ファッションセンスより社会人センスが目立つ機会

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食事やパーティこそ気をつけたいドレスコード

 

キャリアが上がるにつれて、その人の社会人としての「仕事以外のこと」例えば、教養や成熟度はどの程度なのか、ということが自然に気にされるようになります。そして、さらにポジションが上がったり、役割が広がったりすると、それ相応のマナーや立ち居振る舞いは「身に着けていて当然」と見られます。それだけ「公式の場」「社交的な集まり」「華やかな場」「ちゃんとしたところ」に出る機会が増えてくるからです。

ここまでご説明したところをご理解いただければ、そのような機会でも間違うことはありません。しかし、ここでいちどあらためて「ドレスコード」について確認してみましょう。なぜかというと、単純なルールの知識だけでなく、服装選択のセンスが問われるからです。ファッションそのもののセンスではなく、いかにその場にふさわしいニュアンスを読んで服装に生かしているか、という社会人センスが見られるのです。

ドレスコードはさまざまな機会の目的や集まる人たちの層によって、少し細かくニュアンスが分かれます。それは、場面や場所の雰囲気、時間帯によって決まっている一般的ルールとしてのドレスコードのほかに、主催者がその場所や会場が出入りする人間に対してさらに細かくドレスコードを指定してきたり、「こんな格好で来てほしい」という主催者や招待者の意図で色指定をしてくることや「〜っぽいスタイル」という意味の非公式なドレスコードを指定してくることもあるからです。

そこでここでは、もう少しドレスコードを確認して、ふさわしいニュアンスを読めるようにしましょう。

 

 

よく使われる別称

 

招待状や案内状に記載するドレスコードの別称があります。覚えておいてください。

「※」がついているものは正式なドレスコードで、着方やアイテムなどが厳密に決まっています。正式なドレスコードは国によっては典範などに明文化されていますが、そうでないものははっきりと規定されたものはなく、暗黙の了解の性格が強くなっています。

 

 

ホワイトタイ(WHITE TIE)※

 

夜の時間帯の最上級フォーマル(正礼装)のことで、男性は燕尾服、女性はローブデコルテかイブニングドレスです。

非常に格の高い服装で、日本においては、天皇家と縁でもない限りはほぼこのようなドレスコード指定のパーティの招待状は来ません。ただし、海外、ことにヨーロッパはないこともないので注意が必要です。

夜の服装なので、昼間は着ません。昼間の正礼装は男性はモーニング、女性はローブモンタントと言われる長袖で襟が詰まった、裾の長いドレスを着用します。

 

 

ブラックタイ(BLACK TIE)※

 

夜の時間帯の準礼装のことで、男性はタキシードを指します。女性はイブニングドレスかディナードレスです。

国際的な祭典の祝賀会や、大使館主催のパーティ、チャリティのガラディナー、名誉ある賞の授与式などによく見られます。また客船の船長主催晩餐会、オペラやバレエのオープニングパーティなどは伝統的にブラックタイです。

海外においては、少し格が高い催しだと「フォーマル(Formal)」といってブラックタイを指定してくることが意外にあります。日本においても登場回数は増えているので、これからは日本でも必要な人が増えてくるでしょう。

気をつけたいのは、男性のカラーや白のファンシータキシードは「ブラックタイ」には当たらないことです。ファンシータキシードは正式なブラックタキシードとは違い、カジュアルなニュアンスが強いものです。比較的カジュアルなパーティや昼間のプールサイドパーティなどに着るもの、と思っておいてください。

ただしミッドナイトブルー(深く濃いブルー)のタキシードはブラックタキシードと同等で準礼装になります。

夜の服装なので、昼間の会にブラックタイはまずありません。昼間の準礼装は男性は「ディレクターズスーツ(モーニングの上着を短くしたような形)」で、女性は「アフタヌーンスーツ/アフタヌーンドレス」です。しかし、現代の日本ではディレクターズスーツはあまり一般的ではなく、礼装用のブラックスーツを着るか、ダークスーツを少しドレスアップして身につける人がほとんどです。

