スキルフルな知識を手に入れる前に、本質的な知識をしっかり理解してください。これは「賢者のコミュニケーション」を手にいれる前提となる知識です。

 

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(トータル時間 11:22)

■人と自分は違う・人の頭にはブラックボックスがある(05:40)

 

■人の頭の中には3つの生物がいる(04:42)

 

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賢者のコミュニケーションに重要な3つのポイント

 

スキルフルな知識を手に入れる前に、本質的な知識をしっかり理解してください。これは「賢者のコミュニケーション」を手にいれる前提となる知識です。

ポイントは3つです。

 

1 人と自分は違う

2 人の頭にはブラックボックスがある

3 人の頭の中には3つの生物がいる

 

 

人と自分は違う

 

「人と自分は違う」。

このように言えば、ごく当たり前のように聞こえるでしょう。しかし、「違う」ということを本当に理解できている人は多くはありません。特に「人の考え方はそれぞれ違いますよ」と言われて「そうですよね」と言いながら、実際にはわかっていないケースはよくあります。

特に「普通はこう思うはずだ」「◯◯と聞けば△△するのが当然だ」「わざわざ言わなくても◯◯するのが常識だ」…このような言い方や考え方をする人は、ふだんは無意識のうちに皆が自分と同じ感覚や思考でいると思い込んでおり、実際には「違い」を認めていません。 つまり「人と自分は違う」ことを本当は認められていないのです。

あなたはここからコミュニケーションと人間心理について学んでいきますが、学習をしながら下記の4つの事柄を知ることができます。ここでは「人と自分は違うということについて、これらのポイントを知る予定である」ということを覚えておいてください。

 

●人と自分はどこがどう違うのか?

●どんな時に「違い」が影響するのか?

●違いが引き起こすミスコミュニケーションにはどんなものがあるか?

●ミスコミュニケーションをできるだけ減らすにはどうしたら良いか?

 

 

人の頭にはブラックボックスがある

 

私たちの頭の中には「ブラックボックス」があります。

「ブラックボックス」とはコンピューター用語で、入力したものと出力した結果しかわからず、中の演算装置や動作環境がわからない装置を言います。つまり、内部で何が行われているか、傍からは見ることができない状態のものです。

私たちの頭の中には、このブラックボックスのような仕組みがあります。コミュニケーションを間違える人は、自分で自分のことをよく分かっていると思いがちです。しかし、私たちは他人のこともよくわかっていませんが、実は自分のこともあまりわかっていない存在なのです。

自分でわかっていると思っているのは理性や思考でとらえている心の動きです、そのように自分で知覚できる自分の意識は「顕在意識」と呼ばれます。

それに対して「ブラックボックス」と呼ぶのは「潜在意識」と呼ばれるものです。「潜在意識」は人間の意識全体の約9割以上を占め、「顕在意識」は1割にも満たないと言われます。そして「顕在意識」の及ばないところで私たちの考えや行動を支配していると考えられています。そして、そのような動きは私たち自身にはわかりません。

 

つまり、このようになります。

 

●「顕在意識」=自分である程度の把握やコントロールができている

●「潜在意識」=自分ではまったく見えないブラックボックス

 

顕在意識」は自分で知覚でき、普通の考えとして自分では論理的に感じられます。しかし、 「潜在意識」は非論理的であり、動物的であり、混沌としています。

「相手は何を考えているか」と思うときに、整然とした思考だけを想像すると、対応に失敗することがあります。「相手の頭の中はどういう状況か」ということを、非論理的で動物的な側面も考慮に入れながら冷静に考えることが賢者のコミュニケーションを助けます。

まず覚えておかなければならないのは、人は「思考」という理性的な頭の働きの前に、「反応」「感情」といった本能的で理屈によらないことが起こるということです。そして、それは私たちの意識の9割を占める領域で起こり、またそれは私たちが知覚できない領域であるとということです。

私たちが外界の情報に触れた時、つまり何かを見たり聞いたり触れたり、あるいは誰かに何かを言われた時や何かをされた時に、私たちの「潜在意識」は「反応」します。それは言語化されず、意識の表面に上がってこないこともあります

しかし、人間は思考をスタートさせる前にすでに何かを感じ、何かを判断しているものなのです。不快感や疑惑、警戒感、あるいは自分にとっての正悪の判断などは、何より先に素早く意識下で行われています。

私たちは、理性や思考ではとらえれらない、ある意味で動物的で非論理的な「頭の働き・心の動き」を持ちます。

 

人間は感情や感覚を先に受け取り、反応します。思考はその反応に影響されます。例えば、その反応でネガティブな感情が発露すれば、ネガティブな思考が強固になったりします。ですから「言えば通じる」「正しいから受け入れてもらえる」という、理性に訴えるだけの考えでは通用しないことも多々あります。

