「笑顔」の効用を知らず、「たかが笑い顔ひとつで」と軽んじている人もまだいますが、その影響力は、普通の人が捉えるよりも大きいものです。ここでは、その笑顔を真剣に磨きます。

 

 

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(トータル時間:19:29)

■笑顔はコミュニケーションの重要要素(時間 07:06)

 

■ハーフスマイルを詳しく+笑顔エクササイズ1(時間 06:44)

 

■笑顔エクササイズ2、3(時間 06:44)

 

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(時間 19:29)

 

■笑顔はコミュニケーションの重要要素(00:00〜約07:06)

■ハーフスマイルを詳しく+笑顔エクササイズ1(約07:06〜13:49)

■笑顔エクササイズ2、3(約13:49〜約19:29)

 

TEXT

「人を動かす」笑顔の重要性

 

笑顔はコミュニケーションの重要要素

「笑顔」はコミュニケーション力においては非常に重要な表情です。

近年、MRIなどの機器のおかげで、人間の脳内の活動が詳細にわかるようになりました。人が自分に向けられた笑顔を認知すると、脳内にエンドルフィンやドーパミンなど、いわゆる「快楽物質」が分泌され、心理の動きに大きく影響することもわかったのです。それ以前でも、笑顔がほぼ全世界共通の友好の表現であることが、表情研究で有名な心理学者エクマンの調査でわかっています。

人は自分に笑顔を向けられると、自然に惹きつけられ、心を開放する方向に向かいます。魅力的な笑顔を持つ人は「華」を感じさせることが多いですが、これは笑顔が「人が生物として人を惹きつける」魅力を放ち、自然に周囲の無意識の関心を集めるからに他なりません。

科学的な研究で証明される以前から、その笑顔の効用は成功した人間によって書物や名言に残されています。実際、仕事では一流の経営者やプロフェッショナルは極上の笑顔を持ち、要所要所で人を惹きつけ心を開いてもらうことができ、人の心理に働きかけることができる、とその効果を利用しています。ビジネスにおいてコミュニケーションの力は非常に重要ですが、そのコミュニケーションにおいて笑顔が人の心理に及ぼす影響力は、普通の人が捉えるよりもかなり大きいのです。

しかし、いっぽうでその効用を知らず、たかが表情ひとつで、と軽んじている人もまだいます。また、「笑顔が大事」と思いながらも実践や知識が不足し、本当の笑顔を身につけられていない人もいます。どちらのタイプも、ビジネススキルとして不足を抱えている、ということを知っておくべきでしょう。

 

「笑うべき時に笑える」ことこそが大事

 

「自分は普通に笑える」と思っても安心しないでください。自分が楽しい時、何かおかしいことがあったときはほとんどの人が自然に笑えます。そして、そんな自然な笑顔は魅力的です。しかし、ここで言っているのは、そのような自然現象のことではないのです。

経営者やリーダー、仕事のプロフェッショナルであれば、自分が楽しい、おかしい、ときではなく、相手の心に働きかけたい時に自然な笑顔を出せるようにしたいのです。

経営者やリーダー、仕事のプロフェッショナルは、ときに厳しく真摯な表情を見せることが必要です。しかし、場合によっては、相手に対して「大丈夫」という安心を伝えたり、相手をリラックスさせるようなコミュニケーションが必要になります。そんなときのために「笑顔」があります。人と関わり、人に影響を与える立場の人なら、相手を励まし鼓舞させるための非言語表現として「笑顔」を活用できなければなりません。

コミュニケーションに重要な役割を果たす「非言語メッセージ」の中でも、表情は人間の知覚や判断に大きな影響を与えます。その「表情」によって、相手を安心させたりリラックスさせられたりする人は、人の感情を動かし、人を本能的に引き込むことができます。そのためにも、その時の場面、言葉、示すべき感情に対して「適切な表情」を意識しておくことが大切です。

