さまざまな付き合いの中で「食事」は「もろ刃の剣」です。肝心なのは「マナー」以前の「食べ方」です。

 

 

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(トータル時間 10:32)

1 〜「食べ方そのもの」への注意 ②口に入れる量(06:04)

2 「食べ方そのもの」への注意 ③音(04:28)

 

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「食べ方」を理解する

 

 

人類の文化的歴史の中で、「食事」は社交の中心でした。 飲食を共にすることは、心を分かち合い、楽しい時間を共有することで、さまざまな付き合いを深めることに役立ったからです。食事においては特にお互いに不快感を避け、スムーズなコミュニケーションを図れるようにしなければなりません。ですから、ナイフフォークや箸などの扱いだけでなく、食べる態度にも注意が必要です。

 

食事場面で犯してはならないタブー

 

まず、食事場面における最大のタブーを確認しておきます。

 

タブー1 パブリックの調和を乱す行為

 

レストランやホテルなどにいるときは「パブリック」として、他人と空間をシェアしていることを忘れないようにしてください。食事に限ったことではありませんが、パブリックにおいては、他にも聞こえてしまうような大きな音や声、騒ぎすぎな会話、目立つ行為は禁物です。

そのため、お店のスタッフを呼びたい時に、大声で「すみませーん」などと呼びかけることもタブーのひとつと数えられます。呼びたいときには、軽く手をあげて合図をします。(なかなか気づいてもらえないときには、面倒ですがスタッフがいるところまで出向きます)

また会話に熱中しすぎて身振り手振りが大きくなることも、サービス中のスタッフに当たってアクシデントになりかねませんので、タブーです。何よりこのようなことをしては、大人らしい気遣いがなくまるで子どもだと軽侮される元です。

パブリックの調和を乱さないという点では、会食の時に、ナイフフォークを落としてしまっても、自分では拾わずにスタッフに拾ってもらうことがルールです。自分で拾おうとテーブルの下にかがみこんだり、下に落ちたものを元のテーブルに戻したりする行為は同席者から見て自然な行為とは言い難いからです。

 

 

タブー2 他人が食欲を失うようなことをする

 

目立つ咀嚼の音、スープやパスタをすすり込む音などは最も嫌われるタブーです。それだけで、周囲の生理的嫌悪感を誘うからです。しかし、日本人の場合は、汁物などを軽くすする習慣がついてしまっているため、改善が必要な場合が多いです。いついかなる時に食事に誘われてもいいように、「音を立てずに食べる」ことを身につけておきましょう。

他には、人前でヨウジを使い口の掃除をするのも無作法です。たちまち人の生理的嫌悪感を誘います。このようなことは本来はパブリックでしていい行為ではなく、洗面所などで目立たず行うべき行為です。

 

 

タブー3 食器や什器を傷つけたり、傷つけそうな行為をする

 

食事のマナーには、グラスや皿、シルバーなどをできるだけ傷つけないように食事することを目的としたものも多いです。

乾杯の時にグラスをカチンと合わせるのは禁止、ガシャガシャと音がするようなナイフフォークの使い方は禁止です。和食では、大きな指輪をはめたまま、あるいは箸を持ったまま漆のお椀を手に取ることは嫌われます。

特に高級なレストランなどでは、質の高い什器を使うため、それらを乱暴に扱うことは「慣れていない」という印象を周囲に与えます。また店側からもたちまち「歓迎されない客」になるでしょう。

 

 

 

「食べ方」そのものへの注意

 

あっという間に親しくもなれるし、またあっという間に軽く見られるようにもなる。さまざまな付き合いの中で「食事」というのは「もろ刃の剣」なのです。そのときに肝心なのは「マナー」以前の「食べ方」です。どんなに高度なマナーの知識があっても、ここがダメでは誰からも尊敬されません。

 

特に注意したいのは、次の4つの点です。

① 姿勢

② 口に入れる量

③ 音

④ スピード

 

 

少し詳しくみていきましょう。

 

①姿勢

 

食べるときには、礼(お辞儀)と同じで、「首を曲げず、腰から曲げる」ことが大原則です。人の印象は、首を前に出すと悪くなります。貧相で卑しいイメージとなるのです。「食べ物を迎えにいかない」ことも覚えておきましょう。口やアゴを突き出して、食べ物を迎えに行くと、首が前に曲がります。そうなると、たちまち「犬食い」と呼ばれる格好になり、非常に印象が悪くなります。

首を曲げてしまうのを防ぐには、まずテーブルにきちんと近づいて座ることです。胸がテーブルからこぶし一個分程度開いている距離が目安です。また、食べている時は椅子にもたれかかったりしてもいけません。食事の時は、背もたれからはこぶし1個分くらい背を離して、背筋をまっすぐ保ちます。普段から姿勢は良くしておきましょう。

 

 

 

② 口に入れる量

 

一回に口に入れる量は「2cm×2cm」程度」の大きさを目安にします。

口に入れる量が多くなると、ほおばるような食べ方になり、2つの困ったことが起きます。一つは、きちんと口を閉じて食べるのが難しいことです。そうなると、開けたまま咀嚼することになり、汚い音を発する元になります。もう一つは、もし誰かから話しかけられてしまったら、答えるには咀嚼中の口の中を他人に見せてしまうことになるということ、です。これらはたちまち「生理的に不快」「下品な印象」となります。

