マナーを大きく分類すると2種類あります
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マナーの区別〜世界標準マナーの特徴(06:43)
国際標準/和の感覚の違い(05:57)
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マナーの区別
「え? いちばん偉い人はホストの右側に座ってもらうんだよね?」
「違うわ。左が上位になるから、左が正しいのよ。」
「それでは以前習ったマナーと違う」
あなたはどちらだと思うでしょうか。右?左? 混乱しますね。
答えは「どちらも正しい」です。ただし、状況により、どちらの答えを当てはめるべきかが変わります。もしも外国の方が混じるような国際的な場であれば「右」。和食をしっとりいただくような和室であれば「左」。こんな風に言えるでしょう。
マナーを大きく分類すると2種類あります。ひとつはグローバルに通用する世界標準のマナー、もうひとつはローカルマナーです。
世界標準のマナーは、古くは英国のマナーを起源とするものです。海外では世界標準のマナーを知っておく必要があります。外交の場面では「プロトコル」と呼ばれるルールが適用されますが、国際的なマナーがさらに厳格に規定されたものなので、国賓を招いた時の晩餐会の様子などをテレビなどで見ると雰囲気がわかりやすいと思います。
ローカルマナーは、各国や各文化圏、地域など限られたところで発達し通用してきた作法や決まりです。この分類でいくと、日本の礼儀作法もローカルマナーです。ローカルマナーはどの国や地域にもそれぞれあり、状況に応じては国際標準のマナーより優先したほうがいい場合もあります。国際標準、ローカル、どちらが良いということははなく、その場面ではどちらがふさわしいかで選ぶべきことです。
上の会話を例にとりましょう。
席次は、世界標準では「右側上位」とされます。ですから、ホスト(もてなす側)の右側(向かい側から見ると左側)にいちばん大事なゲストに座っていただくのは正しいのです。国際的にポピュラーな振る舞いである「エスコート」などでは、エスコートすべき(優先すべき)女性は右側にいて男性がその左側で守るように同行するのが正式です。
一方で、日本の作法では「左上右下(さじょううげ)」と言い習わし、上位の人・下位の人と二人いるとすれば、左(向かい側から見ると右)に上位の人が来ます。
どれも「マナー」「作法」と思ってひとくくりにしてしまうと、混乱したり間違いを起こしたりします。ですから「国際標準マナー」と「ローカルマナー」の違いをある程度知っておくことが必要です。
世界標準マナーの特徴
世界標準のマナーには「狭義」と「広義」があります。
狭義は外交の場面で守られている、厳格に決まった作法です。特に「プロトコル」と呼ばれ、賓客の出迎え、饗宴、席次や挨拶の順番、国旗の掲げ方などが細かく決まっており、国賓クラスのもてなしやトップクラスの国際的会議などでは遵守するしきたりです。
広義は海外や国際的な交流場面で「当たり前」とされる振る舞い方です。例えば「握手」「エスコート」などです。ただし、少しややこしいのですが、この広義の意味も含めて「プロコトル」と呼ぶ団体もあります。そのことを頭の片隅に入れておいてください。
国際標準のマナーの特徴は、以下のものです。
●弱者優先/レディファーストの意識
●他国文化の尊重と歩み寄り
●地位や役割に対する強い意識/ノブレスオブリージュ
●相互主義(もてなしへの返礼や前礼など)
●表情など非言語要素を使った好意や敬意の表現が求められること
●序列の意識
●公平性
以上の特徴には、一見矛盾しているものも含まれます。例えば、序列の意識は強いが、公平性を重んじるようなところです。しかし、ここは正しい、間違っていると断じるところではないので、「このような特徴がある」と含んでおいていただければ結構です。色々なルールを知っておくことが重要であるのは、そのルールに無感覚に従うためではなく、この場ではどうなのか、自分にとってはどうなのか、相手にとってはどうなのかを考える基準とするためです。