 

 

 

平服(INFORMAL /PLAIN CLOTHES)

 

平服はフォーマルではない格好(インフォーマル)を意味します。一般的な祝賀会や懇親会、ビジネス関係のセレモニーなどの招待状に「平服でお越しください」と書いてあるのが一般的です。

ビジネス関係の会なら男性はスーツくらいと考えると丁度いいでしょう。カジュアルな格好を指すのではありませんので、気をつけてください。

女性の場合は純粋な仕事ならビジネスアタイア、華やかな催しであればインフォーマルドレスくらい、と判断力が必要です。

時間の区別はありません。昼でも夜でも指定される服装です。

 

 

ビジネスアタイア(BUSINESS ATTIRE)

 

ビジネスアタイアとは「仕事服」の意味です。仕事の格好で来てください、との意味なので、男女ともスーツ程度を想定しておけば良いでしょう。

平日の昼食会や、ビジネス系の懇親会、交流会などの案内状によく見られるドレスコードです。

これも、時間の区別はありません。昼でも夜でも指定される服装です。

 

 

エレガント(ELEGANT)

 

少し華やかにして来てほしい、との意図がある指定で、夜の時間帯の指定がほとんどです。ホテルなどの格式の高い場所での懇親会、イベントやディナーなどでの指定によく見られます。

フォーマルではありませんので、平日で仕事終わりくらいからの会であれば、ビジネスアタイアを少し工夫してエレガントさを出すのでも良いでしょう(エレガントビジネス、と呼ぶときがあります)。

男性はチーフやネクタイ、靴が工夫のしどころで、華やかな柄で光沢のあるチーフやタイに変えたり、あらかじめダブルカフスシャツでカフスリンクスを使うのも素敵です。靴は革小物は黒にしてください。

女性はインナー、アクセサリー、靴、バッグが工夫のしどころで、やや胸開きの大きいインナーや大ぶりで光るアクセサリー、ピンヒールの靴、小ぶりのバッグなどに変えると効果的です。

(別の項で説明します)

 

 

 

スマートカジュアル(SMART CASUAL)

 

「エレガントカジュアル」とか「カジュアルエレガンス」とも呼ばれるスタイルです。アイテムはカジュアルでも、スマート(洗練・知的)に装ってほしいという意図が込められています。

スマートカジュアルがカバーする場所や場面は近年急に広がりを見せていて、ホテルの高級ダイニングでも指定されるようになってきました。また、クールビズ、ウォームビズに代表されるビジネスカジュアルも、スマートカジュアルの一種と言えます。

全体的におしゃれで清潔感のある格好、大人としてその場面にふさわしい節度ある格好、と理解してください。

 

 

ゆえに避けなければいけないのは「場面違いのカジュアル」です。同じカジュアルでも、下記のアイテムは着用しないようにしましょう。

●スポーツ用アイテム(キャップ、スニーカー、トレーニングウェア、ランニング、パーカーなど)

●リゾート用アイテム(ドライビングシューズ、デッキシューズ、サンダル、麦藁帽、半パン、タンクトップ、サンドレスなど)

●作業用アイテム(ジーンズ、ワークパンツ、迷彩柄アイテム、カーゴパンツ、つなぎなど)

昼夜ともに指定される服装です。ただ、うまく装いたいなら、昼と夜で色やアイテムの選択を変えた方がいいでしょう。昼間の時間帯であれば軽く明るい色も向きますが、夜の時間帯であればダークな色でシックに装う、という区別をつけたいものです。

 

 

 

色指定(SOMETHING IN ◯◯)=◯◯の中に色名が入る

 

会のテーマや会の季節などに合わせて、色を指定して会の統一感を出すのが狙いの指定です。会社の創立記念であれば会社のコーポレートカラー、桜の季節であれば桜色、など色々考え出されています。

フォーマルで色指定がある場合はあまりありません(チャリティーなどではたまに見かけます)が、比較的格のある催しからカジュアルパーティまで、「色指定」がある場面は色々ありますので、まずどんな服装を選択するかは上のドレスコードを参考にしてください。

