人前に立つ時に「スイッチ」を切り替えて、自分の存在感を上げてより説得力のある人物になる方法です。


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「人に何かを伝える人間」としてふさわしい状態へ

 

心理学に「ステート(state)」と言う言葉があります、これは何らかの精神的・身体的状態を指し、その状態を意識的に作り保つことも含んでいます。「人に何かを伝える」にはエネルギーやパワーが必要です。それらを生み出す状態を自在に作れるようにしておきましょう。

話を始める前には「オーソリティ」を明らかにする必要があると別の回でお話ししました。「オーソリティ」の意味は「権威」であり、「ある方面で抜きんでて優れていると一般に認められること」です。それを聞き手に感じてもらい、聞き手があなたの話を聞いた方がいいと感じることは人にものを伝える上で非常に大切なプロセスです。

 

言葉でオーソリティを語ったり、あらかじめプロフィールなどで十分に説明しておくことも効果的な方法ですが、いちばん効果的な方法は聞き手があなたを見て、それをあなたから感じることです。そのために作りたいのが「トレーナーズ ステート」です。

トレーナーズ ステートの効用は、ポジティブなエネルギーを示せることによって聞き手に精神的な感化を与えられることです。これは無意識下の作用ではっきりと目に見えるものではありませんが、その後のプレゼン全体に対する評価に確かな影響を与えます。講演者として話をするとき、大きな発表の場や企業上層部として将来図を描くときなど大きな舞台はもちろんですが、日常的な提案や顧客への商品説明などでも「ステート」に入ることを意識しておいたほうがいいのです。

ここからは、「トレーナーズステート(Trainer's State)」への入り方を説明します。

トレーナーズステートは、人を導きひらめきを与える、卓越した立場の人にふさわしい状態です。その立場から相手(聞き手)に効果的な指導をするために、オーソリティや自信、頼りがいとともに余裕や包容力、柔軟性を感じさせる自分をイメージしましょう。

 

 

 

トレーナーズステートに必要な要素

 

リラックスと集中

肩に力が入り緊張した面持ちでは卓越したステートは示せません。まずリラックスした状態が必要ですが、同時に集中力を上げましょう。

最初に2~3度深く呼吸をしてください。鼻で深く息を吸い、口から静かに吐き出します。声を発するときのためにも腹式呼吸に切り替えます。腹式呼吸は神経をリラックスさせる効果があります。

表情は必ず口角を上げておきます。常にニコニコ笑うのではなく、唇の両端が軽く上がっている状態を作っておきます。

基本の姿勢は、足を肩幅くらいに開け、つま先はやや外側に向けておいてください。ヒザをしゃんと伸ばし、骨盤は地面と垂直になる角度を意識して立てます。腹筋とおへそ下3cmくらいに軽く力を入れてください。肩の力は抜いていいですが、肩甲骨を軽く寄せます。

アゴは軽く引きます。アゴがフラフラ動かないよう重みを意識してください。目をしっかり開けて目から発するエネルギーを意識しましょう。

 

 

一人一人の様子に気を付ける

 

人を指導する人間に必要なのは相手の反応を鋭敏に感じ取る能力です。1対多のプレゼンであっても、人前に出るとき、あるいは出たときに最初あえて一人一人の様子に気をつけて見るようにしてください。それぞれがどんな気持ちでその場所にいるかを短い時間でも想像してみましょう。

また、一人一人の顔を見ながら「この人にも、あの人にもこういう結果(プレゼンのゴール)を持って帰ってもらう」と想像してください。自分のメンタルが力強く落ち着いた状態になり、プレゼンのパフォーマンスレベルを上げます。

このような時間により聞き手の状態を冷静に把握する状態を作ることができ、緊張の緩和やエネルギーレベルの調節に役立てることができます。

 

 

アファメーションやアンカリング

トレーナーズステートを効果的に維持するためには、「アファメーション」と「アンカリング」の技法が役立ちます。これらはいわば「自己暗示」「自己催眠」です。これらの技法を使うことで、自分の精神状態を整え、理想的なステートを意識的に引き出すことができます。以下、それぞれの方法とトレーナーズステートでの活用方法について説明します。

 

アファメーション(Affirmation)

