●これから知る「プレゼンテーション」とは何か、の意味を理解しておきましょう。


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人を説得し動かす目的を持ったコミュニケーション

 

プレゼンテーション(presentation)は「説明」「口頭発表」などと訳されます。一般的には聞き手に対して考え方、企画や商品についての説明を指します。ただ話を聞かせるというよりは、聞き手を説得し何らかの行動(考え方や行動の変革、企画採用、商品購入)などをさせる目的を持ったコミュニケーションと言えるでしょう。

 

 

人を説得し、動かすために必要な「3つの要素」

 

 

万学の祖としてその名を残すアリストテレスは、人を説得し、動かすためには3つの要素が必要だと言いました。それは「ロゴス(Logos)— 論理」、「パトス(Pathos)— 感情」、「エトス(Ethos)— 信頼性」の3つです。

この3つについて簡単に説明します。

 

ロゴス(Logos)— 論理

ロゴスは「論理」や「理性」を意味します。論理的に内容を理解させて説得する要素です。人を説得するには、まず論理展開が妥当であること、事実やデータ、統計など客観的な論拠があることが欠かせません。また、主張が明確で一貫性があり、聞き手を無駄なく結論まで導くような構成の説明であることも必要です。

 

パトス(Pathos)— 感情

パトスは「感情」を意味します。人は論理だけでは動きません。聞き手の感情に訴えかける要素が必要です。人は論理的な考え方以前に感情や感覚に左右されることが多いため、効果的にパトスを活用できる話し手は、より強い説得力を発揮できます。まず、話し手や話す内容に対する聞き手の共感を呼び起こすこと、現状への不満や将来への恐れ、希望や喜びなどの感情を引き出すためのエピソードを加えたり、話し方によって相手の心に内容を響かせたりする技能が重要です。

 

エトス(Ethos)— 信頼性

エトスは「倫理」や「信頼性」を意味します。話し手の信頼性や品位、オーソリティ(権威性や専門性)は聞き手を納得させるための大切な要素です。話し手が信頼できる人物であると、客観的に認められていたり、内容について語る十分な資格があると感じることで、その主張を信頼しやすくなるため、説得にも応じやすくなります。エトスを強化するためには、話し手の適度なアピールや専門的な知識や過去の実績の提示、社会的または第三者による保証(例えば、著名である、専門性を示す著書があるなど)が効果的です。なお、話している最中の誠実な態度や専門性にふさわしい雰囲気も非常に重要です。

 

 

 

アリストテレスは、これらの3つの要素がバランスよく使われることで、最も効果的な説得が可能になると述べています。つまり、人を説得するには、聞き手を論理的に納得させ、共感や情動を呼び起こすような話し方をし、また前提として話し手がそれを語るにふさわしいということを認めさせておかなければならないということです。どんな内容のプレゼンであっても、このロゴス、パトス、エトスのバランスを意識しておくことは、あなたの説得力を高めてくれます。

 

 

 

明確さが重要=何を伝えたいか、どうしてほしいか

 

良いプレゼンテーションは、何を語ったかを一言で表現できると言います。つまり、それだけ内容が明確であるということです。「人を説得し動かす目的を持ったコミュニケーション」ですので、聞き手に何を伝えたいか、どうしてほしいかが目的としてはっきりしていなければなりません。ゴールをはっきりとイメージすることが良いプレゼンへの最短ルートです。

そのため、「プレゼンをうまくやろう」と思い、それがゴールとして頭の中にセットされてしまうと、結果として伝えたいことが今一つ伝わらなかったりします。自分の話を聞いたあと、聞き手は何と言うのか、どんな行動をしようとするのかを最終的な目標としてセットしましょう。

