装」ですから、周りが燕尾服、またはタキシードでも着物で参加できるわけです。

ただ、「格」は必ず合わせなければならないので、着物であれば何でも良いわけではなく、下表が着物における正礼装、準礼装になります。

 

正礼装 準礼装
男性 黒紋付(五つ紋) 色紋付(三つ紋)
女性 黒留袖(五つ紋) 厳格な場所でなく、ゲスト参加の場合は色留袖(五つ紋)もあり 未婚の若い女性は三尺三寸本振袖 色留袖(三つ紋) 未婚の若い女性は二尺五寸振袖

 

着ていく場所や場面のイメージ

 

フォーマルウェアとインフォーマルウェアがそれぞれどんな場面に登場するかのイメージをお伝えします。

日本で普通の生活をしている限り「夜の正礼装」である燕尾服(女性はローブデコルテ)を着る機会はまずありません。

しかし、夜の準礼装であるタキシード(女性はイブニングドレスやディナードレス)などは海外出張などであれば着る必要があるかもしれませんし、日本でも最近ドレスアップして参加する会などが増えてきましたので、この先もますます増えるでしょう。慣れておく方が得です。

昼間の正礼装である「モーニング」も、日本ではせいぜいお子様の結婚式くらい。日本でよく見るのは政治の組閣で閣僚発表のときですね。海外においても着る機会にそれほど縁はないでしょう。ただ、関係ないように見えても、ひょんな機会から正装で昼間の会合に参加することがあるかもしれません。  昼と夜のスタイルの違いを忘れないようにしてください。

 

(組閣で閣僚が一堂に会し、閣僚人事が発表される際、それが夜であってもモーニングを着るのはなぜか、と疑問を持つ方もいらっしゃると思います。これは、内閣が誕生すると天皇陛下による総理大臣親任式と閣僚の認証式が行われるにあたって、もともとはそれらが「朝参」の形で行われるものであったから、という説が濃厚です)

 

「平服」の意味

 

「平服」とは、その人の普段の服、という意味ではありません。 「平服」は「わざわざフォーマルを着なくていいですよ。インフォーマルでいいですよ」という意味です。しかし、わざわざ「フォーマルでなくていいですよ」と伝えるくらいですから、格式が低いわけではありません。

ですから、インフォーマルであり、公的な場所(パブリック)でのスタイルと考えて、それ相応のきちんとした格好はしていかなければならないと考えてください。ビジネススタイルと同じ程度とすればいいでしょう。

男性でしたらスーツとネクタイ、女性もきちんと見えるスーツか長袖で膝下丈程度のワンピースがスタイルとして適切です。参加する場面や会によって、少しエレガントな格好にした方がいい場合と、昼間の仕事の延長で考えた方がいい場合があります。

「平服」と聞いて、ふだん着るTシャツやジーンズ、スニーカーを履いて行ってしまう人、まだまだ多いようです。気をつけましょう。あなたが部下を持つ上司なら、平服とされる機会があれば、部下がそのような勘違いをしないようにひと言アドバイスをしてあげなければならないかもしれません。

 

いかがでしょうか。以上のことを頭に置いておいてください。 「ドレスコード」の全体を把握するのに役立ち、「この場面はこれかな」と想像がつきやすくなります。