TEXT

服でいちばん大事なことは?

一流がこだわるサイズ感

 

「服でいちばん大事なものは?」と聞かれたとき、多くの服装のプロフェッショナルは、「サイズ感」と答えます。  服に慣れない方は生地やデザインばかり気にしますが「格(クラス感)」の違いが出やすいのも、実はサイズ感なのです。

「サイズ感」とは、体の大きさやシルエットに対して服のサイズが適正であると感じられることです。人の能力として「サイズ感」という時には、その人が適正な服のサイズを感覚的に判断できること、そのような知識やセンスを持っていることです。

どんなに高級なものでも、どんなにすばらしいデザインでも、サイズが合わなければ、美しくなく、それではまったく意味がない、と考える人は多いですが、特に「モノがわかっている人」つまり社会的に上層部にいる人には圧倒的に多いのです。

 

服はフィット(Fit)を意識する

 

サイズ感のベースとなるのは「フィット」という感覚、つまり体につかず離れずで身体を美しく見せるような適度なゆとりやシルエットです。

残念なことに、日本では多くの人が「大きめサイズ」を身につける傾向があります。これも服飾の専門家がよく言うことですが「どこか『これ以上大きくなっても着られる』で選ぶ傾向が日本人にはある」ということです。

では、一流のエグゼクティブはどうかと言うと、「服を身体に合わせるのではなく、身体を服に合わせるべきだ」というツワモノが結構いらっしゃいます。実際、一流の人はよくスーツなどオーダーをしますが、そこで重視するのはサイズが大きすぎず、小さすぎもせず、自分にフィットしているかどうかです。そして一部の隙もなくフィットした完璧なスーツのためにジム通いで体型を保つのです(これは本当です) 。

女性も男性も、だんだんと肩や腕、胸周りなどが「合わない」ことに満足できなくなり、市販品より高価なオーダーにいつのまにかシフトしてしまった、という人は少なくありません。それだけ自分のシルエットにこだわり始める、ということは、自分に対する意識や感性が高くなっていくということです。

これは、どういうことかと言うと、自分に対する意識が高いことと成功することはやはり比例関係にあるということです。全てとは言いませんが、自分に似合う服をサイズ感まで意識した人が成功している例は多い、ということですね。

一流の人、そしてプロフェッショナルに見える人のサイズ感を一言で言うなら、男性女性ともに「フィット(fit)」。「フィット」とは、身体のラインに沿っているが、ピタピタではなく、ゆとりがある。しかし、ダボダボではない、ということです。

ビジネスで身につけるものは、サイズが合っているかどうかで、能力やビジネスセンス、社会的な知性まで判断されがちです。服飾ファッションとしては、その時々の流行で、ぴたっとしたシルエット、ダボっとしたシルエット、カッコよさは色々ありますが、ビジネスにおいては、流行にはまってしまうよりも、シルエットについては意識しつつも、ビジネスらしいシルエット=フィットを守っていたほうが、知的、有能、品格を感じさせます。

また、ビジネスカジュアルはゆとりは大きくなりますが、それでも、肩や丈などの要所が「フィット」しているかどうかは、その人の「格」を左右します。

 

 

サイズ感のチェック

 

男女共通のポイント

 

ビジネスではスーツやジャケットスタイルが主役です。そのスーツやジャケットの「フィットした状態・フィットしていない状態」はどんな状態かを説明します。

買い物の試着の際には、鏡を正面からでなく、後ろ、サイドなどもよく見て、「自分の見え方」を厳しくチェックしてください。

ジャケットの場合は、肩がしっくり合っていることを確認しましょう。


袖付けのところに上図のようなシワが入っていると、「肩が合っていない」状態とわかります。Aはブカブカ、Bは肩の位置が合っていないことになります。

 

袖を横から見ると、Aのようにシワが入っていないなら「合っている」状態です。 それ以外のB〜Fのようなシワは肩の位置やアームホール(腕の太さ)大きさが合っていない状態です。

