「食事」に関するマナーは、社会人にとって最も大切なものです。ここでは、食事の席に着くまでの注意ポイントをお伝えします
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食べることの意味
食事は人格を表す行為です。「食べる」という行為はもともと人間の根幹をなすものです。本能的な行為であるため、素のままでいれば動物的な振る舞いになるため、「食事」に関するマナーは、社会人にとって欠かせないものです。また、私たちは毎日何かを食べます。それだけに、その食べる行為においては、自分の普段の生活が漏れやすいものです。
本能的でふだんの生活が漏れやすい。ここに、他人と一緒に「食べる」ことが、お互いに違和感や不快感を持ってしまう危険性をはらんでいることがわかります。そんな違和感や不快感をお互いに感じなくて済むように、マナーは出来上がっています。そしてマナーの中でも食事に関することがことさらに重視されてきたのです。
食事のマナーは特別な人のためのマナーではありません。少なくとも、社会一般で活躍しようとしている人なら、当たり前に知っておかなければならないことは多いのです。なぜなら、会食などを他人とするときには、仕事のことなどで頭がいっぱいで、マナーのことまで気が回らないことがほとんどであるはず。いちいち「この時のマナーはどうだったかな」などと考えているヒマはありません。つまり「マナーを知っている」レベルでは間に合わず「できる」ことが必要です。身体が自然に動き、お互いに失礼にならないように自分を慣れさせておかなければならないのです。
食べ方や、食事の時の気遣い、食卓を人と一緒に楽しく盛り上げられるかどうか、品格が試される場所でも自然に振る舞えるかどうか、このようなところにその人の思いやりや品、そして大人としての知識や知恵が全て見えます。本人が見せるつもりがなくても、他人から見れば丸見えなのです。
かといって、難しく考える必要はありません。結局は、お互いに居心地よく過ごせる振る舞いであるかどうかなのです。ここからはそのためのポイントをお伝えします。
食事の席に着くまでが大切
食事の時の振る舞いは、食事中だけに限ったことではありません。待ち合わせをしたり、約束した店に入ったりする前から始まっているのです。ここでは、特に接待など、人をもてなす機会のことを中心にお伝えします。
①待ち合わせの場所について
待ち合わせをするなら、最初に場所に配慮してください。気のおけない友人ならともかく、誰かをもてなそうとするなら注意深く選びましょう。
改札や交差点など屋外の場所はオススメしません。そんな人が行き交う落ち着かない場所では、相手もあまり大事に扱われている感触は持てません。また、大体において立ったまま待つことになるので、いたずらに疲れさせます。気候によっては暑い、寒い、雨、などの心配もあります。そういった事情を考慮しないなら気配りが足りません。
予約した店舗があるなら、店舗で直接待ち合わせる事も可能ですが、もてなす場合は直接来てもらうのはやや乱暴です。ホテルのラウンジや気持ちの良いカフェが近くにあれば、そういう場所でワンクッション置きましょう。なお、非常に高級なレストランの場合はウェイティングバーや前室がある場合がありますから、そちらを利用するのは便利でいいでしょう。
なお、最初はわかりやすい場所にすることは鉄則です。地図を見てもわかりにくいような入り組んだ場所はサプライズで楽しませたいという気持ちがあっても、相手からすると意味のない徒労になることが多いので、ご注意ください。そのような趣向があるときは、わかりやすい場所で待ち合わせ、同行して案内することをおすすめします。
②時間の配慮
時間感覚がマナーでは重要であることを前にお伝えしました。ですから、待ち合わせ時間を守り、遅刻をしないことも鉄則です。ただし、間に合うように早く行けば良い、というものではありません。以下の目安を覚えておいてください。
招待した側であれば 15分前に着いておく
接待など相手を招待した側であれば、15分前くらいには着いておくらいの心づもりをしてください。特にどこか店舗を予約して、そこで待ち合わせるなら相手より先に着いてセッティングなどを確認できるようにしましょう。
万が一、予約した店舗で待ち合わせている時に遅れてしまう場合は、相手に連絡するだけでなく、予約した店にもすぐに連絡を入れ、代わりの案内を頼みましょう。例えば、お客様が着いたら席に案内し、先にお飲物を伺ってくれるように依頼します。
招待された側であれば 時間ジャストに着くようにする
招待された側の人間であれば、あまり早く着くのは迷惑になることがあります。招待側が先についてセッティングを確認したりするなら、その邪魔になるからです。招待された側は時間ジャストくらいに到着するのが思いやりのある着き方と言えます。もし、早く着いてしまっても、待ち合わせの時間まで違う場所で時間を潰すくらいの配慮はする必要があります。
