コミュニケーションの始まりは挨拶と言います。あらためてリーダーらしい堂々として品のある挨拶を心得ておくことで、始まりの場に自信を持って臨めます。

 

 

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(トータル時間 22:38)

■ 挨拶の礼節・お辞儀を磨く(09:13)

 

■ 先語後礼・名刺交換(06:18)

 

■ 握手(07:07)

 

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挨拶の礼節

 

挨拶はコミュニケーションの始まり。挨拶は大事。よく言われることですが、若い時はそれほど深く考えないかもしれません。しかし、役割や責任が重くなってくると、あらためて挨拶の大事さに気づく人は多いようです。

挨拶の仕方ひとつにも人となりや人に対する姿勢が現れます。同時にリーダーらしさや品格も見られます。では、どんなことに気をつければ良いか、その「礼節(最低限守るべき行動や作法)について最初に説明します。

 

<挨拶の礼節>

⚫︎接近はパーソナルスペースに配慮する

相手に近づく時は、パーソナルスペースに配慮する。初対面などあまり親しくない時は、相手から1.2mくらいの地点でいったん止まり、軽く一礼してから近づく。

⚫︎立ち上がる

和室での座礼は例外として、挨拶する時は立ち上がる。座ったまま頭を下げたり、握手をしたりする行為はしてはいけない行為と覚えておく。

⚫︎身体の正面を相手に向ける

「立ち上がる」とセットで、身体の正面を相手に向ける。これらのアクションにはメリハリをつけて、相手に敬意を表していることを着実に伝える。

⚫︎ジャケットのボタンを閉じる

座っている時はジャケットのボタンを外していることが多いが、立ち上がる時には必ず閉めることを習慣づける。これは男性向けのアクションだが、女性もテーラードジャケットを着ているときは同じようにすることを推奨。

⚫︎目を合わせて微笑む

相手に無礼な態度を取りたい時以外は、目を合わせて微笑み「会えて嬉しい」という気持ちを表現する。相手といったん呼吸を合わせることも意識すると、そこからのコミュニケーションがスムーズになる。

以上が挨拶のときの礼節です。これらは一連の動作として、その都度考えずにすむようにセットで身につけることをおすすめします。最初から自然に相手への敬意を示せるようになることで、誠実で信頼できる人柄や品格が伝わりやすくなります。

 

 

「お辞儀」を磨く

 

お辞儀は日本人の挨拶の代表的な所作です。簡単なようですが、きれいにできる人は意外に多くありません。お辞儀を磨いて、いざ人前でもリーダーらしく堂々と美しく振る舞えるようにしたいものです。また、海外でもお辞儀の所作は日本の象徴のように思われています。どうせならお手本になれるようにしましょう。

まず、お辞儀が美しく見えるポイントを確認してください。

<美しいお辞儀のポイント>

1 首を曲げずに腰から曲げること

2 呼吸を使いゆっくり行うこと(礼三息・れいさんそく)

3 視線を自然に落とすこと

 

以下に詳しくご説明します。

 

1 首を曲げずに腰から曲げる

 

お辞儀のことを「頭を下げる」とも表現しますが、首を曲げて頭を下げてしまうと、印象が一気に悪くなります。美しいお辞儀のために絶対守らなければいけないのは「頭を下げるときは、首を曲げずに腰から曲げる」ということです。

気をつけたいのは、深い角度のお辞儀のときです。背筋を伸ばしたまま上体を倒そうとすると、腹筋の力がけっこういりますので、つい首のほうを曲げて頭を下げようとする人が出てきます。

正しいお辞儀は、どんな場合でも背筋を伸ばしたまま、腰のところで上体を折り曲げます。いざ人前で振る舞うときもきちんとした印象の所作になるように、腹筋も鍛えておいてください。

 

2 呼吸を使いゆっくり行う

 

「日本」のイメージでもある美しいお辞儀は、余韻が感じられる所作です。この余韻を作り出すのはゆったりとしたリズム。そのリズムを作るのは呼吸です。

小笠原流など日本の礼法を司るところでは、呼吸を大事にします。お辞儀の礼法では「礼三息(れいさんそく)」が有名なので、覚えておきましょう。

<礼三息(お辞儀のしかた)>

 

●頭を下げながら息を吸う

ゆっくり「1・2・3」と数えるくらいの間で息を吸いながら上体を倒します。

●いったん止まったところで息を吐く

頭を下げたところで体をいったん止めて「1・2・3」と数えるくらいのあいだ息を静かに吐きます。

●息を吸いながら上体を起こす。

また「1・2・3」と数えるくらいの間で息を吸いながら上体を起こします。

 