 

 

背中を見ると、首や肩甲骨の間、ヒップにかけてシワが入るのは合っていない状態です。

例えば首の後ろは肩幅に比べてジャケットの方が小さすぎる時に。肩甲骨の間にシワが入るのはジャケットが大きすぎる証拠。ヒップにシワが入るのは、腰回りに対してジャケットが小さい時です(姿勢の悪さによってお尻が出っ張っている時もこうなります。)

 

男女とも、ビジネスに合うシルエットのジャケットは、身体の曲線がきれいに見えるように作ってあります。ウエストのラインがなだらかな曲線を描くのが普通です。 ですから、腕を自然に下ろした時に、腕と見頃の間に上の図の左側のようなスキマがないと、だらしなく安っぽい印象になります。  上図右側のように曲線が感じられないようなサイズでは、「できない人間」の印象になってしまいます。

 

パンツやスカートのサイズ感もシルエットの「見え方」に大きく影響します。

 

 

腰回りが無理をすると、体型が悪く見え、また動きにくくもあります。

 

 

男性スーツでは、お尻が3分の1ほど見えるくらいがちょうどいい丈になります。丈が短かすぎるジャケットは不自然な若作りや小物感を感じさせてしまい、長すぎるジャケットは間伸びした印象になるので有能に見られることはありません。

女性スーツでも、テーラードカラーのジャケットは上のサイズ感に準じます。ショート丈にデザインされたスカートスーツやパンツスーツの場合はこの限りではありませんが、バラバラのジャケットとボトムズを合わせて着るような時にはバランスが狂いがちなので注意して合わせてください。

 

 

男性が重視すべきポイント

ここをクリック

男性スーツの場合、「サイズ感」は一層重要なものです。代表的なものをあげます。

 

 

後ろや横から見たときの、シャツ襟ののぞき方と、袖口からのシャツの出具合は「できる感」を左右する重要な部分です。 約1.5cmのぞくように気をつけてください。 それより少ししか出なかったり、

逆に大幅に出てしまうようだったりすると、だらしなさや幼さが目立つ結果になります。

スーツのパンツやストレートシルエットのパンツの場合は「ストン」と真っ直ぐに落ちるようなシルエットが正しいサイズ感です。上図Bのようなシワが入る場合は、パンツの幅が狭すぎる、広すぎる、ウェスト幅が合っていない、丈が合っていない、ヒップが合っていない、などサイズの問題のほか、姿勢が悪かったりヒザが曲がっているなどの要因もあります。

パンツ丈は、長すぎず短すぎず。甲のところに一つくらいくぼみがでる「ワンブレイク」が標準です。ここしばらくはスーツ全体の流行が少しタイトで合ったため「ハーフブレイク」もよく選ばれていますが、キャリアがあり一定のポジション以上の方はハーフブレイクだと軽く見られる可能性がありますので、出したいイメージに合わせて丈をよく吟味してください。

パンツ丈は、パンツの裾巾との相性も大切で、裾に向かってかなり細くなっているパンツですと、くぼみのない「ノーブレイク」が合う場合もあります。しかし、それくらい細い裾巾のパンツはかなりカジュアルなスタイルとなります。

 

 

女性に重要なポイント
ここをクリック

女性の場合は、上の男女共通の部分は守っていただきたいですが、そのほかに「適度な抜け感」が威厳や美しさを出すポイントです。

 

特に首回りの深さ「デコルテをどの程度出すか」は印象を左右します。 昼間のビジネスでは鎖骨くらいまでが適切です。

夜などの少し華やかな席では、そのラインを下げることによってゴージャス感が演出できます。

また、横への襟開きは鎖骨の真ん中あたりまでが限度です。それより広い襟ぐりはルーズな印象となり、ビジネスに向きません。

 

 

 

