一流の人間は人に感謝ができ、人を褒めることが上手です。あなたは一流のような「感謝」と「褒めること」ができますか? 

 

 

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(トータル時間 10:52)

■「人」に対する一流の流儀〜美点発見を習慣にする(05:40)

■媚びる気持ちを捨てる〜(05:12)

 

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「人」に対する一流の流儀

 

「感謝する・褒める」の定義

 

古今東西、すぐれた統治者や経営者が「感謝すること」「人を褒めること」がいかに大事なことかを語っている例は多くあります。日本では松下幸之助や稲盛和夫など伝説の経営者の語録が身近かもしれません。この二つは一流の人の習慣であり人を動かすための重要なスキルです。

ところで、あなたにとっては「感謝する・褒める」の定義はどのようなものでしょうか?  企業のリーダー研修で「感謝する・褒める」ということについて講義すると、何人かの人間は「人のご機嫌をとるなんて嫌だなあ」と不平を漏らします。「心にもないことを言いたくない」とも言います。 あなたはそう感じることはありますか?

上のような不満を持つ人の認識について考えてみましょう。これらの人の中では「感謝する・褒める=心にもないことを言ってご機嫌をとる」という定義になってしまっていることがわかります。

こう説明するとわかりやすいと思いますが、これは誤った定義です。「感謝する」の定義は「ありがたいと思うこと、ありがたさを感じてそれを表すること」です。「褒める」の定義は「高く評価していることを口に出して言う、たたえる」です。(大辞林より引用)

この二つの共通点は「感じたことを表明する」という点です。嘘偽りを言うことではありません。ですから「心にもないこと」「ご機嫌をとる」という認識がわずかでも心の中にある限りは、一流のスキルは使いこなせません。

 

一流のスキルを身につけるためのマインドセット

 

一流の流儀にならうまえに、まず「感謝する」「褒める」のためのマインドセットをしましょう。以下の3つの事柄を自分にセットしてください。

 

1. Win-Winを尊ぶ

2. 美点発見を習慣にする

3. 媚びる気持ちを捨てる

 

一つずつ見ていきます。

 

Win-Winを尊ぶ

 

「Win-Winの関係」とは、双方が利益を得る関係を指します。あなたもきっと、日頃から他者とはそういう関係を目指していることでしょう。

「感謝や褒める行為」が「ご機嫌取り」と見なしてしまう人は、この「Win-Win」の感覚が身についておらず、どちらかといえば「Win-Lost」つまり、一方がいい思いをすると、もう一方は損をしてしまう、という感覚にとらわれているといえます。

ですから、「感謝」「褒める」を行なって相手がいい思いをするということは、それだけ自分の精神的な負担が生じると無意識に感じてしまうのです。

この「他人を喜ばせると損をする」という感覚を自分でも気づかず持っている人は他者との関係に困難を生じます。リーダーという立場であれば、チーム運営に問題を抱えやすくなります。

よろしいですか、本当の意味での「感謝」や「褒める」を行うと、他者に良い思いをしてもらえるだけでなく、自分にポジティブな結果が返ってくることが脳科学の研究から報告されています。まさに「Win-Win」な行為なのです。

ビジネスでは相手との利益のバランスを考え、より多く利益を取る方法を考える場面だってもちろんありますが、双方の利益を実現する方向性を考える発想のほうが現代では評価されています。

難しいことを考えなくても、単純に「感謝」や「褒める」で自分も嬉しく、他人が喜ぶと考えられる人のほうがさまざまな局面で成功します。   

 

美点発見を習慣にする

  

「褒める」は、人に接し観察する課程で見つけた、その人の美点について、その人にフィードバックすることです。自分が見つけた本当のことについて言及する、というシンプルな行為です。

エグゼクティブプレゼンス=人の上に立つ資質には、客観的な視点が持てることや、冷静に物事を捉えられることが必要です。そのために冷静な観察力と公平な視点を備えることが大切です。

ただ人の良いところだけ見るのは冷静な観察力とは言えません。しかし、批判一方で人を見て欠点だけ見つけることは公平な視点とは言えません、良い点・悪い点をフラットな視点で見ていくことで、はじめて人を見る目があると言えるでしょう。

人の欠点は相手に伝える時に注意深い配慮を必要とします。相手の不快感を刺激し警戒の壁を高くすれば、伝えるべきことを伝えることが困難になるからです。しかし、良い点については、遠慮は入りません。できるだけ早く多く伝えて相手にとってポジティブなフィードバックとすべきです。ですから、まず発見すべきは人の美点です

人のキャラクター、今日の服装、発言、仕事の成果など。人と触れ合う時に見るものは沢山あります。美点をできるだけ早期に多く発見する習慣をつけましょう。

美点を発見する目が養われると、「欠点」を見つけても「どうしようもない点」ではなく「改善するともっとよくなる点」として見えるようになります。それは「人を活かせる目」になっていくのです。