 

慣れない人によくあるのは、勢いをつけてバタン!と上体を倒し、また勢いよく起き上がるような粗い動作です。これでは敬意も品格も表現できず、お辞儀としての意味が全くありません。挨拶などの所作の優雅さはビジネスパーソンとしての余裕につながります。呼吸をしっかり身につけて余韻のあるお辞儀をしましょう。

 

3 視線を自然に落とす

 

説明したように、正しいお辞儀は背筋を伸ばしたまま腰から上体を曲げます。相手をまっすぐ見ているところから頭が下がっていきますので、視線はそのまま自然に落ちていきます。視線を静かに自然に落としていくところに品が出るのです。

お辞儀は場面や目的によって「会釈・敬礼・最敬礼」の三種に分けられます。この3つの言葉をご存知かと思います。(茶道など伝統的な作法では、草礼、行礼、真礼、ともいう。)

それぞれ、使う場面と上体の傾斜角度、そして目線が落ちる距離が違いますので、この機会に確認しておいてください。

 

<お辞儀の三種>

 

●会釈(草礼ともいう)

使う場面:日常的な軽い挨拶

傾斜角度:15°

目線が落ちる距離:約1.5m先

●敬礼(行礼ともいう)

使う場面:初対面や少しあらたまった挨拶

傾斜角度:30°

目線が落ちる距離:約1m先

●最敬礼(真礼ともいう)

使う場面:深い感情表現をするとき。感謝やお詫びなど。

傾斜角度:45°

目線が落ちる距離:約50cm先

 

 

このような基本を覚え、場面に応じて適切なお辞儀の角度を選んでください。選択していただくことで動作にメリハリがつき、潔く品のある印象の所作となります。

 

お辞儀の際の手の位置について

 

お辞儀の際の手の位置は、一般的には男性は脇につけ、女性は身体の前で軽く手を重ねる、とされています。ビジネスマナーでも、男性はズボンの脇戦に中指が来るくらい、女性は手を前で重ねる、その際は武器を持つ手の右を隠すように左の手を上にする、と教わった方は多いのではないでしょうか。

実は、小笠原流など伝統的な作法では、男女の差なく、両手を腿の前に自然にあてるよう教えています。

どちらが正しいか、と言われれば、小笠原流に見るような伝統的な作法が正しいと言えます。食事の場や儀礼的な場であれば、そのほうが通じやすいでしょう。しかし、ビジネスマナー的な所作を見慣れた人からすれば、正しい作法であっても違和感を感じる可能性があります。特に接客が多い業界では、ビジネスマナー的な所作のほうが通じやすく正しいと思われやすいのではないでしょうか。

結論としては、どちらも知っておき、場面や周囲の人の様子によって使いわけることが便利だということです。

 

 

先語後礼

(せんごこうれい)

「先語後礼」とは正式な挨拶の作法を示した言葉です。「先言後礼」「語先後礼」という言い方もあります。その意味は「先語=先に言葉による挨拶をする」+「後礼=言葉をしっかり言い切った後に礼(お辞儀)をする」です。

私たちは普段は「こんにちは」「よろしくお願いします」などと言葉を口にしながら頭を下げるような挨拶をしていることが多いと思います。このように言葉とお辞儀を同時にする行為は「同時礼」と呼ばれ、カジュアルな挨拶の仕方とされています。

 

 

カジュアルな挨拶の仕方が悪いわけではありません。日常的に使っていい方法です。しかし、「きちんとした場面」「しっかりと気持ちを伝えなければいけない場面」ではカジュアルでなくフォーマルな挨拶をする必要があります。それが「先語後礼」です。

 

先語後礼のプロセスは3つです。

 

1 言葉

場面や目的にふさわしい表情(例えば感謝やお詫びなどの気持ちが伝わる表情)で相手とアイコンタクトし、言葉を発する。

2 お辞儀

しっかりとお辞儀ををする。あらたまった挨拶なので、敬礼または最敬礼がふさわしい場となる。

3 戻る

上体を戻し、ふさわしい表情で相手とアイコンタクトをして終える

 

 

先にも言ったように同時礼は日常の挨拶としては定着していて、悪いことではありません。しかし、頭を下げながら言葉を言うため、言葉がはっきり聞こえず、言葉を言う時のアイコンタクトもできません。 初対面の挨拶、感謝やお詫び、何かの代表としてのきちんとした挨拶、などの場面ではフォーマルな挨拶の仕方が必要です。そのために先語後礼の作法は身につけておいてください。

