マナーの観点とビジネスコミュニケーションから見たスモールトーク(雑談)のポイントを知ります
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(トータル時間 10:46)
1 〜自己開示しながら質問する(会話例)(05:14)
2 自己開示しながら質問する(注意 プライバシーの尊重)(05:32)
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初対面の相手とのスモールトーク(雑談)
初対面の人とは型どおりの挨拶や名刺交換だけでなく、少し会話も交えて良い関係性を持ちたいものです。しかし、なかなか社交的な会話ができない、という方も少なくありません。
会話の成否は、もちろんその場のノリや雰囲気、相手との相性によりますが、会話を作る「手法」をある程度知っておくと役立ちます。ここではそれを紹介します。
1「YESセット」を使う(話のきっかけ作り)
2 自己開示しながら質問する(相手のことを知り、自分のことも知らせる)
3 密かに共通点を探す(相手との共感ポイントを見つける)
4 ペーシング・バックトラッキングを活用する(会話の活性化)
5 去り際を知る/去り際に約束する(次につなぐ工夫)
それぞれ、詳しくお伝えします。
1 「YESセット」を使う
YESセットとは
相手が「YES(はい、そうです)」と答えやすい質問を3個ほど組み合わせて相手に話しかける方法です。
会話例
以下の会話例を参考にしてください。大規模な懇親パーティなどで見知らぬ人に話しかける例で、Aが「YESセット」を使う側です。
A「こんにちは。今日はたくさん人が来ていますね。」
B「そうですね。盛況ですね。」(YES 1)
A「この会場は駅から近いし便利ですね。」
B「そうですね。確かに来やすいですね。」(YES 2)
A「遠いと、なかなか億劫ですからね」
B「本当ですね。遠い会場は困りますよね」(YES 3)
A「あ、ご挨拶が遅れました。◯◯のAと申します。」
B「あ、ご丁寧に。△△のBです。よろしくお願いいたします・・・」
こんな風に会話を持っていくと、いきなり挨拶したり名刺を差し出したりするよりも、より自然に親しく会話できますね。
この「YESセット」がもたらす効果は、話しかけた相手が自分の言うことに同意しやすい雰囲気を自然にそして早期に作り上げることです。
これに使われているのは人間の心理原則「一貫性の原則」です。一貫性の原則とは、人間は一度自分でした判断や評価、態度に従い続ける傾向が強いというものです。会話の場合では、最初数回連続して相手の言うことに同意すると、その後はその態度を一貫して取り続けようとするため、自然にその相手に対して肯定的な立場になります。つまり、初対面にありがちな警戒心はやわらぎ、親しみを感じる気持ちが強くなる、ということです。
これを利用して、最初「自然に同意してしまう話題」を数回相手に振り、相手に「そうですね(YES)」と言わせることで、自然に相手との親和性を高める会話テクニックが、YESセットです。このテクニックは、相手がこちらに心を開きやすくし、こちらからの働きかけにたいする受け入れの気持ちを作ってもらいやすいことから営業や販売の現場でもよく使われています。
2 自己開示しながら質問する
相手のことを知り、自分のことも知らせる
人との距離を縮めたいとき、まず自分から自己開示する。これはコミュニケーションでよく知られた理論です。適切な自己開示がコミュニケーションや信頼に役立つ理由は、相手が心理的安全性を感じやすいからです。自分を明らかにするのはある意味で恥ずかしく勇気がいるものですが、あえて先に立つ人がいると安心できます。また「返報性の原則」が働き
ます。これは何かをしてもらうと、自然にお返しをしたくなる心理的作用です。
しかし、自分のことを知ってもらおうと自分の話ばかりすると、相手は退屈し、不快感を感じる場合もあるため、コミュニケーションは最初から失敗します。だからと言って、相手のことを聞こうとするのも失敗しやすいものです。尋ね方が悪いと尋問のように相手に感じさせてしまうことがあるからです。
そこで、自己開示をしながらその流れで相手のことも聞いていく、という流れで会話することを意識すると、会話のバランスが取りやすく、互いを知る会話にしやすくなります。
会話例
以下は自己開示しながらの質問の例です。
「(私は)今日、大阪から来ているんです。(あなたは)東京の方ですか?」
「(私は)初めてこの会に参加したのですが、(あなたは)よく来られているのですか?」
「(私は)あまり飲めないのですが、(あなたは)お強いですか?」
「(私は)小さな会社を経営しております。(あなたも)経営をされているのですか?」
いかがでしょうか。相手のことを聞く前に、自分の情報を開示しているのがわかりますね。相手はあらかじめあなたのことを教えてもらってから、自分のことを聞かれているので、何かを聞かれることへの心理的抵抗も少なく、また「自分のことも言いたい」という意欲を刺激されるのが、このような会話の効果です。
上は例としてわかりやすくするため相手への質問ばかりですが、このように何度も質問のパターンを繰り返す必要はありません。最初はYESセットなどで距離が近づけば、自分の話を少ししてみて、相手に話を向ける、という感覚でいてください。