アファメーションは、ポジティブな自己宣言や肯定的な言葉を繰り返すことによって、心の状態を前向きにする技法です。自分自身に対して肯定的なメッセージを送り、無意識レベルでの自己信念を強化することが目的です。

トレーナーズステートに入るための活用法としては、まず、望ましい結果を具体的に文章化しましょう。

例:「私は落ち着いて自信に満ちた話し方をする用意ができている」「聞き手の質問に誠意をもってきちんと答える準備ができている」「私は聞き手の心を開き、伝えたいことを相手の奥深くに届けることができる」など

 

文章を作るコツとしては、具体的であることが第一です。自分でそうなっているところを想像できるような文章がベストです。そして、大事なことはもうすでに望ましい状態になっているように作ることです。つまり「できている」「~~な状態になっている」という現在完了形です。逆に「こうなりたい」という願望の形にしてはいけません。その理由はそのような未来願望形にしてしまうと、「まだそうなっていない」という暗示を自分の潜在意識に与えてしまうことになるからです。それでは逆効果です。また、必ず肯定文にしてください。つまり「~~しない」「~~ではない」などの否定文はダメです。

これをプレゼンテーション直前やトレーニングの前に、何度も繰り返して自分に言い聞かせます。文章はいくつでも構いませんが、直前に自分に言い聞かせることを考えると、3つくらい、多くても5個くらいが適当でしょう。

 

アンカリング(Anchoring)

 

アンカリングは、特定の行動や刺激(音や触覚など)をトリガーとして設定し、そのトリガーの発動で自分の心身をベストなステートにする技法です。この技法はある程度しっかりした仕込みが必要ですので、落ち着いた時間にきちんと設定しましょう。

活用方法としては、まず、自分のどのようなステートを引き出したいかを明確にします。例えば、自信に満ちている状態、リラックスして余裕がある状態などです。次に自分のポジティブな体験を思い出してください。

過去に成功と感じた瞬間、例えば受験に受かったときやとても感謝されたりほめられたりして嬉しかったときを思い出し、そのときの心身や感情の状態をできるだけ細かく思い出します。ただ頭で思い出すだけでなく、そのときの状態を全身で復元する気持ちで浸ってください。例えば、胸のドキドキや目の前が明るくひらけたような物理的な経験を思い出します。

その状態が最も強く感じられた瞬間に、特定の動作を行ってください。この動作が後のトリガーとなります。やたらに発動しないように、ふだんあまりしない動作で設定することをおすすめします。例えば自分の手のひらをつねる、二の腕に指を強く押し付ける、などです。

この設定は一回だけでなく、数回繰り返して行ってください(ポジティブな状態を復元する→特定の動作を行う)。トリガーを発動したら、望ましい状態を安定して復元できるようになったら、アンカリングは完成です。

あとは、プレゼン前の良いタイミングでトリガーを発動させ、良いステートを引き出してください。

 

 

アファメーションとアンカリングは単独で使ってもいいですが、組み合わせることで、より効果的にステートを引き出しやすくなります。この場合は、アファメーションを行った後に、仕上げとしてアンカリングでステートを引き出します。

 

 

鏡などでのセルフチェックとゴール確認

 

本番前になったら、できればどこかで一人になれる時間を作ってください。鏡のある場所が望ましいです。

まず今日のゴールをもう一度思い出します。何を伝えたいか、どうしてほしいかということです。最後に必ずそうなると信じてください。

次に鏡で自分の身だしなみを再度チェックするとともに、表情や姿勢から感じる自信や余裕を受け取ってください。そして鏡の中の自分に笑いかけて、「どんなことが起こっても大丈夫。うまくいく」と確信するようにしましょう。

このプロセスにより、自分の見た目への自信もつき、自分の柔軟性を高めることができ、堂々とした自然体で本番に臨めます。

 

 

 

以上が、卓越した状態(トレーナーズステート)についてと、そのステートに入るための方法でした。説明を聞くと、面倒に感じられたかもしれません。しかし、アスリートなどが試合前に自分の最大のパフォーマンスを引き出すために行うルーティーンと同種のものです。数回同じように繰り返すうちに習慣化し、それほど負担なく気軽にできるようになります。