「行動を変えれば環境が変わる」 どこかでこんな言い方を聞いたことはありませんか? その意味をあらためて知ることで自分や人のことがよくわかります。

 

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■私たちの「意識」には「階層」がある〜能力(06:45)

 

■行動〜(06:25)

 

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私たちの「意識」には「階層」がある

 

意識の階層を知る

 

心理学の研究では、私たちがふだん使っている「意識」には「階層」があり、階層の上にあるものが下のものに影響しているとされています。これを提唱したのはアップルやIBMなどの世界的企業のコンサルタントであり行動スキルトレーナーとして有名なロバート・ディルツ氏です。

意識の階層はいちばん上部が「自己認識」、次が「信念・価値観」、その下が「能力」、その下が「行動」、一番下が「環境」となっています。下に行くにつれて、だんだんとわかりやすく、自分で理解し言葉で描写しやすくなってきます。そして、上に行くほど、自分では把握しづらく、当然、理解や言語化もどんどん難しくなります。

この階層は互いに影響し、  上の階層に行くほどその人間にとって本質に関わるような重要性が増してきます。

例えば、「行動を変えれば環境が変わる」 どこかでこんな言い方を聞いたことはありませんか? 

自分が今していることを思い切って変えると、自分を取り巻くものがまるで変わってくる、という意味ですね。 これは、「行動」を変えた影響により、その下部である「環境」が変わった、という現象です。

 

 

ではその「階層」を一つずつ見て、理解を深めていきましょう。

 

自己認識

 

意識の階層が下に行くにつれて、自分でわかりやすく描写もしやすくなってくると説明しました。例えば、今自分がいる「環境」は周りを見ればわかります。どんな「行動」をふだんしているかも言葉にできます。どんな「能力」を持っているのかも良く考えれば羅列していけそうですね。

しかし、その上にある「信念・価値観」はどうでしょう。「あなたの信念や価値観は何?」と言われても、咄嗟には答えられない人が多いはずです。そして、階層の一番上部の「自己認識」はほぼ誰にもわかりません。潜在意識の奥にあるブラックボックスの最たるものです。

「自己認識」とは、私たちが自分自身に対して持つ「こういう自分でありたい」という願望や「こういう人間である」という定義です。「セルフイメージ」とも呼ばれます。

誤解がないように説明しておくと、自己認識は「私ってこういう人だから」と自分で簡単に語れるようなことでもキャラ設定とも違います。大げさに言えば「自分がこの世にある意味や使命」に匹敵する「自分のあり方」「自分の生き方」といった自分にとって本質的な事柄です。しかし「意味や使命」と言っても、崇高で壮大なことではなく、単にあなたがどう生きたいか、どんな人間でいたいのかという潜在的な思いです。

その潜在的な思いが、私たちの普段の考え方や行動を無意識に私たちに選択させている原動力です。この深い原動力を自分で把握することは本当に難しいことですが、それだけに、この部分をおぼろげでも自分で少しずつ理解できるようになってくると自分の考え方や行動に対して信念を持てるようになり、それが強い自信や行動指針を自分にもたらしてくれます。

「カリスマ」と呼ばれる強い存在感を持つ人物は、自己認識理解が人より強い人間であるがゆえに、考え方や行動が一貫しており、自分の望む道を自信を持って強く邁進していけると考えられます。

自己認識は、明確化も言語化も非常に困難ですが自己啓発のセミナーやワーク、カウンセリングなど探りやすい機会があります。例えば、あなたがふだん大切にしている行動や習慣、好きなこと、心に刺さるキーワードなどに気づいたら、その理由を考えてみてください。なぜ、それらが自分にとって大切だったり何かの意味をもったりするのかを考えると、そこに共通の何かが見えてくることがあります。それがあなたを自分の自己認識に導いてくれる標(しるべ)となる可能性があります。

 

信念や価値観

 