色を取り入れるには、スーツやドレス、着物などをその色にすることもできますが、持っていない場合もありますし、「黄色」などと言われた場合に男性のスーツをその色にするのはあまりに突飛過ぎます。ですから、ほとんどの場合は小物の工夫が主になるでしょう。

男性でしたらネクタイ、ポケットチーフ、ラペルピンやカフスなどが「変えどころ」です。カジュアルなシーンならソックスの色を合わせてもいいですね。

女性はブラウスなどのインナー、スカーフ、ブローチ、アクセサリー、バッグ、靴などが変えやすいパーツです。

色指定のドレスコードでは、イマジネーションを働かせると周囲の好感度も高くなります。

 

 

 

「エレガント」とは何か

 

先にも出てきましたが、「エレガント」とつくドレスコードはどんなドレスコードでしょうか。また「エレガントである」にはどうすればいいでしょうか。

「エレガント」は英語で「優美・優雅な」「洗練された」を意味する形容詞です。日本では女性に対して使われることが多いようですが、イタリアなど海外では、男性の装いに関してもよく使われます。

明晰(めいせき)でまとまりがある、といった意味もあり、ただ装飾的になるのではなく、優雅、品格、があるイメージです。そして、それだけで終わらず、知的なニュアンスがあることです。男性でも女性でも、人の上に立つ人、そしてグローバルに活躍するエグゼクティブであれば「エレガントさ」は意識したい事柄です。

服装やドレスコードで「エレガントさ」という時には、大人っぽい余裕のある装い、優美で華やかさがある装い、少しリッチさがある装い、という印象です。ドレスコードで「エレガント」とつくときは、夜の時間帯のことが多く、夜の照明に負けないような光沢や上質感が暗に求められています。それを醸し出す要素を理解しておけば、割と容易にそのニュアンスを出すことができます。

 

 

「エレガントさ」の演出要素

 

服装で、エレガントさを出しやすい要素についてお伝えします。。一般的には、身につける色を絞り、少し光沢や装飾を加えると演出しやすくなります。

 

1.「昼」と「夜」の違いをつかむ

 

以前の単元でドレスコードを説明する時に、フォーマルのことについても少しご説明したのは、フォーマルにある「昼と夜の区別」を理解しておいていただきたかったからです。

昼の太陽の下と、夜のほのかな明かりの下とでは、それぞれの雰囲気に合った装いは異なります。やはり夜には、明るさを補うための「華やぎ」を人は無意識に求めるのです。日中にはそぐわないような、派手な模様や光沢感も、夜の帳(とばり)が降りれば、洗練された大人を感じさせるアイテムとなります。

これは昼に似合う、これは夜に似合う・・・このような感覚をもって、アイテムや色・柄・素材に注意して選ぶようにしてください。

 

 

夜であれば、おすすめはダークな色

 

夜の服装は少しフォーマルに近い雰囲気が最適です。男性であればシックな「ダークスーツ」がおすすめです。おしゃれを意識しすぎて、明るめの色や大きめの柄を選ぶと「カジュアル寄り」になってしまいます。場所や場合によっては、失礼にあたる場合もあるので要注意です。

女性にも、あまり軽い色よりもダークな色をお勧めしたいですが、ビジネスよりも社交寄りであれば、はっきりとした華やぎのある色も良いでしょう。少し光沢のある生地が映えますので、スーツであればインナーに、ドレスであれば全体でそういった生地を使うと良いでしょう。

スマートカジュアルの場合でも、ダークな色、光沢(ツヤのある生地を選択するなど)を意識していただくと、雰囲気が出しやすいでしょう。

 

 

靴は黒のドレスシューズ

 

靴などの革小物は、夜は「黒」です。女性であれば、服に合わせた色でもいいでしょう。

スーツの男性はドレスシューズから選んでください。「ドレスシューズ」とは、フォーマルや上品なスタイルに合うような靴と考えてください。つまり、「靴紐(ひも)あり」で「内羽根式(靴紐を通すための穴をあけた『羽根』が甲革と一体化した形状)」が基本です。