知る、そして、考えることが必要です。仕事ができるビジネスパーソンは国際標準のマナーを身につけ、なおかつ海外出張の時などは、行く先のローカルマナーもチェックし、その場に応じて精一杯の交流をしようとします。それによって、堂々とした自信と同時に、歩み寄る柔軟な心、そして当然相手への敬意を表現することができるのです。
いずれにしても、国際標準のマナーに自信をつけておくことです。ビジネスの進め方は米国から影響を受けることが多く、海外留学などで自然に各国文化に触れる人が増えたこともあり、日本国内で日本人同士のやり取りであっても、ビジネスでの人との接し方は国際標準がベースになってきています。
ですから、現在は日本国内であっても純粋な日本のローカルマナーのみにのっとって振る舞っていることはなく、国際標準との混合なので、海外に行っても違和感はそれほどないと思います。
その反面「国際的な標準ではこう、従来の日本的な方法はこう」とある程度は区別をつけておくことが必要です。現在はまだ通常の日本人家庭のしつけでは日本のローカルマナーが中心です。日本ならではの教え、例えば「相手の目を直接見ると失礼だから、視線をずらしなさい」といったことを信じている人もまだ多いのです。加えて、多くの企業では一昔前までは一部のコミュニティで生まれた決まりをマナーとして口伝えしていたこともありました。この例では、目上の人には必ずお酌をする、ビールはラベルを上にして注ぐ、ビュッフェなどでは周りの人の分も取ってくる、などです。これらはうっかり海外でやるとひんしゅくを買いそうなものが多く、あやふやな知識のままでいると、相手に対して大変な失礼になったり自分が見下されてしまったりと、いつか失敗しそうです。いつでも慌てず適切な振る舞いをするためには、あらためて体系的に学習し、違いを知り、振る舞いの選択に慣れておくことです。
まず、「笑顔で人と接する」「相手をきちんと見て挨拶する」「手が必要な人には貸す」を確実に実践しましょう。これらはマナー的な決まりというより、社会にいる人間として当然のコミュニケーションの基本ルールであり敬意表現の基本です。これができなければ、どんなに高度なマナーの知識を知っても通用しません。
照れたり恥ずかしがったりしないで、メリハリが効いた態度であるようにしてください。日本人は「シャイである」「私たちはそういうのが苦手な文化」だから、「できないことが当たり前」と片付けてしまわれがちですが、それはもう通用しません。世界標準に馴染み、「大人の社会人としての振る舞い」を磨いていくべきです。
国際標準/和 の感覚の違い
前述のように、国際標準でもローカルでも、良い/悪い、どちらが権威がある、と割り切れません。まず、海外やビジネスの現場では国際標準が誰にとってもわかりやすくコミュニケーション上で重要でしょう。しかし和風の場所では、和の作法は教養としても尊ばれるはずです。ここでは、その違いを感覚で理解していただくために、ごく一般的な国際標準と和の違いを比べてみます。
1 世界標準では能動的な姿勢、和の標準では慎ましさが評価される
自分から明るく話しかけたり、自己紹介をしたりする能動的な姿勢は世界標準では歓迎されます。しかし、日本国内ではどちらかというと慎ましさが評価されるため、自分から出しゃばるのは不作法であると思われることがあります。特に目上の人がいる場合は、話を向けられるまで控えている風潮があります。
2 世界標準では明確さ、和の標準では柔らかさが尊ばれる
世界標準では、挨拶などするときははっきりと相手の目を見て、言葉もはっきりと伝えます。対して日本国内では、相手の目を見ることは不躾であるとする考え方があり、見てもすぐ目を伏せたり、目をまっすぐ見ないで眉間や喉のあたりなどをわざと見るような伝統がありました。
3 序列と格を気にするのはどちらも同じだが、世界標準がややシビア