【注意】プライバシーの尊重
相手を知り、うまくコミュニケーションしたいと思っても、初対面の相手や、あまり親しくない相手の場合、相手のプライバシー(個人情報、中でも特に私的なもの)に関わる話題には細心の注意が必要です。
プライバシーにあたることについてむやみに聞くことは、相手の触れられたくない領域に土足で踏み込むようなものです。他の回で「パーソナルスペース」の話をしましたが、人間は「パーソナルスペース」のように無意識で設定している個人的領域に侵入されると、不快感を覚え強い反発や警戒心が自動的に発動します。それはパーソナルスペースで説明した物理的な距離だけでなく、精神的な領域についてもそうです。
特に以下のことについていきなり聞くのは、「ぶしつけ」「失礼」「怪しい」というネガティブな印象を持たれ、いきなり信頼を失う元です。注意してください。
●年齢
●既婚/未婚の別
●子供がいる/いない 家族構成
●出身地
●詳しい学歴、学校名
●(名刺交換前の)会社名、役職
以上に類することは、たとえ少しずつ打ち解けてきてからでも、慎重に扱うべきトピックです。もし話の流れで必要であると思ったときは、いったん相手の了解を得るようなクッションを入れるべきです。例えば「失礼ですが」「お聞きしても良いですか?」など前置きを最初に入れてから尋ねましょう。
3 密かに共通点を探す
相手との共感ポイントを見つける
他の回で、人が信頼し、一緒にいて居心地が良い人とはどんな人を説明しました。それは「自分と似た人」。つまり自分との共通点を多く持つ人です。そのことから、あまり見知らぬ相手と話をしやすくするには、共通点を話題にするのは有効な手段です。
少しずつ打ち解けてきたら、お互いの会話の中で「ここが似ている」「同じ」と感じることがあれば、「へえ、それは私も同じです」「似ていますね」と話題にしてみてください。相手から「本当ですね」「同じですね」などのあいづちが返ってくれば、その話題だけでも楽しく印象的なスモールトークになります。相手にあなたは好感度が高く興味深い人物と映るでしょう。
認識できれば十分
ただし、共通点の話題に固執する必要はありません。人間は「同じような立場」「同じような環境」「同じような考え方」を感じる他者に親和性を感じ、コミュニケーションに協力的になります。ですから、「共通点がある」と少しでもお互いが認識できればいいのです。
4 ペーシング・バックトラッキングを活用する
会話の活性化
他の回でペーシングやバックトラッキングについてお伝えしました。コミュニケーションの基本スキルであり、相手が警戒心をとき、心を開くのを促す「同調スキル」だと覚えてくださっていると思います。これらのスキルを社交的な会話でも意識して使うと会話が活性化します。ペーシングやバックトラッキングについてよく思い出せない場合は、以前見ていただいた心理学やコミュニケーションの教材を復習してください。
5 去り際を知る/去り際に約束する
次につなぐ工夫
より洗練されたスモールトークにするには去り際を知る、去り際に約束する、ということを意識してください。
去り際を知る
交流を目的としているような場所では、一人の人を独占することはマナー違反です。スムーズに会話が盛り上がっても、いつまでも話し続けていたのでは、相手にとっても自分にとってもあまり良い行為とは言えません。一人の人と話すのはだいたい10分、長くても20分くらいと心得ておきましょう。
もちろん、本当に盛り上がって意気投合したのなら、もう少し長めでも構いません。あるいは、お互いもっと話したいなら「これが終わった後、どこかでまた話しませんか?」と言ってみればいいのです。ただ、これは例外的と言えるでしょう。
去り際に約束する
出会いが目的の会であれば、会った人とただ話して終わっただけでは発展性がありません。もしも関係性をもう少し進めたいなら、「約束」をしましょう。そこからの自分の行動をコミット(約束)するのです。
例えば会う約束や紹介の約束です。「友人で似た会を主催している人間がいます。今度ぜひそちらにも誘わせてください」とか、「一度ぜひランチでも、一度オフィスに電話させてください」でも、いろいろな「約束」があります。決まりごとはなく、興味を感じた人に対する自分なりの約束パターンをいくつか持っておくといいでしょう。
もちろん、「約束」は興味を感じた人に対してすれば良いのであり、興味が感じられない人にする必要はありません。
一方で、営業やネットワーク作りなど明確な目的があるのなら、相手が負担に感じない「次のステップ」をよく考えて用意しておく必要があります。例えば「いちど簡単な紹介メールを送らせてください」「お役に立つレポートを皆さんに送っていますので、一度送ります」などです。これも、何も言わず後からそうすることよりも先に「こうする」と宣言してから行動したほうが印象深く、約束を守ることで好感度も高くなります。
以上、パーティなどの不特定多数がいる場所で見知らぬ相手とのスモールトークをスムーズに進めるための便利な手法をご紹介しました。商談で初めて会った相手にも応用しやすい手法です。心理学やコミュニケーションの回でお伝えした内容も合わせて、試してみてください。