影響力を強めていくには、人の内部欲求に応えられる力を十分に鍛えておく必要があります。 その方法を説明します。

 

 

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(トータル時間 12:50)

■今日から実践できる人の内部欲求に応える方法〜肯定から始める(07:12)

 

■意見を聞く〜(05:38)

 

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「応えてくれる人」の行動

 

 

今日から実践できる「人の内部欲求に応える」方法

 

人の内部欲求に応える方法は、そのほとんどは日常でできることです。つまり今日からでもすぐに実践し磨けることばかりです。  

 

その主な方法は以下の通りです。

 

⚫︎挨拶をする

⚫︎認める・個別化する

⚫︎ほめる・感謝する

⚫︎肯定から始める(肯定ではさむ)

⚫︎意見を聞く

⚫︎フィードバックする

⚫︎信念・価値観に気づく

 

 

 

それぞれ詳しく見ていきましょう

 

挨拶をする

 

相手を認める、相手を重要に思っていることを伝えるー。 その初歩は「挨拶」です。「挨拶はコミュニケーションの基本」と言いますが、それは決して間違っていません。

「おはよう」「こんにちは」「失礼します」「ありがとう」「ごめんなさい/すみません/申し訳ありません」

これらの言葉を相手に対してきちんと言えなければ、あなたはその相手に対して「存在を認めていない」と言うに等しいのです。 しかし、「上に立つ人」ならば、そここそをきちんとすべきです。

では、「きちんと言う」とはどういうことでしょうか。

それは、相手に正面を向け、相手を見て、表情豊かに、明瞭な言葉で、挨拶をするようにしてください。 誰に対しても行うことが大事です。  

「え?そんなに簡単なことを今さら?」と思われるかもしれませんが、自分ができていると思うのは早計です。なぜならば、以下のような挨拶をしている人の割合は高いからです。カッコ内は心の声です。

 

・いちいち相手に向き直ったりしない(「そんなに毎回丁寧にできないよね」)

・相手と目を合わせていない(「何か照れくさいし、言葉は言っているからいいじゃない」

・無表情、固い表情(「自分では笑っているつもり」「さっきはたまたま不機嫌だっただけ」)

・ボソボソ口ごもった言い方や「ざす」「っす」などと一部だけの発音(「挨拶しているのはわかってくれるはず」「こっちのほうが親しみやすい」)

 

「やろうと思えば、ちゃんとできる」と思いながら、日常でほとんどの人がちゃんとできていません。そのような人は「人を動かす」初歩の初歩でもうつまづいているということです。まずは挨拶の基本「相手に正面を向け、相手を見て、表情豊かに、明瞭な言葉」をしっかり実践してください。

 

認める・個別化する

 

ホテルやレストランなどの店舗では、丁寧なサービスとしてお客様のお名前を呼ぶことをモットーにしているところが結構あります。これは「個別化」というホスピタリティです。

心温まるサービスでもありますが、逆にお客様がその店舗を個別化しロイヤリティを感じ始めるきっかけになります。その意味ではその店舗の「差別化戦略」でもあるのです。

人間は「自己重要感」を感じたい根源的な欲求があります。みんなのうちの一人にしか過ぎないと感じるより「自分」を特定された方がより自己重要感や承認された感を感じます。

例えば、「おはようございます」というより「○○さん、おはようございます」と挨拶した方が、より相手の心に響きます。それは意外に大きな印象の違いになります。

また、ほんのちょっとした会話で話したエピソードを覚えていてくれた人には暖かい感情や恩義を感じます。もし初対面で少し雑談した程度の人が次に会った時にあなたの話したこと、例えば趣味のことや個人的なエピソードなどを覚えていてくれたら、その人に対してどこか特別な思いを抱き、記憶に残るでしょう。「個別化」は、される側にとっては印象的な出来事なのです。

大事な顧客には「○○さん、ようこそ」など名前を呼ぶことを意識しましょう。相手の中では無意識にあなたの重要性が増してくるでしょう。部下などに「○○さん、おはよう」と、名前を出して呼びかけることを実践してください。部下の中にはあなたに対する好意やロイヤルティが増してきます。

名前を呼んでの「個別化」すぐに始められます。また、顧客や部下について知ったちょっとした個人的なこと、例えば誕生日や趣味、気になることや家族のことなどメモして覚えておくと、雑談の時などにも知らず知らずのうちに相手を「個別化」し相手の自己重要感を満たすことにつながります。

 

褒める・感謝する

 

承認欲求に応える最適な行為が「相手のことを褒める」「相手の何かに感謝する」ということです。 なぜか人から敬遠される人、慕われない人は、この行為を苦手とする人か、この行為の方法を勘違いしている場合が多いのです。

この項目は重要ですので、別途説明します

 

肯定から始める(肯定で挟む)

 

これは、他人に対して意見や注意の時に重要です。 まず相手を認める言葉から会話を始める、ということを意識してください。

相手の努力、能力、貢献度などを最初にきちんと認め、相手を尊重していることを伝えてから、気をつけてほしいことや改善してほしいことを伝えていきます。

また、途中でも、肯定した方がいいことは、その都度認めることで、相手も指摘されている箇所に対して公正に客観的に考える姿勢が生まれます。

他人に対する意見や注意を効果的にする方法として「サンドイッチ方式」がよく知られます。 これはその相手に対する肯定的な言葉で始め、意見や注意を述べたあとは、「期待している」「これだけを気をつけてもらえれば、あとは完璧だ」などの肯定的な言葉で終わるという構成にして相手に伝えることです。つまり言いたいことを「肯定」でサンドするわけです。

