自分のタキシードを選ぶなら

 

夜の礼装として「燕尾服(えんびふく、テールコート)」に次ぐ格式を持つ「タキシード」。そのスタンダードはきっちりと決まっているとはいえ、いざ自分のタキシードを選ぼうとすると、意外と迷うポイントも多いようです。

「大人の男性」の常識ともいうべき、タキシードをあつらえるにあたっての注意点と、揃(そろ)えるべきアイテムの選び方を説明します。

ジャケット

ピークドラペルは英国スタイル。ショールカラー(トップ画像参照)は米国スタイル

襟が「拝絹(はいけん)」と呼ばれる光沢のある別布で覆われているのがタキシードの特徴で、形状には2種類あります。

ショールカラー(ヘチマ襟)は優しい表情、ピークドラペル(剣襟)は威厳のある表情になります。

どちらを選ぶかは好みですが、ショールカラーは米国スタイルで好まれ、英国スタイルではピークドラペルが好まれる傾向です。またピークドラペルのほうがよりフォーマルのイメージがあるので、儀礼的な場面が多い人には使い勝手はいいでしょう。あとは顔や体形との相性もよく見て選びましょう。

 

色は黒かミッドナイトブルー

 

フォーマルウエアは黒が基本です。黒以外のタキシードはややカジュアルで屋外のパーティーなどに着ます。ただ、「ミッドナイトブルー」という黒に近い濃いブルーは別格で、フォーマルの席で通用します。黒より深みがあるとのことから、ファンの多い色です。

 

ボタンはシングルの一つボタン

ボタンを2列に配置した「ダブルブレスト」も可ですが、最初はオーソドックスなシングル一つボタンがおすすめです。

 

カマーバンド

 

カマーバンドはベストの代わり

カマーバンドはウエストに巻くプリーツを施した飾り帯で、上着との共布あるいはシルクなどの光沢のある布地で作られます。一般的に色は黒。

ベストの代わりになるものとして作られたので、カマーバンドがあればベストはなくても構いません。しかし、防寒や着こなしのバリエーションを広げるために、ジャケットと共布でベストも揃えておくと便利です。

 

着用時は上下に注意

着けるときはプリーツが上に向くようにします。かつてコインやオペラのチケットを納められるように作られた名残です。よく間違えてさかさまにしてしまう人がいますから、気を付けてください。

 

 

パンツ

側章、シングル、サスペンダー・側章はジャケットの拝絹と同じ生地を使う

パンツは両脇に「側章(そくしょう)」と呼ばれる飾りラインを入れます。側章はジャケットの拝絹と同じ生地を使います。裾はシングルカットです。フォーマルウエアにダブルの裾はありません。

フォーマルウエアのパンツにはベルトを使いません。サスペンダー(ブレイシーズ)を使ってつりさげます。タキシードで使うサスペンダーは黒です。

 

 

シャツ

 

ウイングカラー + プリーツ + ダブルカフス

 

ウイングカラーシャツは首を包むような立ち襟で、襟先を小さく前に折り返した形状のシャツです。レギュラーカラーのシャツでも問題はありません。

タキシードには胸元にプリーツをあしらった白色のものを合わせるのが一般的。袖口は折り返して二重にした「ダブルカフス」がスタンダードです。

 

ボタンは見せない

 

ボタンが見えないことがエレガントなので、ボタンを隠す「比翼仕立て」もよく使われます。ボタンが表に出る形のシャツのときは、後述する「スタッドボタン」を必ず用います。

ボウタイ

 

日本ではクリップ式も少なくないが、欧米では自分で結ぶのが基本

 

ボウタイとはいわゆる「蝶(ちょう)ネクタイ」で、色は黒です。ドレスコードで「ブラックタイ」は「タキシード着用」を意味するように、黒のボウタイはタキシードの象徴的存在です。

幅広いものから細いものまでありますが、フォーマル用はリボンの幅が6~7センチメートルのものが一番合わせやすくお薦めです。
リボンの端が尖っている「ポインテッド」と呼ばれるタイプはややカジュアルですが、たいていの場面に使えます。