これなら昼間のビジネススタイルからそのままでOKです。華やかさがほしいときは、「メダリオン(つま先に小穴で装飾を施した靴)」や「ダブルモンクストラップ(靴紐ではなく2カ所の留め具で留めるタイプの靴)」に履き替えるのもエレガントです。ただし、モンクストラップの留め具はシルバーにしましょう。それ以外の金属色はおすすめしません。

女性はプレーンなパンプスでも良いですが、デザインパンプスに変えてもいいです。

なお、茶靴は「夜に履くべき色ではない」とされることがあるので要注意です。

 

 

小物・アクセサリーを変える

 

忙しいビジネスパーソンは、いちいち着替えるのもままならないはずです。その場合はアクセサリー・小物を変えて、エレガントなニュアンスを出すようにしてください。以下はその例です。

 

男性はネクタイ ポケットチーフ

男性の場合、スーツであればネクタイやポケットチーフを変えると、雰囲気を変えやすいでしょう。ネクタイ、チーフともに少し光沢のあるシルク生地にすると品よく華やかになります。チーフの挿し方も、昼間のTVフォールド(四角くポケットに納める挿し方)からパフド(ふわっと膨らます挿し方)などに変えると、雰囲気が華やぎます。

 

男性のカフスリンクス、フラワーホール

余裕があれば、中のシャツをダブルカフスにしてカフスリンクスをつけると、ドレッシーな装いになります。カジュアルシャツでも、ダブルカフスやカフスリンクスを使えるコンパーチブルで遊び心を演出するデザインを見かけますので、こういったものを身につけてもいいですね。

またスーツ上着の襟にあるフラワーホール(もともと花を挿していたので、そう呼ばれる)にカフスリンクスと似合うピンバッジなどを装飾でつけても良いでしょう。

 

女性のインナー

仕事帰りのスーツから少し雰囲気を変えるなら、インナーを変えるのが手早くてお勧めです。前述のように、少し光沢のあるものだと華やぎが出ます。また襟ぐりも少し深く開いたものを選ぶと良いでしょう。

 

女性のバッグ

女性は昼間用の大きめのバッグを小ぶりなハンドバッグやクラッチに変えるだけで、雰囲気が変わります。

仕事からすぐに催しに行く時などはあらかじめ必要最小限のもの(財布や携帯、名刺入れなど)を入れた小さめのバッグを、大きめのバッグに忍ばせておいては如何でしょう。そうすれば、小ぶりのバッグをさっと取り出し、大きいバッグはクロークなどに預けるだけで完了です。

 

女性のアクセサリー

ネックレス、イヤリング(ピアス)、ブローチなど、昼間の仕事では質の良いやや控えめなタイプがエレガントですが、食事やパーティなどでは大ぶりで強めの光沢のあるものに付け替えると「TPOがわかる人」のエレガントさがにじみます。

 

 

TPOは「時間・場所・機会」を表していますが、そこにあるのがルールだけだと思ったら大間違いです。服装はその場の雰囲気を演出するものでもあり、ドレスコードには「こんな気持ちで来てほしいという意図」や「保ちたい雰囲気」も隠れています。そんな少し細かいニュアンスを読み、主催者や周りの人間に応えられることこそ、大人のセンスと言えます。

もしかしたら、このページの内容を見て「私の生活にはあまり関係ない」と思う人もいるかもしれません。日本ではそれほど社交的に装う場面はなく、またどんどん服装に構わない人も増えているので、これからこういう知識は知らなくてもどうにかなるものになっていくかもしれません。しかし、日本は装いに関しては後進国なのです。海外では服装の選択は大人としての教養の証明であり、それとともにプロフェッショナルとしての能力の発露点になります。この程度の知識は、ちょっと海外に行ったり、グローバルな場面になっただけで突然「大人の常識」となるものです。