自己認識は「信念・価値観」を生みます。「信念」というと、これも「世界を救う」などと崇高で壮大なイメージを持つ人は多いですが、あくまで自分が生きる道が「信念」です。「○○になりたい」「○○する人間にはなりたくない」など、あなたの中の芯となっている事柄です。価値観はあなたが考えたり行動したりする上でルールや指針ともなるもので、「○○するうえで、○○を大事にしている」「○○だけはしたくない」と無意識に思っている事柄です。

 

能力

 

「信念・価値観」は、私たちの生活の中で、私たちが得る「能力」の種類や力の大きさを決めています。 例えば、「多くの人と関わりたい」→「多くの場所に行けるようになりたい」→「語学力を身につける」となるかもしれません。あるいは「皆と同じようでいたい」→「目立ちたくない」→「普通の学科学習や目立たない技能を身につける」となるかもしれません。自分が今持つ様々な力は、私たちの信念や価値観が培ってくれたものです。

信念や価値観には、「こうしたい」と願望ばかりでなく「これくらいでいい」という妥協もあります。その願望や妥協が、今持つ能力を決めているというわけです。

わかりやすい例で言えば、有名なサッカー選手は小さなころから「世界で活躍するサッカー選手になる」と一心に思い続け、その結果、サッカーの技能だけでなく活躍したい国の語学も修得していきました。「世界一のサッカー選手」と将来の自分を定義し、そのために「こうしたい」という信念を非常に明確に持っていたため、それを実現する能力を自然に選択して身につけていったのです。

わかりやすく説明するため、サッカー技能や語学力を例にしましたが、私たちが持つ能力は、考え方の幅や決断力や行動力、コミュニケーションのセンスやポジティブシンキングなど、とても多様です。そしてどれも大切な自分のリソースです。

あなたの今持つ能力はどんなものがあるでしょうか。そしてあなたに今の能力や技能を与えた、あなたの信念や価値観はどんなものなのでしょうか? それを考えていくと、自分のことがよりよくわかるようになります。

 

行動

私たちは自分の能力に応じた行動を選択しています。どこの学校に行くかは成績という能力で決めた人が多いのではありませんか? 自分が得意なこと(これも能力)を活かして、今の仕事を決めたりしませんでしたか? 

大事な選択だけでなく毎日の習慣的な行動も私たちが持っている能力が影響しています。例えば、人とのコミュニケーションが得意な人間は積極的に人と関わろうとするかもしれません。数字が得意な人は、わかる数値を計算してから行動を起こすかもしれません。

こう考えると、能力が毎日の行動を決め、その行動が今のあなたを作り続けていると言えます。

 

環境

ここまでのプロセスの繰り返しで、現在あなたが手にしているのがあなたがいる「環境」です。意識の階層では一番下の最終的な結果という事になります。「環境」は、一番自分からも他人からも見やすい階層です。

「環境」が表すのは、例えば、今生活している場所、就いている仕事、関わっている人や友人、服装や振る舞い、といった目に見えるものすべてです。

あなたの目に見えるそれらのものが、あなたが持つ「ありたい自分」を表しています。

 

 

意識の階層で変わる人

 

「行動」を変えると「環境」が変わる、という話はよく聞きます。

「今まで何に対しても悪い面ばかりを見て文句を言いがちだった。でも、その行動を変えて、常にポジティブなものの見方をするようにしたら、自分のものの捉え方が変わって仕事のスタイルも変化した。その結果、周囲からの評価が変化し、重要な仕事を任されるようになった。」こんな話を聞いたことがありませんか?  行動を変えたら環境が変わった、良い例ですね。

また逆にこんな言い方も聞きます。 「環境」を変えれば「行動」が変わる

「冴えない自分だと思っていたけど、ある時に思い切って服装をプロにコーディネートしてもらった。そうしたら、自分って着るものによってこんなに変われるんだ、自信が持てるようになった。そうすると、服だけでなく振る舞いなども気をつけるようになった。そうすると周囲からの扱われ方が変わって、色々なことにポジティブに積極的になった」という例もあります。