女性の「フィット」感はスカートシルエットと丈に出ます。 スカートシルエットは「ストレート」(身体に沿ってまっすぐ落ちるシルエット)がビジネスでは知性や有能さを表すシルエットです。 タイトすぎるシルエットやふわっとしたフレアなどは、カジュアル感が強すぎ、プロフェッショナル感が薄れます。

丈はヒザ丈が中心です。 ヒザより短い丈は「威厳や品格」の印象が薄れますので注意してください。しかし、長いからいいというものでもなく、バランスが悪いと鈍い印象です。特に小柄な方はあまり長すぎると重たく思考も鈍い印象になります。

スカート丈は印象に大きく影響します。丈からくる印象は、着る人の仕事イメージ、ポジション、年齢、体格などその人自身のことも関わりますが、流行にも左右されます。ということは、その年によって変わりますので、毎年よく吟味しながら決めてください。

 

サイズ調整を考える

 

自分に合うサイズのものが見つからない場合は、サイズを調整することをおすすめします。

サイズの調整は既製品のお直しか、オーダーとなります。 どちらもその分の料金がかかりますが、もし今後ステップアップを望むなら、こういう部分にお金をかけることは決して無駄ではありません。

 

お直し

試着したときの状態を見ながら、丈や太さ細さを注意深く見て、気になるところをお店の人に告げましょう。通常はピンをあてながら、直すとどうなるかを確認し、その後、修正可能な個所かどうかを確認してもらいます。

例えば、少し大きくしたい場合は、縫い代となる布地がその分あるかどうかで修正可能かどうかは決まります。また袖を縮めるのであれば、どの程度縮められるかは、シルエットやデザインとの兼ね合いがあります。そこをちゃんと見ることができるスタッフがいることも重要です。 お直しをアドバイスできず、またピン打ち(直した状態の仮止めを行うこと)にすぐ対応できない店ならば、その店で買うのはやめた方が良いでしょう

相談して、どの程度の金額がかかるかを聞き、良いようなら発注します。お直しには最短で2週間はかかります。購入はゆとりを持って計画してください。 お直しはパンツ丈くらいでしたら無料サービスをしてくれるところもありますが、肩や身頃などは有料というところがほとんどです。

よく考えると、オーダーの方が安上がりで良いものができた、という場合もありますから、特に大事な服装を購入する時は、長い目で見てオーダーかお直しか、良い方を選んでください。

 

オーダー

 

テーラーに自分のための衣服を作ってもらうオーダーは、一から体型に合わせて作るフルオーダーと、あらかじめ用意された型紙を応用するイージーオーダーや、好きな服地やボタン、ディテールなどを好みで組み合わせられるだけのオーダーがあります。サイズ感を追求するならフルオーダーをお勧めします。

最近はオーダーが密かに流行り始め、敷居は以前より低くなりました。それだけに、あまり信頼できない姿勢の個人店なども増えています。始めの時は、評判などをよく調べて頼むかどうかを決めてください

店舗がある場合は、ショーウィンドウや店構えに清潔感がないところ、ディスプレイが長い間変わっていない様子のところはお勧めしません。また店舗のある無しに関わらずカウンセリングがあまりないところも、不満足に終わる可能性が高いです。

「いつどんな時に着るか」「どんな風に見せたいと考えているか」をしっかり聞いてくれるテーラーに依頼することをお勧めします。

なお、オーダーでは、色々なディテイルを自分好みに仕上げることができますが、そのせいで「格」が落ちたデザインになっている例をよく見ます。

裏地で遊んだり、珍しい柄にしたり、袖口に装飾をつけたり、といった余計な装飾を勧められても、最初はノーマルな一着を作ることを強くお勧めします。オーダーの第一目的は、あなたの体型に合った格が高く見える一着を手に入れることだと考えてください。

 

 

いかがでしょうか。「サイズ感」に意識的か、そうでないか、ということはとても印象に影響があるものです。特に購入の際には、厳しい目で自分に合う合わないを見て、安易に妥協しないようにしましょう。