 

 

名刺交換

 

名刺交換は日本のビジネスシーンで最もポピュラーな初対面の挨拶作法です。最初に覚えておきたいのは、研修で習うようないわゆる名刺交換のマナーは日本だけのものだということです。

海外では大抵の場合、名刺(ビジネスカード)はひとしきり自己紹介をした後で渡します。しかも特別な作法はなく、片手で軽く差し出すような扱いです。以前は外国人とのビジネスで日本人がカルチャーギャップに驚くことがよくありました。

日本での名刺交換のマナーは、外国からビジネスカードが入ってきた時に武士の儀礼などにあった書状受け取りの振る舞いが結びついたのではないかと言われています。紙一枚のことでも、人の名が記してあることで、おろそかに扱わないようにするような日本の道徳的精神もうまく結びついたのかもしれません。

そのようなことから、あまり形式的にするのは少し古臭い気はしますが、相手の名を大切に扱う想いは大事にして良いのではないでしょうか。以前は、驚くべきカルチャーギャップでしたが、今では海外でも日本の名刺交換マナーを知る人は多くなり、会話のきっかけとなることもあるようです。せっかくの日本固有の作法ですから、きれいにできるようにしておきたいものです。

名刺交換のポイントを説明します。

 

<名刺交換のポイント>

 

⚫︎正面・両手・胸の高さで渡す

人にものを渡す時は、正面・両手・胸の高さが和の作法のセオリーです。名刺も同様の渡し方になります。

 

⚫︎差し出すのは「目下から」

挨拶は目下から先にし、目上はその後にする、という順番は東洋西洋ほぼ同じです。ですから、目下と思われる人から先に名刺を差し出すことになります。ただし、ビジネスシーンの初対面では目上・目下が明らかでない場合も多いので、同時に差し出し、片手で相手のものを素早く受け取る、という行為になりがちです。これは慣習的なものなので、それほど気にすることはありません。

なお、相手の名刺を先に受け取ってから自分のものを渡すのは、あなたが明らかに目上の立場である場合以外では失礼となりますのでご注意下さい。

 

⚫︎名前を見て相手を認識

名刺を受け取ると、相手の名前や連絡先をいったん確認するのも作法です。名前の呼び方の確認などはこのタイミングで行います。

 

⚫︎すぐにしまわない

もらった名刺はすぐにしまわず、相手と呼吸を合わせてタイミングを見計らってからしまいます。打ち合わせにそのまま入る時には、テーブルにおいておくものとされます。

しまう時は「ありがとうございます。頂戴します」などの声をかけると、相手も安心してしまえるでしょう。

 

⚫︎相手と同じくらい大事に扱う

ここまでのような形式があるのも、他人の名前が書かれたものなのでぞんざいに扱ってはいけない、という先人の思いでしょう。その精神を大事にして、できるだけ丁寧に扱います。相手の名刺に相手の目の前でメモを書き込む、などの扱いは当然違和感を生みますので、してはいけません。

 

ポイントは以上です。

名刺交換のマナーは新人研修などで習う人が多いせいか、キャリアが上がっても新人のようなフレッシュなイメージの動作の人を見かけます。これは特にリーダーポジションにいる人やエグゼクティブ層には合わないイメージです。落ち着いた表情や動作を工夫することをおすすめします。

逆に態度が経年劣化して品格も何も感じられない横柄な態度の名刺交換になってしまう人もいます。これは誰にとっても意味のない挨拶の仕方です。無意識にそうなっていないように気をつけたいところです。

 

 

握手

 

握手は日本ではそれほどポピュラーではありませんが、海外ビジネスでは挨拶の中心なので、できるようにしておいたほうがいいでしょう。難しいことではありませんが、メッセージ性が強い部分もあるので、誤ったメッセージが伝わらないよう注意が必要です。

 

注意のポイントは3つです。

1 過剰表現や間違い表現をしないようにする

2 ノーマルな握手方法を知っておく

3 順番のマナーを知っておく

 

それぞれ説明します。

 

1 過剰表現や間違い表現をしないようにする

 

古人類学者で進化生物学者のエル・アル=シャマヒーは、「握手は単なる文化的なものではなく人類のDNAにプログラムされた接触行為である」として、さまざまな本能的な意味を含む行為であると言っています。それだけに、第一に生理的な不快感を与えるような行為は避けたいものです。