また、多くの量を口に入れようとすると、大きくのけぞるようにして口を開けることになります。これは非常に動物的な振る舞いで、他人から見て下品と感じる所作となります。

もともと「食事」には、コミュニケーションを深める目的がありますが、そのためには会話しなければなりません。食べ物を口に入れながら、スムーズに会話するためには、咀嚼してすぐに飲み込めるような大きさに食物を切り分けて食べることしかありません。そのため、多くの欧米の家庭では、口に入れる食物の大きさを大体「2cm×2cm」程度にするようにしつけます。そして、これは決して特別なしつけではありません。人と食事をする前には身につけておくべき習慣です。

 

 

 

 

③音

 

前のほうでもお伝えしたように、咀嚼の音、スープやパスタをすすり込む音は食事の時の最大のタブーの一つです。「エグゼクティブらしい振る舞い」をするなら、咀嚼音は厳禁です。また音を立てないようにスープを飲み、パスタを食べる練習もしておくことが必要です。

日本では、「蕎麦などは音を立てて食べることがマナー」と思い込んでいる人がいますが、間違いです。日本は公式なカトラリーが箸二本だけという特殊な食事作法を持つ国なので、すすり込む音はある程度許されています。しかし、それは「あまり音を立ててはいけないが、ある程度はしょうがない」という程度であって、「盛大に音を立てて食べましょう」ということでは決してありません。

ただ、蕎麦をはじめとした麺類では、そんな音も「粋な流儀」とすることもあるでしょう。茶道でのお茶の飲み終わりに吸い上げる作法など例外もあります。それも踏まえて、音を立てるか立てないかを自分で選択できるようにしておきましょう。

なお、口を開けたまま咀嚼すれば、咀嚼音が出るのは当たり前ですので、そのような食べ方では大人と見られません。また、熱いものをフーフー吹いて冷ますのも非常に子供っぽい振る舞いで、仕事をする大人のやることではありません。

 

 

④ スピード

 

食べるスピードは、周りへ配慮して適切に加減することが必要です。

まず、「作ってくれた人」への思いやりとして、美味しいものは美味しいうちにいただく、ということです。寿司屋のカウンターで、握りに手をつけないまま話に夢中になるのは作り手に失礼、料理の写真を撮るのに夢中になって出来立ての風味を逃してしまうのは作った人や持ってきた人に失礼、という感覚がなければ、仕事でどんなに成功しようとも周囲から尊敬は得るのは難しいと言わざるを得ません。

また、接待や会食であれば、それぞれがちょうど同じ頃合いに終わるようにお互いを気遣いながら合わせていかなければいけません。周りを気遣うことなく早く食べ終わってしまったり、おしゃべりに気をとられて食べるのが遅れてしまうのは気遣いのない行為です。。

また、SNSなどに載せるための撮影に夢中になって、他の人を待たせたり、料理を食べるタイミングが遅くなることは避けてください。

 

 

 

 

食事の時間を大事にする人になる

 

「獣は喰らい、人間は食べる。教養ある人にして初めて食べ方を知る」これは、稀代の美食家として知られる「ブリア・サヴァラン」の言葉です。

古来より「食べ方」と教養、つまりその人の文化度や洗練、社会人としての成熟度は結びつけて考えられています。また、食事の仕方で仕事の仕方を測られることもあります。その人が自分に今までしてきた「教育」「周囲への気遣い」「状況を捉える能力」、これらを見るのに「食事」はうってつけの場面だからです。

ただ美味しいものを「喰らう」だけでは、動物と同じです。周囲との調和、楽しい食事の時間を共にする気遣いを大切にすることにその人の人としての気遣いや教養が現れるのは間違いありません。周りと交流し、良い時間を過ごすことを念頭に置いて振舞ってください。以下はあらためて注意しておきたい事柄です。

 

●特に最近盛んな「SNS用の撮影」は、美しい料理や楽しいシーンを撮っておきたい気持ちは十分にわかるものの、きれいに撮っている間、周囲の人に「おあずけ」を強いていることは認識しておく。作る人や運ぶ人が「美味しい瞬間に食べてほしい」と思う心遣いが刻一刻と台無しになっていくのも自覚すべきで、一流の人ほど、そのような周囲や作り手への気遣いを大切にするものです。

●自分の話ばかりに終始したり、周囲にかまわず大声を出して笑ったりすることは、自分が楽しんでいるだけで周囲は楽しくないのです。自分が話したら、人の話も聞くというリズムを忘れないでください。

●一品一品運んでくるようなサービスのお店では、必ずその料理についての説明をサービススタッフがするものですが、自分たちのおしゃべりに夢中になって、このような説明を無視してしまうのは教養ある行為とは言えません。どのような料理を用意してくれているかの説明は、楽しい食事の一部です。その美味しそうな説明も含めて「もてなし」なのです。それを無視するのはとても失礼なことです。

 

 

このページでは「食べ方」についてお伝えしました。マナーというと「ナイフとフォークの角度がどうの」という枝葉に目が向くことが多いですが、それより先に、上のような「食べ方」をまず意識すべきだと理解しておいてください。食べ方がきれいであってこそ、マナーの枝葉も意味があり、スムーズなコミュニケーションを生みことができ、良い評価にもつながります。