なお、ゴールの明確さを検証するために、米国の企業ではよく「終わりから考える」ことを指導すると聞いたことがあります。つまり、最後に何を伝えたいか、話を聞いたあとに具体的にどうしてほしいか、からさかのぼって逆順に話の構成を考えていくのです。そして、また最初から話がつながるかを検証し、また最後から、、、と繰り返し見ることで、明確な結論へと導くための一貫した説明になっているかを検証するのだそうです。一つのプレゼンの準備にどれくらい時間をかけられるかにもよりますが、言いたいことが明確に伝わることの検証は必ず必要です。

 

 

 

プレゼンテーションの要素

 

ロゴス、パトス、エトスからもわかるように、ひと言で「プレゼンテーション」と言っても、考えるべき要素は多方面にわたります。下記の5つは最も一般的なプレゼンテーション要素の分け方です。

 

 

コンテンツ(Content)

コンテンツはずばり、プレゼンの内容です。

まず論理的構成ができていること。つまりプレゼンの内容が論理的で一貫性があることは何より重要なポイントです。伝えたいことをサポートするファクトや数値など定量的情報と、聞き手の納得感を生むストーリーテリングの要素のバランスを考えましょう。
また、プレゼンの目的が明確で、何を伝えたいのかがはっきりしていることはプレゼンの最大条件です。

 

 

デザイン(Design)

デザインはプレゼンにつきもののスライドの見やすさが中心です。

テキストや図表の量やフォントの大きさ、色使いが適切で、視覚的にわかりやすいことはもちろんですが、図表ばかりでなくイメージを明確に伝える画像が魅力的に配されていること、そしてスライド全体でデザインが統一され、洗練されたビジュアルになっていることも条件です。

この分野では、ガー・レイノルズ(Garr Reynolds)氏が有名です。氏が「プレゼンテーション Zen」でシンプルでインパクトがあり、メッセージ性が高いスライドの見せ方を提案したところからプレゼンテーションの概念が変わったとも言われています。また、ナンシー・デュアルテ(Nancy Duarte)氏は著書「スライドロジー」で、スライドを視覚的なストーリーテリングの手段として活用することを提唱し、その方法を詳しく解説しています。

 

 

デリバリー(Delivery)

デリバリーは「話し方」です。

話す速さや声のトーンに加え、間の取り方、手の動きや視線、姿勢などボディランゲージを適切に組み合わせ、内容がより鮮明にわかりやすく伝わるよう工夫をします。聞き手が自然に話し手や話す内容に信頼感を持てるよう、話す最中だけでなく、総合的な表現力を持つ必要があります。例えば歩き方や動作、登壇の仕方、話の始め方、服装なども表現力に含まれます。
また、適切な時間配分をして決められた時間内に話をまとめるのは基本中の基本ルールです。

 

 

インタラクション(Interaction)

インタラクションとは聞き手とのコミュニケーションのあり方です。ただ話すだけでなく、思考を促したり、リアクションを求めたりして、聴衆とコミュニケーションを取るよう工夫すると、話し手に対する聞き手の親和性や共感を高めることができ、それだけ話の内容にも集中してもらいやすくなる効果があります。聞き手へのちょっとした質問や軽いワークなどを組み合わせることを考えてみましょう。また、Q&Aに割く時間についても考慮してください。

 

 

メンタル(Mental Preparation)

精神的な準備、というと堅いですが、要は適度な精神状態で臨めるようセルフマネジメントを行うことです。

特に誰でもあるのは緊張感です。緊張が嫌な人は多いですが、適度な緊張感は凛とした誠実さを聞き手に感じさせ、話し手への信頼を高めます。適度なメンタルコントロールを覚えましょう。
また。リハーサルをしたり周囲からそのフィードバックをもらったりする機会を意識的に作ることで本番への心構えをしやすくなります。

 

 

 

いかがでしょうか。これらの要素をそれぞれ意識して自分の現状を時々振り返ることで、バランスの取れたプレゼンテーション力が自然についてきます。そうすれば、聞き手からの信頼や共感はついてくるものなのです。

この講座では、特にデリバリーやインタラクションを中心に、活躍するビジネスパーソン必携のプレゼンテーションの基礎知識をお伝えしていきます。