前述したように、国際標準では序列と格を重んじます。これは席次や紹介の順序などに現れます。序列や格は、組織での役職もありますが、広く社会的なポジションによっても細かく分かれます。世界標準のマナーは一見オープンに見えますが、階級差にシビアな感覚が根底にあります。和の作法でも序列や格には気を使いますが、国際標準に比べると鷹揚なレベルと言えます。
4 世界標準ではホストとゲストの役割が明確、和の標準では主従の関係性または主客一体の関係性
世界標準では、人をもてなす時の「ホスト」という役割が明確です。またもてなされるほうの「ゲスト」も自分の役割をしっかり意識することがマナーであり、どちらも「ふさわしい振る舞い」が要求されます。また、ホストとゲストは対等であるという感覚が強いです。和の感覚では、もてなされるほうを主、もてなすほうを従とした上下関係となることもあれば、茶道に見られるようにもてなすほう、もてなされるほうを分離しない主客一体の考え方もあります。
5 世界標準ではレディファーストは絶対的、和の標準では伝統的に男性=主で女性=従だった名残が強い
現在の風潮で、男性女性の役割を明確に分けることは良しとされませんが、世界標準にはレディファーストという不文律があります。元々は「弱者優先」という考えから生まれ、昔の騎士階級に特にその役割が期待されたため、男性が女性を守り、エスコートする役目を負う図式が自然に出来上がってきたとされます(諸説あります)。これはマナーというよりは生活習慣として無意識レベルまで落とし込まれているものなので、肌感覚として理解しておく必要があります。
現在はビジネスの現場ではレディファーストがあまり意識されることはありません。しかし、ダブルスタンダードの様相を呈しており、一歩社交的な場面(食事やパーティなど)でスマートな振る舞いをするためにはレディファースト的な所作が必要となります。
6 世界標準ではパブリックとプライベートを意識する、和の標準ではパブリックの感覚が薄い
パブリック(公的)とプライベート(私的)の線引きの明確さは世界標準では必ず持っておかなければならない感覚です。これに比べて和ではやや曖昧なところがあります。例としては、一般的なホテルと旅館を比べるとわかりやすいでしょう。ホテルでは自分のルーム以外ではスリッパや浴衣は許されません。いっぽう旅館ではほとんどの場所にスリッパや浴衣で行き来できます。これは皆で共有している空間に対する感覚の違いに根ざしているかもしれません。共有しているから各々の節度を重んじる感覚と、共有しているからゆるやかにあっていいとする感覚の違いです。
先にも言いましたが、海外各国との付き合いに慣れた人は、訪問する先のローカルマナーを意識し、その都度ふさわしい振る舞い方を選ぼうとする感覚があります。マナーだけでなく、「こんにちは」「ありがとう」などの簡単な挨拶をその国の言葉で言えるように覚え、「敬意を表す仕草」を練習していきます。オバマ氏が大統領の時に当時の天皇に対し、お辞儀をして挨拶をするシーンがありました。長身をぎごちなく折り曲げていましたが、精一杯の敬意を表現していらっしゃいました。
完璧に行うのは難しいですが、少なくとも相手への敬意を忘れず、相手のしきたりを考慮に入れる必要があります。また、してはいけないタブーな振る舞いや仕草も気をつけておく必要もあるでしょう。
なお、国際標準のマナーやプロトコルは欧米、特にヨーロッパでの伝統的な礼法がベースになっているのは間違いありません。特に英国の伝統的なマナーは世界のエスタブリッシュメントのスタンダードというのが暗黙の了解となっています。かの国ではもともと階級意識が強い文化もあり、その階級にふさわしい所作や振る舞いが厳密に決まっているのです。カップの持ち方、ナイフフォークの使い方ひとつで出自がわかってしまうような怖さがあります。しかし、一般的な日本人である限り、必要以上にその基準に合わせることはありません。まずは世界標準を知り、それに従って毅然と朗らかに振る舞えるようにしましょう。また同時に自分たちの国の文化も知り、誇りを持って紹介、説明できるレベルも目指したいものです。
その上で、その場で何に従うか、どう合わせるか「加減」を考え、行動選択できることが、この世界に生きる人の社会人としてのセンスだと言えるのです。