ですから、優れたコミュニケーターは、「これは相手の感情や感覚に対してはどうか?」ということをまず気にするものなのです。

覚えておいてください。賢者のコミュニケーションを邪魔するのは、「自分で考えていることは自分でわかっている、自分は常に理性的に物事を考えられる、だから他人もそうだ」という一見常識的な考えです。

 

 

人の頭の中には3つの生物がいる

 

「脳の中の3つの生き物」というのは、脳の機能の分類に対する例えです。人間の脳の中には、進化の過程で発達した順で3つのエリアがあります。それを動物に例えています。

進化の最初は生命維持機能くらいであった神経の束(脳幹)が発達していくうちに、生命の維持や種の保存のための本能的な行動を取るための領域(大脳辺縁系)を形成するようになりました、そして本能や情動を主にしていた段階から、理性で本能を制御したり、思考や発展的創造を可能にする知的な領域(大脳新皮質)が形成されました。(この部分は医学的な説明ではありません。大体のストーリーとしてご説明しています)

 

このように分けられます。

・大脳新皮質の領域は、人間らしい理性や思考を司る、いわば「人間脳」

・大脳辺縁系の領域は、もっと原始的な本能による生物的反応=衝動や反応、情動、本能的行動を司る「動物脳」

・脳幹は、生命維持に必要な措置を黙々と行なっている最も原始的な領域の「爬虫類脳」

 

 

人間脳によって、人間は理性的な思考を持つ今の人間らしく生きていけます。しかし、もともと原始の頃からあった、人間の生物としての重要な機能「生命の維持や種の保存」が失われたわけではありません。ですから、動物脳爬虫類脳も立派に働いています。

大きく分けると、人間脳は自分たちである程度把握できる「顕在意識」に近いですが、動物脳爬虫類脳は「潜在意識」と考えられるでしょう。それぞれの機能はブラックボックスの中で私たちが生きるための重要な役割を果たしています。

 

例えば、心臓など生命維持に必要な生理機能は、私たちが理性や思考から「心臓よ動け」と考えて動いているわけではありませんよね。これを司るのは主に爬虫類脳です

そして、私たちの目に見える世界は総じて平穏で、少なくとも私たちの周りは明日の生死がわからない状態ではありません。ですから私たちはふだんからあまり強い警戒心を抱いていません。しかし、これは顕在意識の上のことだけであり、私たちの潜在意識は常に警戒を怠っていません。

動物脳が中心となって外界の情報を取り入れ、周りを監視しながら各領域に適切な指示を行っています。

動物脳がいちばん警戒するのは「不快な状態」です。「不快な状態」とは、端的に言えば人間にとって「自分の生命や健康に対する侵害がありそうな状況」「不安な相手や敵が接近する状況」です。

もしもそのようなことが起こりそうであれば、動物脳はたちどころにアラームを出します。

例えば、 悪い予感がしてとっさによけたら、飛んできたボールを避けることができたので助かったなど、なぜだかカンが働いて危険を避けられた経験を多くの人が持っているはずです。不思議なことですが、私たちが預かり知らぬところで、本能が働いている、という話がわかってもらえると思います。

もう少し日常的な事柄であれば、 急な大きな音に思わず身構えたり、友人の言葉にムッとしてつい嫌味な反論をしたり、後から「あの時なぜああなってしまったのか」と思うようなことです。「ついムッとして」「カチンときて」などの感覚は、動物脳が 対人関係においても不快を警戒し、不快な刺激に敏感であることを表しています。

初対面の人には特に警戒心がありますが、友人や家族でも同じです。初対面の人ほどではないかもしれませんが、やはり本能の警戒心はあるのです。私たちがお互いにコミュニケーションを取ろうとするときに一番の障害になるのが、人間のこんな「無意識の警戒」という壁です。 この壁にはじかれてしまうと、スムーズなコミュニケーションが難しく、信頼も得られません。

 

賢者のコミュニケーションを身につけている人は、「本能の無意識的な警戒」の壁を低くしたり乗り越える手法を持っています。

例えば、優れたコーチ、カウンセラー、なぜか売れる営業職、できる交渉者、慕われる上司などはその手法を身につけています。 どんなものか 次の項目から見ていきましょう。

 

(余談ですが) 動物脳は爬虫類脳にも影響します。人間は生命の危機を感じるような目に会うと、視野が狭まり瞳孔が開きます。このような身体機能の変化は、動物脳が危機を感知し、緊急事態に対応するように脳幹に伝えることで、目の前にある危機に対応できるよう視野を前面に集中させるために起こることだと言われています。