知っておいていただきたいのは、意図的に笑顔を人に向けようとするときに、自然で魅力的な笑顔を実現できる人は意外と少ないということです。自分では笑っているつもりでも、不自然であったり、曖昧な表情や何だか気弱そうな表情にしかなっていないのです。

ですから、心から笑うときの本物の笑顔の「カタチ」を身につけておきましょう。笑顔には見る人に必ず笑顔とわかる「カタチ」が必要です。

 

笑顔のカタチ「ハーフスマイル」

 

自分が楽しいときに心から思う存分笑っている顔は、屈託がなく明るい素敵な笑顔です。そのような場面で、口を大きく開けて思い切り笑う表情は「フルスマイル」と呼ばれます。誰の「フルスマイル」にも自然な魅力があります。あなたも今まで、家族や友人と共に何度もこの「フルスマイル」を見せてきたはずです。これはこれで、良い笑顔です。

しかし、先ほども言ったように、ここで大切なのは、相手の心に働きかけたい時に相手に向ける自然な笑顔です。

人に「笑顔」とわかるためには、はっきりとその表情をする必要があります。その表情は、「ハーフスマイル」と呼ばれます。「ニコッ」と擬音が聞こえてきそうな典型的な「笑顔のカタチ」です。ここでは、そのカタチとして「ハーフスマイル」を覚えます。

理性的ながらもしっかりと好感や安心感を伝えるのが「ハーフスマイル」です。人に挨拶するとき、好意的な気持ちを伝えるとき最適な、他人から見て好感度の高い表情です。

 

この「ハーフスマイル」を自然に、出すべき時に出せるように、しっかり自分のものにしておきましょう。

なお、「笑顔が大事」ですが、常にニコニコしている必要はありません。意味もなく笑っているより、笑うべき時に笑うほうが魅力的です。意図した時に「自然な笑顔になれる」ということが何よりのポイントです。

 

評価が高い新興企業のCEOフライアー氏の笑顔は魅力的

表情での表現がうまいオバマ氏のハーフスマイル

 

ハーフスマイルとスマイル・ライン

 

ハーフスマイルのポイントは、3つです。

1 上の歯が6本、きれいにのぞくくらい口を開ける(スマイルライン)

2 両口角が上がることで頬の筋肉が高くなる

3 頬の筋肉が高くなって目元を押し上げ、目元が少し緩む

 

「 ハーフスマイル」は「スマイルライン」がきれいにきまった笑顔です。両方の口角がキュッときれいに上がり、上の前歯が6本くらいのぞく口元を「スマイルライン」と呼びます。

今まで自分の笑顔を意識していなかった人、スマイルラインをあまり作れていなかった人は、急に言われてもできないことのほうが当たり前です。まずは他の章でご紹介した目元口元のエクササイズで顔の筋肉をできるだけ思い通りに動かせるようにしてください。

また、ハーフスマイル、スマイルラインをあなたのものにしやすくするために、先ほどの1から3についてもう少し詳しく解説しておきます。

 

1 上の歯が6本、きれいにのぞくくらい口を開ける(スマイルライン)

理想的なスマイルラインでは、下の歯はほとんど見えない状態で、上の歯が6本のぞくくらいの口の開け方です。(女性の場合は、8本見えるくらいに口角を引き上げても華やかな雰囲気になりますので、使い分けるといいでしょう。)

口を開けると言っても、歯茎を見せすぎると、残念ながら少し品格がない笑顔となります。理想的なスマイルラインの場合は、上の歯茎はちょうど見えないか、1〜1.5mm見える程度、と言われます。

笑顔に慣れない人に笑顔を作ってもらうと、どうしてもわざとらしい表情になりますが、これは笑おうとして口を横に広げるだけで、口角が上がっていない状態であることが多いです。

スマイルラインが作れるような口の開け方は、口を横に伸ばしてもできません。口角だけを急角度に引き上げることが必要です。

先ほど、歯茎の話をしましたが、口角がきれいに上がると、口の端だけ少し歯茎が覗くくらいの角度になります。鏡で笑顔のエクササイズをするときは、それくらい上がっていることを確認してください。