 

「媚びる」気持ちを捨てる

 

見つけた良い点は、口に出して表現することで「感謝する」「褒める」という行為になります。口に出して「感謝する」「褒める」が苦手な人は、「相手を喜ばせることをわざわざ口にする」ことに対して抵抗を感じる人が多いです。そこに「ご機嫌をとる」イメージを持つからです。

これは日本人には顕著な傾向です。シャイな国民性が災いしているのかもしれません。もともと外界とのコミュニケーションが少なかった日本では「読み取り能力」が発達し、さりげなく伝えることを尊び、言わずに伝わる方が価値があると思い込んでしまったフシがあります。そのためいつのまにか「相手を喜ばせることをわざわざ口にする」ことがあざとい行為として抵抗が感じられるようになったのでしょう。

また、実際に「相手に媚びる気持ち」が生まれている場合もあります。相手に気に入られたいから、言うことを聞いてもらいたいから、…こんな理由で、人はついついありがとうを言ったり、人を褒める言葉を安売りしてしまうことがあります。

そんな「相手に媚びる気持ち」に気づいたら、「捨てる」と考えて下さい。 客観的に、公平な視点で人を見ましょう。「こういうところ、いいな」「こんなところがすごいな」こんな風に自然に相手を賞讃できるところを見つけて下さい。  

あらためて言っておきます。「褒める」と「お世辞・おべんちゃら」の区別をつけましょう。「心にもないこと」を「無理して言う」気持ちがある限り、どんな褒め方をしても、相手だけでなく自分にもポジティブな効果は全くありません。

 

印象コントロールで効果を出す

 

 

感謝すること、褒めること、それが相手にとって良いフィードバックになるには、相手がそれを安心して受け入れられるような印象を与えることです。

あらためて「印象コントロール」を思い出してください。 柔らかい表情、安心感のある声、適度な距離感など、信頼感や安心感を相手に抱かせるように表現してください。    

 

一流を一流にする「感謝の気持ち」

 

一流の統治者や経営者は「感謝する」ことの大切さをたびたび口にします。感謝の念を覚えることで自分は成長できた、とここでも感謝の気持ちを持つ人は少なくありません。稲盛和夫氏の経営哲学の書などには、感謝を覚えるごとにステップアップがあり、幸福感が増し、仕事や人生全般が輝いていった様子がよく描かれています。

自分が出会った人や出来事への感謝、今ともにいる人への感謝、自分だけでなく相互に関わり合い助け合っている感覚を覚え始めることで、人は自然と自分を成長させる道を歩めるのでしょう。一流は「感謝の気持ち」を持つことで自らを一流にしたのではないでしょうか。

しかしながら、そういった一流の経験に照らし合わせると、まだその境地に至ることができなかったり、途中で勘違いしてしまうことも誰もが通る道ということです。

一流の経済人でも「若い頃は何でも自分が中心で、人がしてくれて当たり前だと思っていた」とか「昔は傲慢だったと思うが、だんだんと人の助けに気が付き、ありがたいと思うようになった」と言った述懐をする人は少なくありません。

このように、人に感謝する感受性や表現力は後天的に磨けるものです。

「自分ができたことは自分のおかげ」「こうしてもらって当たり前」このような感覚を持つ人は人に感謝ができません。そして感謝ができない人というのは客観的な視点が欠けていて独善的な傾向に陥ります。適切なフィードバックができなくなり、人に不満も持たれやすくなります。つまりビジネスパーソンとしてもバランス感覚が取れていないと言えるのです。

そうすると、どこかでひずみが出てうまく行かなくなることや、自分自身に充足感が感じられず生き方に迷ってしまう場面が出てきます。私たち人間には、自分以外の人やモノ、事に「恩義」を感じられる人間であることは思っているよりも重要な事柄なのです。感謝する心や行動を大切にしてください。

「上に立つ」人はなおさら、人の助力や人からの貢献には敏感でなければなりません。また、それらを正当に評価でき、適切に表現できることが、ここから先は本当に必要なこととなってきます。それを忘れてしまい、自分の成長の機会を奪わないよう、以下のことは覚えておいていただきたいこととしてお伝えします。

 

●「感謝する」に対する誤った認識は捨てる。相手を甘やかすだけだ、自分が損をする、などということは一切考えない。

●冷静に、客観的に見る。感度を高くして感謝すべき点に気付きやすくすること。

●堂々とした態度で相手に感謝を伝えられるような印象コントロールを心がけること。また、言葉もはっきりと伝えること。

 

 

いかがでしょうか?  「褒める」「感謝する」これらの行為が、あなたの部下や関係者、家族にとって、どんなに素晴らしい内部欲求への応えになるか、そして自分自身にとってもどんなに素晴らしい意味があるか、それを忘れないでください。人に対して影響力となるのは、このような事柄なのです。