「肯定」を使う時、特に注意したいのは「非言語要素」つまり、言う人の表情や態度、声音などです。 相手を肯定する時に、あなたが本心からそう思っていることが表情や態度、声音で伝わらないと「肯定」を持ち出す意味がないどころか、相手を不快にさせてしまいマイナスです。

あなたが人を肯定する言葉を口にするとき、堂々とした公正な態度、真摯な眼差しができているでしょうか。「部下などにちゃんと気を使って、肯定することを伝えている」という人に限って、その表情や視線が「これを言っておかなきゃ」という義務感に満ちていたり、「面倒だな」といった態度が滲み出て本心から言っていないかのように相手に伝わったりするのです。

言葉と態度が一致すれば強力に相手に伝わりますが、態度が言葉を裏切るときは人は自動的に態度を信じます。その時は何を言ってもうまく伝わりません。くれぐれもご注意ください。  

 

意見を聞く

 

相手を重要視し認めていることを伝えるのに良い方法は、日頃から、相手の意見を聞く機会を作る、あるいは意見を言われたら真摯に聞くことです。

また、部下などに対して何かの依頼や指示をする時には、一方的に言うのではなく、相手に打診して意見を聞くような言い方を試してください。

 

「○○したいので、○○してほしい」

→「○○したいので、○○を頼みたいがどう思う?」

 

この場合に念頭におきたいのは、この言い方で相手の都合を聞くだけでなく、相手が自分が指示された仕事の内容についてどう考えるか聞き出すことです。

相手の意向を確かめるという行為は、相手を個の存在として認めることであり、自己重要感や承認欲求に応えることです。相手の受容度を上げる効果が見込めます。 また、相手のやる気を引き出しますし、意見を引き出すことで教育の機会ともなります。

また、「意見を聞く」という行為は相手に当事者感覚を持たせやすいものです。「わかりました。その方法が妥当ですね。やります」という言葉を聞き出せば、その仕事は「本人がやると決めたこと」となります。それだけ仕事がスムーズであることが期待できるのです。

 

フィードバックする

 

フィードバックとは、相手のしてくれたことや言動に対して、相手にわかるよう反応を返す、ということです。 お礼や感謝はもちろんですが、どのように受け取ったかということや、相手の行動のおかげでどんなプラスがあったかを報告するつもりで伝えると、相手にとって価値のあるフィードバックとなります。

「挨拶」や「褒める・感謝する」ということも大きな意味ではフィードバックの一つです。基本的にはポジティブ(肯定的なこと・良い結果となったこと)な内容を伝えることを旨とします。

しかし、もしネガティブ(否定的・改善してほしいこと)なフィードバックをする必要が生じることもあるでしょう。その場合は、「肯定から始める」も参考にしてください。

また特に部下などに何かを指示した場合、その結果や姿勢に対してきちんと反応し、認めるべきところを相手に示すことは上に立つ人間の大事な役割です。強く意識することが求められます。  

なお、フィードバックの事柄については後の章に出てくる「意識の階層」も参考にしてください。

 

信念・価値観に気づく

 

人の生き方の根底には「大事にしている考え方」「行動の基準になっている事柄」があります。これも顕在意識よりは潜在意識に存在し、その奥にあればあるほど、その人を動かす強い力を持っています。

これを価値観(価値基準)と呼びます。成長するにつれて「自分はこういう価値観があるな、こういうことを大事にしているな」と感じることは少なくないのではないでしょうか。そんな自分の内面を知ると、どこか安心し自分の行動に得心が言ったりします。そう考えれば、価値観は自分で感じられるものもありますが、まだまだ自分では気付けないことも多いのです。

人間にとって価値基準は非常に重要な位置を占めます。この価値基準に気づくことができれば、相手が非常に大切にしている心の琴線に触れることになります。

自分が持つ価値観は自分では気づきにくいものですが、自分が知らずによく使う言葉や常に変わらず言っていることなど、他者から見て端的に現れている場合があります。ここに気づくことで、相手の心に触れ、信頼を得て深く入り込むこともできます。卓越したコミュニケーターは、常に相手に対して「この人が大切にしていることは何か」を意識しながら話を聞く、という調査もあるのです。

会話をしていて、相手のそのような「大事にしていること」「基準となっていること」などの事柄に気づいた時は「○○ということを大切にしているんですね」とフィードバックをしてみてください。それが相手に「気づき」を促し、強い感情を起こせることがあります。

そのようなことが起こると、相手は「自分のことを本当に理解してくれている」と感じ、かなり強い信頼を短時間であなたに感じるようになります。 人心掌握に長けた人は、このような観察眼や勘どころを持っています。これが人に対する強い影響力となるのです。

実行は簡単ではありませんが、相手の言うことに関心を持ち、注意深く話を聞くことで、熟練していきます。  

 

 

「応える人」の技能「ペーシング」

 

ここまで説明したことは、今後日常で意識していただきたいことですが、ここで前の章でお伝えした「ペーシング」は大切な役割を帯びますので、再度説明しておきます。

なぜ、「ペーシング」が重要な役割を持つかというと、ここまでご紹介した「人の内部欲求に応える方法」は、「相手の心に添い、相手が願うことに応える」ということを第一に考えたいからです。

方法としてお伝えしたことを単なるテクニックとして使うと「あざとい」印象にもなりかねない側面があります。「あざとさ」を防ぐのは、表情や声、また切り出すタイミングなどは相手をよく見て、相手のペースに合うよう行うことです。 ペースが合わないと、何か無理をしていることが伝わり、余計な警戒心や猜疑心、不快感を相手に与えてしまうことになりかねません。あなたが相手にするのは、用心深い「潜在意識」です。相手を大事にしたいという真摯な思いや態度が何よりも必要です。