特に握手に慣れない文化圏の日本では過剰に握手に反応しがちです。まずは以下のことを避けるように気をつけてください。

●握手をしながら頭を下げる

●力を込めすぎる

●相手が差し出した片手を両手で握る

●何度も握手を求める

●意味もなくブンブンと上下に大きく振る

●フニャフニャとした力のない握手をする(Dead Fish =死んだ魚と呼ばれる嫌われ行為)

 

2 ノーマルな握手方法を知っておく

 

ビジネスシーンで初対面などに行なわれる握手はごくノーマルな方法です。

 

・姿勢良く上体を保ったままアイコンタクトとスマイル

・軽すぎず、強すぎず 一度キュッと握る

・握った手を1〜2回軽く上下させて手を離す

あまり深く考えずに、さわやかに握って離すくらいの感覚で良いでしょう。実際に挨拶に使う方のために、さらに実践的な要素もご紹介しておきます。

 

<握手の実践的要素>

 

●握手をする手

握手をする手は右手です。右利き・左利きに関係なく慣習的に決まっており、研究者によっては生物学的意味も指摘されています。いずれにしても、左手を使うと違和感を感じる人がほとんどですので「握手は右」と覚えておきましょう。

そのため、パーティなどでは右手は開けておくものとされ、飲み物を持つ手は左、というのが暗黙の了解となっています。(手が冷たくなってしまうのを避けるため)

●手を差し出す角度

対等な相手となら、手のひらは地面に対して垂直に差し出す。

ただし、ほとんど場合は相手を「対等な相手」と考えればよいので、垂直に出すのは常の決まりのようなもの。昔は、威厳を醸し出すなら相手の上から手をかぶせるような角度で握り優位性を示すのが良いと言われた時代もあったが、今はあまりセンスのないやり方であると思われている。

●手を差し出す方向

相手との対角線上に手を出す。

●触れ合う部分

親指と人差し指の間を開き、その間の水かき部分が相手の同じ部分にちょうど触れるようにする。

手のひらをあけて、手のひらの真ん中を触れ合わせる。

●アクション

相手と同じ程度の強さで一回力を入れ相手の手を握る。ほぼ同時に肘から軽く1〜2回振る。

特別な思いを込めるときなどは、やや長めに手を握っていることもある。

 

以上がノーマルな握手のセオリーです。

 

3 順番のマナーを知っておく

 

握手は順番のマナーがあります。

基本的には目上の人間から先に手を差し出し、それを許可として目下の人間がその手を握る、という順番です。

ビジネスでの関係性はフラットなものが多いですが、それでもポジションやキャリア、あるいは明らかに年上であるなど、相手を自然と目上と認めるような場合なら、握手の手をいきなり差し出さないほうが良いでしょう。それは失礼な行為とされるからです。

ですから、はるか目上の人にいきなり手を差し出すと、拒否されることもあります。少なくとも当然のように手を差し出すと相手の感情を損ねる場合がありますので気をつけてください。

また、男性が女性に握手を求めるのもマナーでは失礼とされています。これはレディファーストの観点からです。

ただし、ビジネスの場においては最近は気にしない人も多くなっています。また、ビジネス相手としての敬意表現として男女関係なく握手の手を差し出すこともあります。ですから、一応はマナー上ではそのようなものもあると知っておく程度で良いでしょう。

 

【レディファーストについて】

レディファーストはビジネス先進国や英語圏では「息をするくらい当たり前」のような感覚のマナーです。しかし、ダイバーシティが進む現代では、そのマナーに従うことでかえって差別感覚を助長するという問題意識もあります。

現在のところは、ビジネスではレディファースト的な行為は好まれないが、社交的な場面ではひとまず示す必要がある、といった「ダブルスタンダード」のような状態にあります。ただし、「息をするくらい当たり前」と言ったように、理屈でなく習慣やクセのように身体にしみついた振る舞い方なので、ビジネスシーンであっても男性側が咄嗟に女性側に席をゆずったり、手を貸したりすることはやはりよくあることです。

今後ダイバーシティの行き届き方を見ながら振る舞い方を考える必要はありますが、弱者を守り手を貸す、といった本質的なレディファースト感覚は男性に推奨するものであり、女性には変な遠慮や恥ずかしがるような態度をせず自然に受けられるような度量を持つことをお勧めします。

 

いかがだったでしょうか。挨拶もいざという時には「これでよかったかな」と戸惑ってしまうことがあります。ここでお伝えしたことを身につけておくと、少なくともそのように戸惑わずにすみますので、ぜひひととおり確認をしておいてください。