人のお宅に招待されたのなら 2〜3分遅れていく
人のお宅に招待された場合は、先方の準備の慌ただしさを考えて、わざと2〜3分ほど遅れてチャイムを鳴らすくらいを目安にしてください。この場合も自分が早く着いたからといって、何分も前に着いたりするのは配慮にやや欠けています。人を迎える支度というのは思ったより時間がかかるものです。約束の時間までに整うように一生懸命準備をしているところに、その時間より早めにお客様が着いてしまうことは、意外に辛いことなのです。相手の状況を想像して配慮をすることを怠らないでおきましょう。
③荷物に関する配慮
自分が持ち込む荷物の量に注意してください。
食事場所やパーティ会場に大きな荷物を持ち込むのは、本来はマナー違反です。その理由はインテリアの雰囲気を壊し、空間を塞いで人や物の邪魔になるからです。本来はそういう場所であれば小さなバッグや薄手の書類ケースくらいが限度です。
そのため、出かける際によく配慮してバッグの大きさや荷物の量を加減すべきですが、止むを得ず何かを持っていかなければいけない事もあるでしょう。その場合でも「本来はマナー違反」ということを意識し、預けるなどの工夫をしてください。
食事の席やパーティ席である場合は、大型のものは下記に預けることを考えましょう。
・ホテルであればクローク
・レストランであれば受付や入口
・近くにあるコインロッカーなどの利用も
④コートなどを脱ぐ場所
寒い季節にはコートなどを着ていくわけですが、そのコートを脱ぎ着する場所に気をつけてください。
食卓に近いところやパーティ会場の中で脱ぎ着をしないようにします。その理由は、外のホコリがついているであろうコートを室内に着たまま入ることは、衛生上問題があるからです。何より脱ぎ着する際には実際にホコリが立ったりしやすく、周りにいる人間は気持ち悪く感じたり、落ち着かなかったりします。そのような迷惑を顧みないことは、重大なマナー違反です。
コートを脱ぎ着する場所は、以下が目安です。
●ホテルであれば館内に入るエントランスのあたり
●レストランであれば入口ドア付近
●パーティ会場であれば、会場の外、受付前など
なお、例外的にコートを着たまま室内に入ることがあります。それは非常に急な用件で誰かのお宅を訪問した場合などで、コートを脱がないことで「長居するつもりはない」というメッセージとして表現する方法です。ただし、その場合は玄関から動かず、お宅に上がったり奥に通ったりはしません。これはやや古風な振る舞いですが、ご参考まで。
⑤ 勝手に座らない
これは、何かの会合であるとか、食事に招待された場合の決まりです。会場で席次がわからないまま、勝手に席を決めて座ってはいけません。席次を決めるのは招待した側(ホスト)であり、場合によっては色々な配慮が働いているものなのです。
勝手に自分で席を決めて座るのは、招待した側の配慮をないがしろにする無作法な行為と見られることがあります。気楽な席でも品のない行為に当たります。「席次などありません、ご自由にどうぞ」と言われることもありますが、それがない場合は少なくとも、ホスト側から席を指示されるまで待つか、さもなければ自分の席を尋ねてからでなければ勝手に座らないようにします。
⑥ナプキンの取り扱いはスムーズに
ちょっと良い場所なら、和食でもナプキンを出すところが増えてきました。ナプキンの使い方には「きちんとした食事になれているかどうか」「大人の作法が身についているかどうか」がはっきり表れますので、スムーズに取り扱ってください。
ナプキンの取り扱いの基本
●ナプキンは飲食の始まりから終わりまでずっと膝上に置いておくのがルール
●ナプキンで拭いていいのは、口と指先だけ(つまり、お皿やグラス、テーブルを拭いてはダメということです)
ナプキンを取るタイミング
●会食の場合はホスト(ホステス)が最初に取り、ゲストはそれを見て取る
●食事前に乾杯の飲み物などがある場合は、それを飲む前にナプキンは膝の上へ置く
使い方
●ナプキンを取ったら二つ折りにして膝の上へおき、折山(わ)は自分に向ける
●口を拭く時は手前からそっと折り返して拭く
●中座する場合はナプキンは自分の椅子の座面に置く(ひじかけや背もたれに置く人もいます)
●食事が終わり、席を離れるときにナプキンをはずしてテーブルの上に置く(食事が終わった後は、コーヒーまで飲んで「さて行きましょう」という時がそのタイミングです)
●はずしたナプキンは軽くたたんでテーブルの上に置く(綺麗にたたむ必要もぐしゃぐしゃに丸める必要もなく、無造作にたたんでおけば良い)
以上、食事以前に、うっかり間違えたり、とまどったりしやすい部分をお伝えしました。「時間」や「荷物」など取るに足りないところこそ「できている・できていない」が目立ちますので注意してください。