 

2 両口角が上がることによって頬の位置が高くなる

口角は両方同じ高さに上がっていることも大事です。どちらかのほうが高いと「片頬笑い(ニヤリ笑い)」となり、あまり印象の良くない表情となります。

口角がしっかり上がると、当然ながら頬の位置が高くなり、丸く盛り上がります。この頬の状態も、人を魅力的に見せるひとつです。鏡で変化を確認してみてください。

3 頬の位置が高くなって目元を押し上げ、目元が少し緩む

頬の位置が上がると、目元も押し上げられます。下まぶたが虹彩を少し隠すことで「目元がゆるんでいる」ように見えます。これが「笑った目元」です。

わざとらしい笑顔と自然な笑顔の差は、この目元の違いによるものも大きいのです。口元に笑顔を作って、目が緊張で見開かれていると、「怖い」印象の笑顔になります。

人のために笑顔を見せるときは、目元の緊張を解き、適度にゆるませてください。それを自然にすることで、笑顔はとても魅力的になります。

 

 

 

笑顔のエクササイズ

 

鏡を見て、ハーフスマイルをしてみてください。ポイントは、自分で見て「魅力的」であることです。もしも、しっかりと笑顔とわかる魅力的な表情にまだ自信がない、というなら、笑顔のエクササイズをぜひ行ってください。誰もが惹かれる魅力的な笑顔ができるようになります。

1 自分の笑顔の点検

自分の「ハーフスマイル」を撮影して、いちど点検+改善してみてください。

点検するポイントは、あなたの表情が「ハーフスマイルの条件」にあっていて、「ぎごちなく不自然な笑顔の特徴」に当たるところがないか、ということです。

ぎごちなく不自然な笑顔の特徴に当たるところがあったら、【対処法】にしたがって、改善をはかってください。

ハーフスマイルの条件

1 上の歯が6本、きれいにのぞくくらい口を開ける(スマイルライン)

2 両口角が上がることで頬の筋肉が高くなる

3 頬の筋肉が高くなって目元を押し上げ、目元が少し緩む

 

ぎごちなく不自然なハーフスマイルの特徴

●下の歯が大きくのぞいている

口角が上がると、本来は下の歯は見えにくくなります。それが見えているということは口角がうまく上がっておらず、口を横に開けている状態と思われます。これは下アゴを下げるような力がかかっていることが多いようです。これだと口がこわばっているように見えて魅力的ではありません。

【対処法】下アゴをリラックスさせて力を抜くこと。そして口上部のほうを意識して自然に口角を上げてください。

●口角は上がっているが、鼻の下の部分が緊張している

口角を上げると自然に鼻の下の部分が縮まるのですが、緊張してこわばるといると、その部分が不自然に伸びていることがあります。その状態であると、口角が上がっていたとしても魅力的に見えません。また、上唇が不自然に前歯を隠してしまい、下の歯が余分に見えることもあり、きれいなスマイルラインが作れません。

【対処法】鼻の下をリラックスさせて、自然に口角を上げてください。

●目を見開きすぎている、目尻にシワが全く寄っていない

自然に笑うと、口角が上がり、頬を押し上げ、押し上げられた頬が下まぶたを引き上げます。そうすると、目を少し細めた状態になります。ですから、自然な笑顔では、目は虹彩の一部が上まぶたと下まぶたで隠れ、目尻が下がり気味になり、多少シワがあるのが特徴になります。しかし、自然に笑えていないと、目が緊張で見開かれたようになることがあり、虹彩もはっきり見えて目尻にシワも感じられません。

【対処法】笑顔を作ったら、いちど完全に目を閉じて徐々に開けていってください。ちょうど良い笑顔で見えるところまで開けてみて、その感じをつかみましょう。

 

●眉尻が下がっている、眉根が寄っている

自然に笑うときは、眉も自然になだらかに上がった状態です。しかし、顔の一部に不自然な緊張があると、眉尻が下がり「困り顔」のような表情になることがあります。また、顔に力が入りすぎ、眉根を寄せて「当惑顔」になることもあります。

