人の心を開くのに同調スキルが効果を発揮する理由は人の本質にあります。ここでそれをしっかり理解しておいてください。

 

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人が本質的に持つ「自己愛」

 

前の章で「同調スキル」について説明をしました。本当に使いこなすにはそれなりの練習が必要ですが、中身が簡単なことであるのに拍子抜けのような感じを抱いた人もいるでしょう。

なぜ「同調スキル」は「警戒感の壁」を低め、人の心を開くのに有効なのでしょうか。なぜ「同調」は、人の心理に影響するのでしょうか。  その理由は前でも少し説明しましたが、ここでもう少し詳しく説明したいと思います。

なぜなら、その理由が人間の本質に関わることだからです。

まずお聞きしたいと思います。人間という存在は、この世の中で誰を一番愛し、信頼するのでしょうか。その答えは「自分自身」です。

 人間が一番愛し、信じるのは「自分自身」なのです。と、言っても、いつも顕在意識で「自分が大好き!」と思っているわけではないのです。誰だって自分は好き、でも自分が嫌いなところもあれば、自己嫌悪にも落ちいる、というのが普通ではないでしょうか。

しかし、無意識に隠れた深い部分では、人間は間違いなく自分という存在を一番愛し、信頼しています。ですから、自分以外では自分に似た存在に対しては安心感を持ちやすく、好意や信頼も感じやすくなります。

あなたも、誰かに対して「自分と似ているな」「同じだな」と思うと、何だか安心したり、その相手に親しみを覚えたりするでしょう。 そして、グッと距離が近づいたように感じます。自然にそうなるのは、私たちが「自分を一番愛し、信頼しているから」なのです。

ここであなたは、以下のことを「人の本質」として覚えておいてください。

⚫︎人は、自分に似た人を信頼する強い傾向を持つ

⚫︎自分自身で言ったことを疑いなく信じる強い傾向を持つ。 

 

   

 

当たり前に感じる、この事実には、相手を説得したり影響したりするための大きなヒントがあります。 「同調スキル」も相手が「自分と似ている人だ」と認識させるテクニックです。これをさりげなくコミュニケーションに取り入れることで、あなたはどの人ともラポール(信頼の架け橋)を築きやすくなります。

極端に言えば「私はあなただ」ということがわかってもらえれば、説得するのも影響を与えるのも非常にやりやすい、ということです。

現実には「私はあなた」ではありませんが、相手の脳にある程度の錯誤を起こさせることで、近い効果を出せるということです。 それが「同調スキル」です。  

ペーシングは相手の様子に合わせることで相手が「自分に似ている」「自分と合う」ということを無意識に感じます。ミラーリングは鏡のように相手の真似をすることで相手が強い親和性を覚えます。バックトラッキングは相手の言ったことを繰り返すことで相手は「自分の言葉が理解されている」と安心するのと同時に、自分の言葉を使ったあなたを自分と同様に信頼する感覚を持つのです。

これが、同調スキルが一見簡単であるのに、人とのコミュニケーションや関係性に大きな効果を及ぼす理由です。

 

「共通点」がキーポイント

 

人が本質的に持つ自己愛について理解したら、日常では同調スキルを用いるとともに相手と自分の「共通点」を探すようにしてください。その姿勢は人とのコミュニケーションや関係性に大きく貢献します。

自分と相手の似ていることだけでなく、自分が言いたいことと、相手が言っていることの共通点探しも、説得力や影響力のキーポイントです。 まず同調スキルで相手の警戒心を下げ、相手があなたを受け入れる土壌を作ります。その上で「ここが同じだ」と示せれば、説得の効果は非常に強まります。

人を説得する、影響するには「同調」や「共感」は重要な要素です。 人に何かを聞いてもらいたい、自分が望む方向に行動してほしい、と思うなら、相手が「自分と似ている」「自分の考え方である」と感じる方向へ導いていかなければなりません。

そして、人を説得する、影響するために最も誤った方法はその逆ということも覚えておきましょう。つまり「全く違う、似ていない、あなたの言うことがわからない」と感じていることが相手に伝わるように振る舞ってしまうと、どんなコミュニケーションもうまくいきません。気付かずにそんな態度を取っていないでしょうか。「コミュニケーションがどうもうまくいかない」と日頃感じている方はぜひそこを見直してみてください。