この例は、自分から見える自分が素敵になった。その急激な「環境」変化は上の階層の「行動」と「能力」を刺激した。そして他者からの扱われ方の変化で自分のイメージが良い方に変化した。つまり影響が「自己認識」にまで及んだと言えます。その変化した自己認識が「能力」や「行動」に影響し、ポジティブで積極的な人間に変化した、という流れです。

このように、私たちには意識の階層があり、それぞれはカバーする領域が違いますが、相互に影響し合います。どこかに働きかければ、どこかを動かすことができます。

 

「自己認識」へのアプローチにトライ

 

さて、意識の階層の中でも、いちばんパワフルなのが「自己認識」です。「自己認識」が私たちの生き方や人生そのものを支配していると言っても過言ではありません。

繰り返しますが、「自己認識」「セルフイメージ」は自分の「キャラ」のように表層的なものではありません。 今まで生きてきた上で積み重ねてきた様々な体験、周囲の反応や記憶から、「自分」を無意識に定義している「自分」なのです。

セルフイメージが高い人、つまり「自己認識」の中で自分への評価が高い人は、自分のやることに大きな意味をもたせたいと考えます(「信念・価値観」) 

その考えから、勤勉に学習したり高度なスキルを身につけます(「能力」)。

信念に従い行動する上で必要な能力があるので、自信を持って良いと思うことを積極的に行なっていきます。仲間や資材、資金も集めます(「行動」)。

その結果、自分が願った通りの環境の中にいる(環境)というわけです。

今度は残念な例です。セルフイメージが低く、無意識のうちに「自分は成功しない」「自分なんてあまり価値がない」という認識を抱えているとします。このようなネガティブな思い込みも一種の信念や価値観です。無意識のうちの思い込みで自分をネガティブに捉えていれば、潜在意識はその「自己認識」に従って「能力のない自分」を実現しようとしてしまいます。そして「成功しない」ための行動を無意識に取り入れるようになります。そしてセルフイメージの通り「成功していない」自分を実現し続けます。

もちろん、そんなことは誰も望みません。顕在意識では誰だって成功したいと思うはずです。しかし、潜在意識がそれとは関係なく、今まで生きてきた上で積み重ねてきた様々な体験、周囲の反応や記憶から、「自分はこうだ」という定義に無意識に支配されているのです。

私たちが今生きている人生や生き方は、真相を探れば自分で決めた自分の望みであるということです。もし「こうじゃない」と思うのなら、セルフイメージを変える必要があります。  

あなたは自分のことを「どうありたい」と考えているでしょうか。 自分をどう定義しているでしょうか。 そのために、実際にどんな信念や価値観を持って日々を生きているでしょうか。 今まで、そしてこれからどんな能力を得ていきたいでしょうか。 どんな行動をするようにしていますか、逆にどんな行動をしないようにしていますか。 あなたが今いる環境は、あなたが望むものでしょうか。  

それを整理しやすくするためのワークシートがあります。時間のあるときにダウンロードし、書き込んで、ご自身の意識の階層とそのつながりを見てみましょう。

 

 

ワークシートの使い方

 

●制限時間20分で書き込みましょう

(あまり考えずどんどん書いてください。短い時間に集中し文字にすることで思いがけない発想が期待できます)

●書き終えたら、上から「だから」という接続詞で繋いでみましょう。うまく繋がらないところは、考えと行動などが一致していないかもしれません。繋がるようにするにはどちらをどのように変えるか?を考えてみてください。

 

いかがでしょうか。「自分が真に望むもの、自分に望む姿」を常に考え、意識することによって、自分を理解しやすくなり、意識と行動はマッチしやすくなります。ぜひ意識の階層を意識し、自己理解に役立ててください。