【対処法】顔にかかっている力を一度ぬいてください。気楽な感じで「にっこり」「チーズ」と自分に声かけをしながら笑顔を作ってください。

 

2 笑顔モデルを見つける

 

この人の笑顔は良い、真似したい、と思う人物を探してみてください。日頃から「魅力的」と思う具体例を観察することで、脳がモデリングする効果(無意識下でパターン学習・模倣が起きること)が期待できます。

モデルとするなら、魅力的な俳優やタレントがいいと思います。なぜなら、画像や動画などサンプルが豊富だからです。先輩や上司など身近な人をモデルにするのは悪くないことですが、そういう人をあまりじっと見ると変に思われないでしょうか。そういうことから身近な人をモデルにすることは難しいことが多いかと思います。

 

3 口角、頬、目元を同時に動かす動きをエクササイズとして行う

「ハーフスマイル」の説明では、1〜3のポイントを段階的に説明しましたが、本来自然な笑顔はすべての動きが同時に反射的に起こります。

表情の研究家によると、不自然な笑顔の最たるものは、ハーフスマイルの条件でもある「口角」「頬」「目尻」の動きが微妙にずれることだそうです。不自然な場合は、先に目だけ細めたり、逆に口だけ先に笑う形になったり、と統合されていない動きになるようです。それを防ぎ、自然反射的に笑顔を人に向けられるよう、口角、頬、目元を同時に動かす練習をしてみてください。

 

 

【もう一度繰り返します】ハーフスマイルの条件

1 上の歯が6本、きれいにのぞくくらい口を開ける(スマイルライン)

2 両口角が上がることで頬の筋肉が高くなる

3 頬の筋肉が高くなって目元を押し上げ、目元が少し緩む

 

4 笑顔で話す=口角を上げた発音練習

 

口角を上げて言葉を話す練習も加えましょう。

礼儀正しい人は、口角を上げた状態で普通に話せます。単に「こんにちは」「初めまして」というだけでも、相手に与える印象が格段に良くなるのです。また、口角が上がった状態で声を出すと、耳で聞いただけでも「声が笑顔を含んでいる」と思わせるような、感じの良い声となります。

これは、余裕や落ち着きを感じさせる話し方につながることから、単純な好感度だけでなく、リーダーシップを発揮する時にも効果があります。

 

 

エクササイズの行い方

1) 口輪筋エクササイズ

まず、基本的な口輪筋のエクササイズで口の周りを柔軟にしてください。

 

2) 発声練習

鏡を見ながら、発声練習を行ってください。

「あえいうえおあお」「かけきくけこかこ」

「させしすせそさそ」「たてちつてとたと」

「なねにぬねのなの」「はへひふへほはほ」

「まめみむめもまも」「やえいゆえよやよ」

「られりるれろらろ」「わえいうえをわを」

これは日本語の発声練習ですが、英語をよく使う人なら、アルファベットや英語の早口言葉/tongue twister で行っても良いです。

 

 

3) 表情のチェック

発声を始めると、表情がおろそかになります。これはあくまで表情のエクササイズですので、鏡を見ながら自然で魅力的な表情になっているかどうかにフォーカスして行ってください。

 

 

以上が笑顔のエクササイズです。全部やるのは大変だと思いますが、できれば気楽な気持ちでチャレンジしてください。一度でもこなしていただけると、顔の筋肉が柔軟になり、魅力的な笑顔に対応する準備がだいぶ整うはずです。

 

 

いかがでしょうか? 普通にできていると思うことも多い笑顔ですが、実はそんなに皆ができているわけではありません。ですから、「笑顔がいい」と人の印象に残る人は、やはり特別感があるのです。

ふだんからにこやかな人、ふだんは近寄り難いのに笑ったら素晴らしく魅力的な人、どちらでも「笑顔」が人の心に残るようにしてください。