 

 

スタッドボタンとカフリンクス

 

日本の標準セットはボタンが3つ。海外だと4つ。5つセットも

 

スタッドボタンとカフスリンクスはたいてい一組セットで売っているフォーマル用のアクセサリーです。色は必ず黒。素材はオニキスか黒蝶貝を選びましょう。

本来シャツは下着です。このため、「フォーマルの際は下着のボタンを見せるべきではない」として、シャツをエレガントに見せる宝飾品として使われるようになったのが「スタッドボタン」です。比翼仕立てでないシャツの場合は必ず用います。
市販のタキシード用シャツのなかには、あらかじめスタッドボタンらしきものが付いているものもありますが、それらの多くはプラスチック製です。オニキスや黒蝶貝を使った『本物』を揃えておきましょう。

カフリンクスはドレスシャツの袖(カフ)を留めるためのボタンです。日本では「カフスボタン」「カフス」とも呼ばれています。

 

 

定番はオペラパンプス

タキシードに合わせる靴の定番のようにいわれるのは「オペラパンプス」と呼ばれる、エナメルでできたリボン付きのひも無しの靴です。しかし、この靴でなければダメというわけではありません。

 

オックスフォードでも大丈夫

 

オペラパンプスがなくても、一般的に「オックスフォード」と称される靴のタイプなら大丈夫です。

オックスフォードとは具体的には内羽根式(靴紐を通すための穴をあけた「羽根」が甲革と一体化した形状)のストレートチップ(つま先に横一文字のラインが入ったデザイン)かプレーントゥ(つま先に何も飾りがないデザイン)です。

正式には素材はエナメルですが、通常のパーティー程度のときは、きちんと磨いた黒の表革のものであれば十分です。

 

 

 

ポケットチーフとハンカチ

 

チーフはシルクか麻の白

 

ポケットチーフはシルクか上質な麻で、色は白。挿し方は、フォーマル色が強い場合は「スリーピークス」と呼ばれる角が3つ立つように折られた挿し方。それほど厳格でないなら、ふわっと丸く挿したような「パフト」がお薦めです。
ただし、それほどフォーマルが強くなければ、柄のシルクチーフも良いアクセントとして使えます。

 

ハンカチは2枚?

ハンカチは白い薄手のコットンを用意しておくのをお勧めします。よく昔から「紳士はハンカチを2枚持たなければいけない」といわれています。1枚は自分が使い、もう1枚はいつ何時女性がハンカチを必要としてもいいように、という騎士道的心得です。

 

 

コート

お薦めはチェスターフィールド

 

寒い季節しか必要ありませんが、パーティーなどは冬場に多いもの。そんなとき意外と「揃えるのを忘れていた」というのがコートです。

ステンカラーやトレンチコートはフォーマルやドレスアップのときには似合いません。せっかくのタキシードをムダにしないためにも、「チェスターフィールドコート(スーツジャケットのようなデザインで裾の長いコート)」をお薦めします。形はシングルで比翼仕立てのものが最適です。

 

 

これから必要かも。肝心なときにあわてないように。

 

タキシードは普通のスーツに比べて仕立てに時間がかかります。思い立ったら早めに手に入れる計画を立ててください。色々な方のケースを見ていると、服自体も大事ですが、靴や小物選びに意外と手間がかかるので、先に小物についてある程度、目星をつけておいたほうがいいでしょう。

「活躍するビジネスマン」であり「成熟した大人」である方なら、これからますますビジネスや社交でフォーマルなシーンに関わることが多くなることでしょう。装いは、そうした場面に自信を持って臨むための第一歩。ぜひ、そろそろ自分の一着を考えていただきたいと思います。臆せず自分に合ったものに手を通せば、すでに「タキシードが似合う人」です。

 

 

 

(この記事は日本経済新聞 電子版掲載記事を一部改変しています)